答え
魔族はそのまま、エミリア陛下を護衛していた帝国騎士達へ引き渡すことになった。
その場で話をするのかと思ったが、俺達は一旦休憩をもらい、そのまま陛下の準備ができ次第再度謁見の間へと呼び出される形になった。
向こう側としても考える時間がほしいだろうということなので、こちらとしても問題はない。
今回は一応、使えることがわかるだけで問題になりかねないグングニルやジャッジメントレイみたいなLV10魔法は使わずに済ませたんだけど……もしかすると、ジョウントを見せたのもやりすぎだったかな?
「勝、やりすぎ」
「はい、ごめんなさい」
どうやらやり過ぎていたようだ。
これでも力はかなり抑えたんだけどなぁ。
陛下の近くにいた未玖は、とんでもなく狼狽しているエミリア陛下の様子をしっかり見て取ることができたという。
帝国を束ねる彼女をして、俺の戦闘能力は驚嘆に値するものだったようだ。
まあこちとら日々トレーニングルームで鍛えたLV200越えですからね。
でも下手に王宮の中を壊したり、人質を取られたりしたら大変なことになってたと思うから、他にやりようはなかったと思うんだけど……。
「下手な交渉や説得なんかは効かなかっただろうし、これくらいインパクトがある方が良かったと考えることにしよう、うん」
この世界に来て強くなってからは、自信がついたせいか、あまり後先を考えずに行動することが増えた気がする。
最悪『自宅』のギフトで別の場所に逃げればいいかと思っちゃうからね……これが大人になるってことなんだろうか。……いや、そんなわけないな。
「あの魔族って、どれくらい強かったんだろうね」
「うーん……飛翔能力があったことを考えるとワイバーンくらいにとすると……今の未玖なら良い勝負できるくらいじゃないかな?」
通常魔族は、一体を相手にするだけで騎士が何人も必要になるような難敵だ。
何せ前線に魔族が何人も出てくると、それだけで戦局が変わるって話だし。
圧倒的LV差の前では、瞬殺なわけだけど。
今の俺が最前線で戦えば、魔族の百人や二百人なら蹴散らせるような気がする。
いっそのこと俺が魔族との戦争を終わらせれば……っていうのは流石に早計か。
この世界には聖骸の騎士みたいな化け物も存在する。
魔族側にもあれや今の俺みたいな決戦戦力もいるだろうし、あんまりうかつに前に出すぎたりはしたくない。
と、そんなことを考えているうちに呼び出しがかかった。
さて、エミリア陛下はどんな答えを聞かせてくれるんだろうか。
「顔を上げてください、マサル殿、ミク殿」
目の前にいるエミリア陛下は、出会った時と同じくキリッとした表情をしている。
ゴテゴテとした玉座に座っている彼女は立ち上がると、
「マサル殿、一つよろしいでしょうか?」
「はい、なんでしょうか?」
「現在あちらにいる勇者達は、皆マサル殿と同じだけの力を持っているのでしょうか?」
やっぱり気になるのはそこだよね。
俺みたいな勇者が何人もいるとなれば、それだけで国のパワーバランスがひっくり返りかねない。
グルスト王国とそこまで関係が良くない神聖エルモア帝国とすれば、死活問題になりかねないだろう。
「……いえ、正直なことを言えば今は自分が圧倒的に強いです。けれど皆鍛えようによっては今の自分くらいには強くなると思います。具体的には、そうですね……二年もあれば十分かと」
彼らがどれくらい強くなっているかはわからない。
けど強くなれるという言葉自体は、嘘ではない。
何せ俺には、他人を鍛えることのできるトレーニングルームの力がある。
『自宅』のことをバラすことにはなるが、クラスメイトの皆を招いて毎日各種ステータスを上げてもらえば、今の俺くらいのステータスに育てることは可能なのだ。
実際未玖にも、それくらい強くなってもらうつもりだしね。
「二年、ですか……勇者の力は、それほどに……」
というかトレーニングルームでみっちり鍛えさえすれば、別にクラスメイトじゃなくても二年もあれば今の俺レベルに強くできるんだよね。
あれ、そう考えると勇者の力というより『自宅』のギフトがチート過ぎるだけのような気が……これ以上考えるのはよしておこう。
「グルスト王国はその力を使い、既に魔族の討伐を始めています。今はまだ勇者がさほど強くないから問題はありませんが……仮に魔族討伐が無事終わった後、勇者達の力がどこに向けられるのか。それを考えれば、僕達の提案も一考に値すると思うのですが」
「ええ、そうですね。面倒な言い回しは手間なので、単刀直入に申し上げます。私達神聖エルモア帝国は――グルスト王国との関係性の悪化を考慮した上で、異国の勇者様方全員を保護することを約束致します」
そう言うと、エミリア陛下は再び玉座に座る。
彼女の顔には、少しだけ疲れが見えていた。
その疲れの原因は間違いなく俺達なので、なんだか申し訳ない気分になってくる。
「正直に言えば、今の私達にマサル殿をどうこうできるだけの余力がありません。勇者さえ保護すればあなたが味方に回ってくれ、なおかつ後の災禍の芽を取り除けるというのなら……受け入れない理由がございません」
このアリステラは、力こそパワーな剣と魔法の世界。
色々考えて頭脳プレイをやって失敗続きだったけど……まさか強引なパワープレイが正解だったとは、流石に想像してなかったよ。
こうして俺達は紆余曲折を経ながらも、無事神聖エルモア帝国への亡命の受け入れの許可をもらうことができた。
これで一番の難所を乗り越えられたはず。
もちろんまだまだ先は長いけれど……今日は成功を祝って、未玖と一緒にささやかなパーティーを開くことにしよう。