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ガッツ


 自宅に戻り、俺はとりあえずトレーニングルームに入る。

 もやもやが残っていたので、とりあえず運動に没頭することにしたのだ。

 下手の考え休むに似たり。

 とりあえずストレスを発散させてから、改めて考えてみるのがいいだろう。


 この世界に着てからのわりと運動漬けな毎日のおかげで、思考も脳筋に寄ってきている気がする。

 身も心もアリステラに順調に染まってきていると言えるかもしれない。


 汗を掻いてから自室に戻り、そのままシャワーに入ってからリビングに向かう。

 するとそこには料理の準備を万端整えて待ってくれている未玖の姿があった。


「実はこんなものがありまして」


 彼女の前にはアイスペールと、ぎっしりと入っている氷によって冷やされている一本のワインの姿があった。


「ちょ……俺達まだ未成年だよ!?」


「でもこっちの世界だと成人って十五歳だし、問題はないと思うよ? 御津川君だけじゃなくて聖川君も飲んでたくらいだし」


「そ、そういうものなのかな……?」


 純ジャパニーズの倫理観としてその辺に関しては結構な違和感があるんだけど、たしかに思い返してみれば御津川君も葉巻をふかしていたのを思い出す。


 でもそう言うのって身体に害があるんじゃ……と思ったけど、この世界には光魔法があるんだった。


 光魔法のキュアを使えば二日酔いも覚ますことができるのは、以前ベロベロになっていたバリエッタさんを解放した時に確認済みだ。


「私が治した人の中には、二日酔いがひどいからなんて馬鹿みたいな理由で頼んでくる人もいたんだ。そういう人に限って地位が高かったりするんだから、やってられないよね」


「ああ、なるほどねぇ……」


 聖教の回復魔法の施術はお布施額や俗世の地位によって受けられるレベルが大きく変わる。

 聖女である未玖のキュアを受けられるとなると、かなり立場のある人間だったんじゃないだろうか。


 そんな人の二日酔いを治すより、戦争で怪我をした兵士を治した方がよっぽどいいと思うんだけど……世の中というのは得てして、最適に動くものではないからなぁ。


「地下に結構な量のお酒があったよ。勝ももう見たでしょ?」


「あ……いや、見てないな」


 父さんは一般的なサラリーマンとしてたしなむくらいには酒を飲むのが好きだった。

 更に言うと母さんは、専業主婦なのに毎日晩酌するくらいにはお酒が好きだった。


 おかげでうちには結構な量のお酒が用意されている。

 台所のカーペットをめくったところにある上蓋を開くと、数畳ほどのお酒を置く用のスペースがあるのだ。


 ただ俺は酒自体ほぼほぼ飲んだことがないため、当然のようにそこに触れていなかった。 というか、今の今まで忘れていた。


「こんなものあったし……色々あるみたいだよ、一緒に見にいかない?」


 物色してきたらしい未玖が手に持っているのは、瓶のプリントされた縦長の箱だった。

 中に入っているであろう瓶には達筆な筆跡で漢字で酒の名前が書かれている。

 えっとこれは……日本酒かな?


 分類を見ると焼酎とあった。

 日本酒と焼酎って何が違うんだっけ?


 えっと……焼酎甲類?

 ってことは乙・丙・丁類もあるのかな?

 なんでこんな変な分類の仕方なんだろう。


「よし、一緒に見てみようか」


「うんっ!」


 一度も見たことはなかったんだけど、収納スペースは俺が思っていたよりもずいぶんと凝っていて、そして広かった。

 小さいながらもワインセラーがあり、そのためにわざわざ電源まで引いてある。

 きちんと整理されている酒を見ていく。


 ウィスキー、ジン、ウォッカにコニャック……何が違うのかはさっぱりわからない。

 中には真緑のお酒もあった。これ、本当に人類が飲んでいいやつなんだろうか?


「せっかくだし、ワインを飲み切った時用に何本か持っていく?」


「そうだね、多分ビールよりこっちの方がマシだろうし」


 冷蔵庫には缶ビールが入っていたけれど、幼少期に箸で舐めさせられた経験から、俺はビールが大の苦手だった。

 あれを美味しいと飲んでいる父さんの感覚は、未だに理解ができていない。


 家の中のちょっとした冒険を終えてから、夕食を取ることにする。

 いつもと変わらぬ素晴らしい味だったので、しっかりと未玖の耳が赤くなるくらいまで褒めておくことにした。


「ほ、褒めすぎだよぉ……別に、そんなに大したものじゃないから……」


 誰かが料理を作ってくれることを、当たり前だと思ったらいけない。

 一人で出来合いのものばかり食べていたからこそ、そのありがたみがわかる。

 だから俺はきっと、これからも毎日未玖に感謝の気持ちを伝えることだろう。


 リフレッシュで片付けを済ませてから、一旦落ち着く。

 アイスペールに入っている氷は数が減っていたけれど、酔っ払うより先にやることがある。


「今回の謁見、未玖は何がいけなかったんだと思う?」


「――やっぱり一番は、明確にメリットを提示できなかったのがマズかったところかな」


 運動と食事と探検で気分を切り替えたら、次は反省会だ。

 残念ながら一度ダメだったくらいで諦めるほど、俺も未玖も潔くないからさ。


 俺達はまだ高校生だから、大人みたく必ず一発で正答を導き出せるほど知恵や経験があるわけじゃない。

 だからそのあたりを、ガッツと若さでカバーしていかなくちゃね。

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