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言質

『引きこもり』第一巻発売まであと6日!

「マサル様、こちらへどうぞ!」


「あ、はい……」


 帝城ノヴァークへやってくると、ものすごい勢いで騎士らしき人が飛んできた。

 彼に連れられ、中へと入っていく。


 帝城の中は広く歩く旅に色々な通行人の人達とすれ違うんだけど、そのほとんど全員からものすごい恭しい感じで頭を下げられる。


 俺って一体どういう扱いになってるんだろう……触るとキレるジャックナイフとか、ところ構わず魔法をぶっ放す爆弾魔みたいに思われてないよね?

 なんかちょっと怖くなってきた。


「マサル様、こちらへ」


「……了解です」


 以前来た時は客間で結構な時間待たされたんだけど、今回は部屋に入ることなくそのままノンストップで歩き続けるみたいだ。

 これって間違いなく皇帝陛下直通ルートだよね?

 俺、何か選択肢を間違えた?

 また俺、何かやっちゃいました?


 向かう先は謁見の間……ではなく帝城の裏側にあるらしい庭だった。

 どうやら茶会ということもあり、そこまで格式高い感じにはならないらしい。


 現れたのは綺麗に刈り揃えられた樹木と芝生。

 視線を上げればそこに巨大な日傘と、その下に並んでいるテーブルセットが見える。

 そこに座ってこちらへひらひらと手を振るのは、以前私室で見た時よりも更にラフな格好をしているエミリア陛下だった。


 麦わら帽子に、綺麗な白のワンピース。

 女王陛下というには清楚すぎる格好が、陽の光を浴びてとっても眩しい。


「どうも女王陛下、ご機嫌麗しゅう……」


「前回と違って、今日は完全に私的な場だ。マサル殿も楽にしてくれて構わない」


「えっと……それじゃあ、遠慮なく」


 対面に座ると、すぐに紅茶が出てくる。

 なんたらかんたらという地域のなんたらかんたら茶葉らしい。


 執事っぽいナイスミドルに説明をされたが、言っていることの七割くらいは意味がわからなかった。

 ただこういうところで無知を晒したらバカにされるのが貴族社会だと思うので、とりあえずふんふんとそれっぽく頷いておく。


 紅茶を冷まし、音を立てないよう気をつけて飲む。

 うん、おいしい。

 自宅にあるティーパックの紅茶はたまに飲んでたけど、さすがにレベルが違う。


 渋みや苦みみたいなものがなくて、その代わりに茶葉の持つフルーティーさとかフレッシュさみたいなのが前に来ていて非常に飲みやすい。


「美味しいです」


「それは良かった。帝国内で、個人的にもベスト5に入るくらいには気に入っている茶葉なんだ」


(……あれ?)


 陛下と話していると、なんだか少し違和感を覚えた。

 何か変なんだろう……そうか、口調か。

 前に会った時より口調が固めなんだ。


 私的で口調が固くなるってどういうこと?

 これが帝国流の砕けた表現的なあれなのかな?


「ふふっ、私のしゃべり方がそんなにおかしいか?」


「最初の時とは随分違うので、少し違和感がありまして」


「私に求められている役割は仁君だからな。基本的に慈悲ある女帝としてなるべく女性らしい振る舞いをしているに過ぎない」


「な、なるほど……」


 仁君と覇王がある程度規則的に交替する神聖エルモア帝国は、現在は仁君であるエミリア陛下によって治められている。


 そのため彼女も他の家臣達の前では、仁君と見られるような立ち振る舞いを続けなければいけないみたいだ。

 なるほど、皇帝というのも楽じゃないね。


「でも今って魔族との戦いが激しくなってるって聞きますし、別に覇王ポジでも良かったんじゃないんですか?」


「うむ、それはその通りだ。だから武威に秀でている者が出ていれば話は違ったのだが……今回の王族候補は全員が仁君寄りの者達ばかりだったのでな。その中では私が一番優れていたから、皇帝になったというわけだ。私は自分で言うのもなんだが、戦術や戦略に関する造詣はあまり深くなくてな。専門は内政分野に限られている」


 まあでも、考えれば仁君の方がいいのかもしれない。

 冷静に考えると、これだけデカい国の皇帝が戦場で前線に出て力を振るうとか正気の沙汰とは思えないし。


 そうなってくると覇王の時の皇帝がどんな人なのか、気になってくるな……。


「歴代の覇王でも有名な人とかだと、どれくらい強かったんでしょう?」


「今より数百年ほど前の武王ロセス八世は拳で地面を割り、魔法で津波を引き起こしたと言われているな」


「すっご……」


 自分でも相当強くなったと思っているけど、流石にそこまでの芸当は今の俺でも無理だ。

 強力なギフトの力なんだろうか。

 それともいくつもスキルを極めまくったら、最終的にはそのあたりの領域までいけるようになるんだろうか。


「まあそのレベルの傑物が出なければ覇王となることはない。故に帝国の屋台骨を作るのは我ら仁君だ。それに仁君の治世だからといって必ずしも軍事力が落ちるかと言われれば、そんなこともないのだぞ?」


「圧倒的な個よりも、組織化された軍隊の方が強いって感じですかね」


「……う、うむ。流石マサル殿、よくわかったな。魔族や魔物達との戦いは基本的には集団対集団の戦いになることが多い。故に圧倒的な個の力で周囲を制圧することよりも、連携した軍団を有機的に動かした方が結果として損失が少なくなるのだ。兵站維持や経済的な部分からの間接支援も案外バカにできるものではない」


「なるほど、わかります。古来より兵站で詰んで死にかけたりする軍隊は多いですもんね」


「わかってくれるか、マサル殿。そうなのだ、魔族というのは我々よりはるかに肉体が強靱で、そもそもまともに農耕をしている地域自体極めて少なく……」


 どうやらエミリア陛下も色々と溜まっているらしく、苦労話が次から次へと出てくる。

 そりゃ当たり前だけど皇帝という仕事ははちゃめちゃに大変なようだ。


 兵站を軽視する将校や将軍達が飢えることがないように物資を補給したりするのには特に骨が折れるらしい。


 魔族相手だと食料を現地調達というのも難しいらしく、補給が上手くできないとあっという間に干上がってしまうんだとか。


 俺は歴史小説や軍事学の本を読んだりするのは好きなので、ある程度なら話にもついていくことができる。


 戦争で一番大切なのが補給っていうのはよく言う話だしね。

 え、自国からのまともな補給も無しに敵国で何年も暴れたハンニバルみたいな例もあるって?


 あれはチートだからノーカンです。

 二十一世紀にも未だにやってけてた理由がわかってないとか、武力チートも大概にしやがれって話だしね。


「戦時下とはいっても、それで経済が下火になっては意味がない。なるべく経済が滞らないようザルツブルグとの貿易量は以前よりも増やし、冬に領民が飢えて死ぬことがないよう公共事業を行い街の防壁を強化していって……」


「な、なるほど……」


 話を聞いているとエミリア陛下の考え方はかなり近代的で、俺達地球で暮らす現代人と遜色がないレベルの視点を持っているように思える。


 荒事に関しては完全な門外漢らしく、パラメータも完全に内政に振り切っている感じのようだ。


 彼女自身自分のような視座を皆に持ってほしいと思っているみたいだけど、その考え方を帝国全体に普及させるのにはなかなか手を焼いているらしい。


 相当にストレスが溜まっていたのだろう。

 気付いたらワインを手に取っていた彼女は、お酒を飲んでますます饒舌になりながら怒濤のように話し続けた。


 その中には聞いていてこっちが冷や汗を掻きそうになる、『え、それって国家機密なんじゃないの?』って話なんかも多々あり、俺としては聞かなかったことにして聞き流すしかない。


 そんなことを一介の平民である俺に話さないでほしいんですけど!


 まあ皇帝とサシでお茶をしている時点で今更な気もするけど。

 ……そっか、俺って今皇帝とお茶飲んでるんだ。

 そう言われると急に現実味がなくなってきた。


 ちなみにほっぺをつねってみると痛かった。

 うむ、紛れもない現実である。


「……ぷっ、どうしたのだ、マサル殿」


 頷いていると、なぜかエミリア陛下から笑われてしまった。

 夢か現実か確かめるために頬をつねるという方法は、帝国では普通ではないみたいだ。


 なんだか少し恥ずかしくなってきたので、とりえあず目の前にある焼き菓子を食べることにした。

 皇帝の口に入る可能性があるんだし、間違いなくどれも超がつくほどの高級品だろう。

 せっかくだし異世界のパティシエの実力を確かめさせてもらおう。


「おいしい……」


 粉で口の中の水分が全部持って行かれたり、とにかく大量の砂糖を使って少し食べるだけ胃もたれするくらいに甘い、なんてこともなく。

 クッキーは一枚一枚が驚くくらいに上品で、ほどよい甘さをしていた。


 クリームがたっぷり塗られているシフォンケーキも、食べていて驚くほどにくどくない。 食事は文化の発展度を示すだなんて話を以前どこかで聞いたことがあるけど、その話が事実なら帝国ってめちゃくちゃ発展してるってことになりそうだ。


 未玖が自宅のご飯であれだけ喜んでたってところから考えると、ひょっとするとこれだけすごい食文化があるのは帝国だけなのかもしれない。


 あ、もしかして俺達より前の勇者達も同じように帝国から保護されていて、そこから多様な食文化が開いたり……なんてパターンもあったりするんだろうか。


「すぅ……むにゃむにゃ……」


 なんて、異世界のスイーツ事情について頭を巡らせているうちに、気付けばエミリア陛下は机に突っ伏して眠ってしまっていた。

 その横には空になったワインの瓶が置かれている。

 え、嘘でしょ、もう一本飲み干したの!?


「すみません、陛下が迷惑をかけてしまったようで」


「い、いえいえ、お気になさらず!」


 眠っているエミリア陛下を見ると、気付かないうちに肩にタオルケットが掛けられていた。

 い、いつの間に……恐ろしく早いタオルケット、俺ですら見逃しちゃったね。


 ナイスミドルの執事さんの動きが滑らかすぎる。

 いくつもスキルを持ってて、それを全て仕事に活用している感じなんだろうか。


「陛下がこれほどはしゃがれていたのは久しぶりです」


「は、はぁ、そうなんですか」


 どうしてそんなに面識がない俺を相手に……って、逆か。

 面識がないし、もっと言えば俺がこの世界の人間じゃないからなのかもしれない。


 中世ライクなこの世界では王権っていうのは絶対だ。

 一応敬語は使ってるけど敬意とかを大して持ってない俺が相手だと、色々と話しやすかったりするのかも。


 しかし、もっとクラスメイト達の受け入れとかの真面目な話をするつもりだったんだけど……ただ陛下の愚痴を聞くだけの時間になってしまった。


 ……まあ、こういうのもいいか。エミリア陛下と仲良くなっておいて損はないしね。

 帝国がぐらついたりしたら困るし、その一助になるんなら話くらい聞くことはなんでもない。

 大国の王様っていうのはきっと俺じゃ及びもつかないくらいのストレスが溜まるんだろうし、愚痴くらいならいくらでも付き合いますよ。


「むにゃ……言質、取ったからな……」


「――えっ!?」


「すぅ、すぅ……」


「……なんだ、寝言かぁ」


 寝言……だよね?

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