表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

118/124

選択肢

『引きこもり』第一巻発売まであと5日!


「久しぶり……ってほどでもないかな、こんにちはアリス」


「ええ、ミクの方は元気そうね」


 勝が女帝エミリアと茶会(というかエミリア陛下の慰安酒盛り)をしている間、未玖は一人グルスト王国は首都グリスニア城にある王城、グリスニア王城へとやってきていた。


 未玖とアリシアの二人は、実は召喚した側の王族とされた側の勇者にしては異様なほどわりと仲が良かった。


 聖教の都合に振り回されることになった未玖と、王族という血に振り回されることになったアリシア。二人の境遇が近かったのも良かったのかもしれない。

 未玖とアリシアは勝と合流するまでの半年ほどの間に、週に一、二度くらいには定期的に会って話をする仲になっていた。


「とりあえず上手くいったわ……なんとかなって良かった」


「あら、それなら良かったわ」


 勝が連れてきた未玖と話し合いをするのにも今ではもう慣れたもので、いざという時に誰かがやってきてもいいよう、未玖をドアから死角になる位置に配置しながらの対話だ。


 ちなみに本当に誰かが入ってきそうになった時には、未玖がベッドの下に入る手はずになっている。

 アリシアの部屋にはめったに人が来ないという悲しい理由で、今まで一度としてそうなったことはないのだが。


「今回は私もかなり無理をしたので……バレた時のことを考えると、少し憂鬱です」


「大丈夫、その辺りは勝が上手くやってくれるはずよ。むしろアリスのおかげで上手く帝国から支援を引き出せた……みたいな感じになるはず」


「うーん……もしそうなったとしても手柄は全部取られて、独断専行で使節を送ったことに対してのお咎めだけ受ける感じになるでしょうね」


「流石、あの二人はそういう姑息なことに関しては右に出る者がいないね」


 公式な王国からの使節ということになっている未玖がアリシアと上手く口裏を合わせるため、今は定期的に会う機会を設けるようになっていた。


 未玖が勝の『自宅』ギフトのおかげで行き来が楽になったため、以前……まだ未玖が聖女として扱われていた時よりもその頻度は高い。

 更に言うなら、以前の未玖は周りに常に聖教の人間がいるせいであまりうかつなことを言えなかったが、聖女としての立場を捨てた今は誰に忖度することもなく好きなことを言える。

 アリシアとしてはヒヤヒヤもののセリフも多いため、彼女が時折冷や汗を掻いているのはここだけの秘密である。


 ちなみにアリシアは、自分の父と姉が好き放題言われていることに関しては特になんとも思っていない。

 むしろ自分もあの二人に対して思うところも多いので、アリシア的にはよくぞ言ってくれましたといった感じであった。


「アリスには無理を言っちゃったわね。ごめんなさい」


「いえ、元を糾せば父上達の不始末が原因ですから……未玖が殺されかけたせめてもの償いになっていればいいのですが」


「だから何度も言ってるじゃない。悪いのはアリスじゃなくて、あのクソ国王だって」


 アリシアは今回、誰の許可を取ることもなく勝手に未玖達に使節として動く許可を出した。 外交使節を出す権利は一応王族が持つ権利の一つとはされているものの、事前に裁可を仰がれていないイゼル二世やミーシャはこれを知れば間違いなく激怒することだろう。


 アリシアは常日頃、積極的に政治に関わろうとはしていなかった。

 彼女は自分が姉のスペアであり、同時に政略結婚の道具として何も言わずに他国へ嫁ぐことを誰からも求められているという自分の立場を、しっかりと理解するだけの賢さがあるからだ。


 アリシアはきちんと理解していたのだ。

 彼女がもしミーシャのように積極的に動いていれば、自分の立場を脅かされると考えたミーシャによって、次の日の朝が拝めなくなる可能性が高いことを。

 故に彼女は自分から動くことはほとんどしてこなかった。


 けれど今回、アリシアは常に政治に関わろうとしない彼女にしては珍しく、未玖に自身の名を使って神聖エルモア帝国の皇帝と会う許可を出した。


 立場がない状態で行けばまず謁見の許可が出るはずもなく、だからといって強行突破でもしようものなら問答無用で処刑されることが、火を見るよりも明らかだったからだ。


 重たい腰を上げたのにはもちろん理由がある。


 あちら側の事情を気にせずに勝手に行われた、異界からの勇者召喚の儀。

 そして未玖から直接聞かされることになった、『騎士の聖骸』での暗殺騒動。


 この国は腐っている。

 前々から知ってはいたつもりだったが、それを改めて理解させられた気分だった。

 将来的に見て戦力になるであろう勇者達をこの王国に置き続けることは、父や姉を除けばほとんどの人にとって得にならないだろう。


 であれば勇者達を、人類にとって有効活用してもらえる帝国へ送るというのはせめてもの義務。

 これは彼女が王族としてではなく、自分の手で選び取った一手であった。


「なんにせよ……良かったですね、ミク」


 当然こんなことをすればただでは済まないと言うことも、彼女は理解している。

 恐らくは帝国からの連絡が王国へ届くまでが、自分に残されたタイムリミットだろう。

 ある種悟りの境地を開きながら、アリシアは残された人生を楽しむべく未玖との話に花を咲かせていたのだ。


「うん、とりあえず帝国の皇帝様が思ってたより大分話ができそうな人で助かったよ。あ、それでこれからの話なんだけどさ」


「これからの話……ですか?」


 ただアリシアは、真の意味で理解していなかった。

 自分が手を貸した相手が、一体誰なのかを。

 そして彼女の隣に、誰が立っているのかということを。


「多分だけどこれから行われるっていう魔族との会談で色んなことが起こるじゃない? 一応私的には、そこで二つの選択肢があると思ってて」


「魔族の手を取るか、取らないかということですか?」


「ううん、国としてじゃなくてアリシアの話だよ。――アリシアが王になるかならないか」

【しんこからのお願い】

この小説を読んで


「面白い!」

「続きが気になる!」


と少しでも思ったら、↓の★★★★★を押して応援してくれると嬉しいです!


あなたの応援でランキングが上がれば、発売前により多くの方に今作を読んでいただくことができるようになりますので、よろしくお願いします!


また……新作を書きました!

↓のリンクから読めますので、そちらもぜひ応援よろしくお願いします!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ