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提案


 次の日、起きると当然ながらMPは完全に回復していた。


 そしてMPの最大値も2ほど上がり660になっていた。

 最初の頃と比べると伸び幅は小さくなったが、やはり毎日着実にMPは増えている。


 この調子でいけば、MPを使い切れなくなるような日がやってくるのも近いかもしれない。


 目覚ましは早めにかけていたので、出ていくのは朝の六時だ。


 人目のつきにくい路地裏とはいえ、ドア設置の場所が以前よりずいぶんとしっかりと固定できることに気付いた。

 どうやら俺が入っていったあの壁のあたりから出ることができるようだ。

 確認のためにもう一度出てから入ってみても、やはり問題なく入ることができた。


 となると初めて出た時に王都近くと指定したにもかかわらず草原に出たのは、一体どうしてだったんだろう。

 異世界に初めて降り立つから、上手く座標を指定できなかった……的な感じなのかな?





 様々な依頼が張り出されるギルドは、基本的には二十四時間営業だ。


 ギルド職員さんはしっかり休めているんだろうか、などと考えながら中へ入ると、恐ろしいことに受付には昨日もいたはずのメリッサさんの姿があった。

 どうやら異世界では、労働基準法などというものは存在しないらしい。


 依頼掲示板に行って受けられそうな依頼を探しに行こうとすると、ちらっとこちらを向くメリッサさんと視線が合う。


 挨拶代わりに小さく会釈をすると、彼女はちょいちょいっと手招きをしてくる。

 近寄っていくと、昨日の営業スマイルよりもいくらか自然な笑顔で俺のことを出迎えてくれた。


 なるほど、これはたしかに破壊力抜群だ。

 メリッサさんにアタックしようとする冒険者の気持ちも、少しわかる。


「マサル様、昨日ぶりですね。ぐっすり眠れましたか?」


「はい、おかげさまで。今日は依頼を探しに来たんですが……もしよろしければ、色々と教えていただけませんか?」


「もちろんです! この時間帯のギルドは暇ですからね、時間も有り余ってますし、手取り足取り教えちゃいますよ……それなら私も、楽できますし(ぼそっ)」


 俺の異世界イヤーは、ぼそぼそという後半のつぶやきまでしっかりと聞き取っていた。


 俺が驚いていると、それを見たメリッサさんが自分の小声が聞こえていたことに驚いていた。

 お互い目を見開き……


「ぷっ」


「あははっ」


 どちらともなく笑い合う。

 最初はかなりお堅い人だとばかり思っていたけど、メリッサさんは結構面白いお人のようだ。

 

 お互いの利害関係も一致したことなので、説明を聞かせてもらう。

 メリッサさんはわざとらしくうぅんと喉を鳴らしてから、


「えっと、それじゃあまず依頼の種類について説明をしていくわね……」


 




 何度も説明した経験があるからか、メリッサさんの語り口調はよどみなかった。

 依頼にはいくつかの種類がある。


 薬草やキノコ類なんかを採ってくる採取依頼。

 魔物を討伐する討伐依頼。

 誰かに頼まれて街の往来などで護衛を行う護衛依頼。


 主な依頼内容はこの三種類に分けられるらしい。


 当然ながら、危険度が高ければ高いだけ報酬が良い。


 昨日俺がいた草原には、結構色んな種類の薬草が生えている。


 特徴を覚えてから判別をして、しっかりと薬草を納品する採取依頼なんかが、駆け出し冒険者には人気が高いらしい。


 ただ薬草採取だけだとやはり稼ぎは少ない。

 一日かけて頑張ってみても雑魚寝の宿で泊まりながら一日二食でやり過ごすのがやっとということも多いというから、冒険者というのもなかなかに世知辛い。


「草原にはゴブリンやオークがちょろちょろいたと思うんですけど、それでも安全なんですか?」


「ダンビラ草原にいる魔物って、レンツの森に向かう冒険者に行きがけの駄賃として倒されることが多いの。森の奥の方にいるガイアウルフの毛皮なんかが高く売れるから冒険者もそちらにかなりの数が行っているし、魔物は自然と間引かれてることがほとんどなのよ」


 ……昨日数時間歩いていてゴブリンとオークに何度かエンカウントしたんだが、どうやらあれはかなり稀なことだったようだ。

 通常であれば草原で魔物に出会うことはまずないという。


「でも実は街道や草原での魔物を討伐してきたって素材を持ち込む冒険者はマサル君だけじゃなくて。最近似たような事例が増えてきてるのよね……」


「魔物達はどこから来てるんでしょう?」


「目撃例の魔物の生息地域から推測すると、多分森から出てきてると思うの。それが今までにないくらい、草原に出てきているんだと思うわ」


「出てきている理由はなんなんでしょう。何か強力な魔物から逃げるため、とかですかね……?」


「そうだったらマズいのよねぇ。レンツの森は稼げるから入ってる冒険者が多いのがせめてもの救いね。今は彼らが何か情報を持ってきてくれるのを待つことしかできないんだけどさ」


 とにかく今東側は不穏な感じらしいので、なるべくなら行かない方がいいと思うと、メリッサさんがアドバイスをしてくれる。


 ぶっちゃけるとあそこなら適当に魔物と戦えそうだなぁと草原で討伐依頼でもこなそうと思っていたんだけど……危険がありそうなら避けといた方がいいか。


 でもそれならどうするのがいいかな。

 今の自分の魔法使いとしての力量を知るためにも、魔物とは戦っておきたいと思っていたんだけど……。


「もう、そんな顔しないの」


 顔に出ていたのか、メリッサさんが『しょうがないわね』といった感じで笑う。

 なんだか気恥ずかしくなり俯くと、笑い声が大きくなった。

 こういう視線はなんというか……苦手だ。


「一つ提案……というか、私的なオススメがあるんだけど聞いてみる?」


「はい、ぜひ」


「わかった。その前に一つ聞きたいんだけど、マサル君はある程度戦えて、かつ光魔法も使えるって認識で合ってる?」


「間違いありません」


 俺が力強く頷くと、メリッサさんは立ち上がり、それからペラリと一枚の依頼書を持ってきた。

 そこに記されていたのは……


「王都にあるダンジョン――『騎士の聖骸』へ潜ってみるっていうのはどうかしら?」

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