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会談


 神聖エルモア帝国は、このエルデンウッド大陸の中央部から東部にかけてを版図としてい巨大な国家だ。

 純粋な国土でもグルスト王国の三倍以上、更に魔法技術などを含めた国力で言えば十倍以上の差があるとも言われる、この大陸で一番の国力を持つ大国である。


 それだけ大きな帝国を治める皇帝となれば、さぞ冷酷な人間なのだと普通なら思うだろう。


 けれど街で話を聞いてみると、皇帝の評判は俺が思っていたのとは比べものにならないほどに高かった。


 というか一番驚いたのは神聖エルモア帝国の皇帝が女性だったことだ。

 皇帝は生まれた順番ではなく、その純粋な実力によって後継を決める。


 前帝のお眼鏡に適ったのは、第一王子達ではなく第四王女であり、彼女は現在女帝エミリアとして君臨している。


「今の女王様はお優しいからねぇ……魔族に焼き払われた村からやってきた人達を涙ながらに迎えるなんて、前の王様じゃ考えられなかったよ」


 帝国には、二種類の王がいるのだという。

 武に優れる覇王と、仁に優れる仁王だ。


 どうやらこの二種類の王が規則的に入れ替わることで、市民達のある種のガス抜きになっているようだ。


 覇王が帝国を治めている間は税は重くなるが、その分だけ平穏が約束される。

 そして仁王が王を務めている間は、血は流れずに国力が富んでいく。


 これを聞いた俺は、真っ先に中国史を思い出した。


 秦の苛烈な政治の後には比較的ゆるい漢が生まれ。

 同じく苛政で有名な隋の後には唐が生まれる。


 本来であれば国が勃興しては消えていくような流れを、大国である神聖エルモア帝国は自国の歴史の中で繰り返しているわけだ。


 今上であるエミリアは後者である仁君として君臨している。


 ただいくら仁君と言えど、彼女は他の皇帝候補達を蹴落として皇帝位についている人物だ。


 更に言えば大国である帝国に武がないはずもなく、現状帝国はグルスト王国よりはるかに優位に北方戦線を維持することができている。


 ただ優しいだけの人間と見れば、間違いなく痛い目を見ることになるだろう。

 どちらから言うともなくそれは俺と未玖の共通認識になっていた……。



 帝城ノヴァークは、グリスニアにある王城が子供のおもちゃに見えてしまうほどに大きく

そして美しかった。


 魔力反応のある、恐らく警戒用の魔道具すらしっかりと加工がなされ、陳列されている美術品と遜色のないできばえになっているのは流石としか言えない。


 何重にもなっている警戒網を抜ける度にボディチェックをされ、俺達が通された先にはーー玉座の間があった。


「グルスト王国特別大使のお二方――面をお上げください」


 顔を上げればそこには、一年一組で美男美女に見慣れていた俺でも思わず見とれてしまいそうになるほどに美しい、大人の色香を漂わせた女性がいた。

 年齢は二十代後半に見受けられるが……エミリア陛下って、こんなに若かったのか。


 流れるような赤の髪はその一本一本が宝石のような輝きを持っており、その相貌は身に纏っている豪華な装飾品に負けぬだけの美しさを放っていた。


 その頭には恐らく一つで家一軒は建つであろう大粒の宝石がちりばめられていた王冠が被さっている。

 初代皇帝が男性であったからか、そのサイズは彼女の頭より明らかに大きく、斜めにかけるように固定されている。


「アリシア王女殿下から事前に話は聞いております。なんでも私に話があるとか」


 当然ながら、無位無官では超大国である帝国の皇帝と会うことはできない。

 そのためにアリシア様が用意してくれたのが、特別大使という役職だ。


 これはなんら特別な外交的権利を与えるものではないいわゆる名誉職というやつだ。

 ただ一応前例があるため王女でも与えることが可能で、かつ皇帝とギリギリ会うことができるくらいの立場を与えてくれるものでもあった。


 これを与えたことはいずれバレるらしいが、どうせ勇者達のことや魔族の会談にも首を突っ込むつもりなので今更一つ二つ問題が増えたところで問題はない。


 毒を食らわば皿までというわけではないけれど、今はとにかくこの話し合いなんとかしなければならない。


「はい、実はですね……」


 俺と未玖は触れられないことは避け、なるべく簡単に俺達が召喚されてからの事の次第を話すことにした。


 すると未玖が暗殺されかけた話の辺りでエミリア陛下の眉間にしわが寄るのがわかった。

 一通り話を終えると、はぁ……とエミリア陛下が大きなため息をこぼす。


「私も王国にはほとほと困り果てているのです……もしかすると私達は近い将来、手を取って共に歩んでいくことができるかもしれませんね」


 けれどエミリア陛下は、スッと目を細める。

 そして彼女が決して優しいだけの君主でないことを示すように、


「ですがそれは……今ではないでしょう。私達帝国に王国と決裂してまであなた方を引き入れる必要があるかと言えば……否としか言えませんから」


 鈴の音のように美しい声で、そう呟いた。


 そして俺達の交渉は、見事なまでに失敗に終わり。

 俺と未玖は帝都を出て、自宅へ戻るのだった――。


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