表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

109/124

異変


「勇者を帝国に引き込むことによってどんな利点があるかを、もっと詰めておくべきだったと思うの。あちら側に明確なメリットが提示できてなかったなって」


「たしかにその通りだね」


 エルモア帝国は大国だが、いくら力があるとはいえ全てを無視して好きな振る舞うことができるほど国力が隔絶しているわけじゃない。


 更に言うと彼らは横に長い領土のうち少なくない場所で、魔族と激突している。

 現在進行形で対魔族と戦っている状態で、これ以上新たな火種を抱えたくないはずだ。


 彼らからすればグルスト王国は自分達と同じく魔族と戦っている善戦の国の一つであり、仲良くしておきたいと思うのは、よくよく考えてみると当たり前の話なのである。


「でもまだ話し合える余地はあると思うんだよね」


「どうしてそう思うの?」


「エミリア陛下の口振りが、ちょっとおかしかったからね」


 こうして思い返してみると、同じくくつわを並べて戦っているにしては、陛下の言葉はとげとげしかった。

 思い返してほしい。

 陛下はなんと言っていた?


『ですがそれは……今ではないでしょう。私達帝国に王国と決裂してまであなた方を引き入れる必要があるかと言えば……否としか言えませんから』


 王国と決裂してまで引き入れたくはない。

 つまりそれは、王国と仲違いをせずに済むのであれば、引き入れるのもやぶさかではないということだと僕は思う。


 でも勇者を全員帝国に引き入れたら、間違いなく王国との外交問題になるだろう。

 そこを上手くなんとかするための手立ては、考えてみてもすぐに出てはこなそうだった。


「王国が勇者の引き渡しを認めるための条件、か……王国って帝国相手に無茶言ったりしてる?」


 まず最初に考えたのは、グルスト王国に恩を売ることだ。

 彼らの窮地を救い結果として大きな貸しを作ることができたら、貸し借りをナシにするためという形で勇者の引き渡しを認めさせることもできるかもしれない。


「イゼル二世は自分より強い相手にはきっちりとおべっかを使える人だよ。彼が容赦ないのは、あくまでも自分より弱い人にだけ」


「なんていう王様だよ、本当に……」


 冷静に考えてみると、あの強欲なイゼル二世とミーシャのことだ。

 恩を売ったとしても、平気で踏み倒してきそうな気がするのでこれはボツにした方が良さそうだ。


 話をしていた感じ、アリシア第二王女はすごくまともそうだったのになぁ。

 いっそのこと彼女に……って、それだとまた話が変わりすぎか。

 むむむ……。


「それなら帝国に恩を売るのはどうかな?」


「エミリア陛下を頷かせるほどのものってなると、なかなか難しそうだよね……」


 エミリア陛下の態度や言葉から察するに、彼女もイゼル二世やミーシャの自分勝手な態度にはほとほと呆れているようではあった。


 何かとっかかりがあれば突破口を作れるような気はするんだけど……。


「いっそのこと、勝の力を見せちゃえばいいんじゃない?」


「乱暴だけど、それも一理あるのが怖いところだよねぇ」


 このアリステラは剣と魔法の異世界。

 つまり要約してしまえば、実力さえあれば全てを黙らせることができる実力至上主義の世界だ。


 腕力で言うことを聞かせるというほど乱暴な話ではないけれど、俺に力があるというのを見せておくというのは交渉のカードとしては有効ではあるのだ。


 聖骸の騎士を倒した俺の実力は、ぶっちゃけこの世界でも上から数えた方が早いくらいには高い。

 更に言えば『自宅』の力を使って転移をすることも可能で、あらゆる魔法を使いこなすこともできる。


 テロリストになって帝国を潰してほしくなければ……と脅せば言うことを聞いてもらうことくらいならできる気がする。

 完全に悪役ムーブだけどね。


「それか俺達と組むことが、王国と組むより価値があるかもって思わせるっていうパターンもありかも。なんにせよ、なるべく荒事にはせずに、俺達の力が有用なことを示せれば最高なんだけどなぁ」


 アリシア王女の時と同じく帝城の中に潜入して直接陛下のところに向かったりしてみようかな?


 そこまでされたら、俺達の力を認めざるを得なくなるだろうし。

 でも大量の魔道具がある帝城の中に入るのは流石にリスクがデカすぎるし……うーん、どうすればいいんだろうか……。


 その日の話し合いはそれで終わりになり。

 次の日、何かとっかかりはないものかとフルで魔力感知を使っていたところで、俺は違和感を覚えた。


「これは……?」


「勝、どうかしたの?」


「うん、なんだこれ……」


 しっかり細かく確認しなかったせいで昨日は気付かなかったが、しっかりと魔力感知を使うと王城の中に妙な反応があったのだ。


 その魔力反応は――その何かが人であり、同時に魔物であることを示していた。

 初めて見る反応だ。


 こいつは一体……何者だ?

新作の短編を書きました!

↓のリンクから読めますので、ぜひ応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ