女帝
「ここが、エルモアグラードか……」
道中街をほとんど通らずにやって来ているため、帝国の街はパイラネルしか通っていない。 何度か王国への帰還を挟んでいるせいで、余計にここの異様さが際立っている。
「なんか時代が一つ違わない?」
「うん……日が暮れ始めてるのに、まだ街がこんなに明るいなんて」
グリスニアを中世の都市とするのなら、エルモアグラードは間違いなく近代都市だった。
地面は綺麗に均された石畳が広がっており、街が暗くならないようあちこちに街灯が立っている。
魔力感知を使ってみると魔力反応がある。
どうやらあの街灯は魔道具のようだ。
それ以外にもいくつも反応がある。
どうやらこの場所では、グリスニアなどと比べても魔道具がかなり生活に密着しているらしい。
「とりあえず宿を探そうか……って見て見て勝、物価が明らかに高いよ」
「うん、果物が倍近い値段だね……おばさん、二つください」
「あいよっ! 二つで銀貨一枚ね!」
支払いをするために、あらかじめ用意して置いたエルモア銀貨を取り出す。
ちなみに国際的な信用度の問題で、グルスト王国で使われているグルスト銀貨とエルモア銀貨は、材質は同じにもかかわらずエルモア銀貨の方が若干価値が高かったりする。
どうしようもなくなったら、両替商にでも転職して差額で儲けてみようかな。
……やめておこう。こういうのは下手に素人が手を出したら碌なことにならないだろうし。
せっかく帝国に来たので、王国にはなかった桃色のマンゴーのような不思議果物を二つほど買い、食べながら街を歩く。
食べてみるとマンゴーと桃のねっとりとした部分を凝縮させたような味がして、最期に柑橘類特有の爽やかさが鼻から抜けていった。
これは一つ銅貨五枚も納得の味だ……異世界のフルーツはどれも美味しい物が多い。
土魔法とか魔道具を使って、土壌改良とか促成栽培とかできるのかもしれないな。
近代化をしているからなのか、物価は王国より全体的に高めだった。
宿泊代金も高いし、基本的に大抵の物が高い。
ただ価格統制でもしているからか、パンの値段だけは王国と変わらないくらい安かった。
それにしても、物価の分報酬も高いんだろうか。
そうでなくちゃ魔物の討伐で食っていくのが大変そうな気がするけれど……。
街を歩いていると、すぐに目立つ建物が見えてくる。
それを見て俺は、思わずうわぁと声を出してしまった。
「あれが帝城ノヴァークだね」
帝王が暮らしているという帝城ノヴァークは観光名所か何かのように魔道具でライトアップされていた。
魔力感知を使うと、数え切れないほど大量の反応がある。
グリスニアの王城とは偉い違いだ……警戒具合が尋常じゃない。
めちゃくちゃ魔道具と人員を配置しているっぽいな……これ、帝王のところまで侵入するのは無理な気しかしない。
果たして情報を集めてきちんと準備をしても、できるかどうか……。
魔力感知で得られた反応の話をしてみると、未玖はノヴァークを見上げながら、うんと一つ頷く。
「それなら正攻法でいった方がいいかもしれないね。大丈夫、アリスからはもう許可ももらってるから」
「許可?」
「うん、実はね……」
アリシア様は何も肩書きを持っていない身ではあるが、それでも一応れっきとしたグルスト王国の王族だ。
なのでその名声を使って話し合いの場を設けることができるよう、帝王へ向けて手紙をしたためてもらったのだという。
たしかにそれなら、いきなり行っても門前払いされるようなこともないだろう。
事前準備がしっかりとされているとは……流石未玖である。
「とりあえず情報を集めてから、帝城に向かうことにしようか」
正面からの帝国との話し合い。
緊張しないと言えば嘘になるけれど……せっかくここまでお膳立てしてもらったのだ。
できるところまで、頑張ろうと思う。
こうして俺達は情報を集めてから一度アリシア殿下の下へ向かい、話し合ってからノヴァークへと向かうことにした。
すると意外なことに話があっさりと通り、話もとんとん拍子に進んでいき。
俺達は神聖エルモア帝国第五十二代目皇帝である……女帝エミリアと謁見することになったのだった。
「グルスト王国特別大使のお二方――面をお上げください」
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