魔族
メイドさんが大きく身体を震わせたかと思うと、背中から二本の翼が突き出てきた。
鳥というよりコウモリのそれに近い、黒く角張った翼だ。
次いでビリビリと音が鳴ったかと思うと、お尻の辺りからサソリのような先端の尖った尾が飛び出してくる。
「――しっ!」
メイドさんは滑空しながらこちら目がけて駆けてくる。
武器をどこかにしまっていたのかと思い構えると、爪の先端が鋭利な刃物のように伸びるのが見えた。
人と魔物の反応があるから一体どんなやつなんだろうと思ってたけど……なるほど、これが魔族なのか。
爪がこちらの喉元をえぐるその直前、再度のジョウントを発動。
俺は短距離転移をして、魔族の真上に飛んだ。
「まずはその翼、もらうよ」
俺はまだ、風野郎が使っていた飛行魔法を会得できていない。
空中戦闘の勝手もわからないし、今回はとりあえず相手の飛行能力を削がせてもらう。
手に握るのは、聖骸の騎士が使っていたあの白い剣だ。
相手の強さがわからないので、とりあえず今持っているもので一番強いのを使わせてもらう。
いきなり真上に来るとはわからなかったらしく、完全に無防備になっている魔族の背中へ剣を振り下ろす。
まったく抵抗なく、バターでも切るかのようにスパッと翼が落ちる。
「ぐうううっっ!?」
何をされたのか理解できず痛みに呻く魔族。
勢いよく剣を振りすぎたせいで、ちょっと下に下がりすぎてしまった。
空中戦の練習がてら、色々試してみようか。
魔族の実力も気になるしね。
こちらに目がけて飛んでこようとする魔族。
ただ翼がないからか、先ほどと比べるとかなり動きは緩慢だ。
こちらに向けて手をかざしている。
もしかして魔法を使おうとしているのかな?
魔力感知を使い魔力の高まりを感じた瞬間に、ジョウントを使って魔族の背後に回る。
すると視界の端で、赤黒い爆発が起こるのが見えた。
あれは多分……火魔法だよね?
でも俺が使うのとは少し感じが違うような……人と魔族で使える魔法にも違いがあるんだろうか。
ピクッと尻尾が動いたかと思うと、魔族が驚きの形相でこちらに振り返る。
かなり感覚も鋭敏……魔力感知スキルあたりも持ってるのかな。
「ライトニング」
まずは雷魔法の中でも一番弱いライトニングを使う。
今度も魔族とは何度も戦うことになるだろうから、ある程度は耐久度の確認もしておかなくちゃいけないからね。
俺は小さな雷を相手に飛ばすくらいの感覚で放ったつもりだった。
だが実際にライトニングを使ってみると……自分が想像していた五十倍くらいデカい白い稲光がものすごい早さで魔族へ向かって飛んでいったのだ。
「ぐうっ!?」
俺は小手調べのつもりで打ったんだけど……一発食らっただけで、魔族の女性はかなり痛そうにしていた。
全身からもプスプスと煙が出ていて、明らかにかなりのダメージを負っている。
え、えぇ……これ、LV1で覚える初級の魔法のはずだよね?
戦闘中だし最初の頃みたく普通に使ってみたんだけど……魔法攻撃力が上がりまくってる今だと、もはや別物じゃないか。
重力に従って落下をしているせいで、頭が下を向いてしまう。
気付けば地面がすぐそこまで近づいていた。
再びジョウントを発動し、地面の近くに転移して着地。
対しダメージを負っていてそれどころじゃなかった魔族の女性は、そのまま頭から地面に衝突した。
土煙が舞うが、魔力感知のおかげで敵の居場所を見失うことはない。
ポケットの中から硬貨を取り出し、レールガンを打てるように準備を整えるも、まったく反応がない。
まさかと思い風魔法を使って煙を散らしてみると、そこには……
「きゅう……」
ライトニング一発で完全にダウンしてしまった魔族の女性の姿があった。
えーっと、もしかしてなんだけど……俺って『騎士の聖骸』で、LV上げすぎちゃった?
「……」
見れば少し離れたところで、周囲に護衛を囲まれたエミリア陛下の姿がある。
彼女はあっけにとられた様子で、こっちを見つめていた。
……と、とりあえず俺の実力を見せるってことには成功したよね!
攻撃魔法もほとんど使ってないし、やりすぎてもいない!
うん、だから失敗じゃないよ、失敗じゃ!
「……(じーっ)」
こっちをもの言いたげな目で見つめる未玖の視線にだらだらと汗を掻きながら、俺はなんとかしてこの場を取り繕うべく、アイテムボックスから取り出したロープで魔族を縛るのだった。
……どうしよう。
エミリア陛下になんて言われるか、今から怖くなってきたよ……。
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