支え
神聖エルモア帝国に戻った俺らは、とりあえず冒険者として活動をしていくことにした。
グルスト王国の時に使っていたものをそのまま使っていいものか判断がつかなかったので、日を改めて一度ギルドへ向かい、詳しい話を聞かせてもらうことにする。
「帝国で活動をする場合は、改めて帝国側でも冒険者登録を行う必要がございます」
ただ何もない状態からというわけではなく、王国での依頼の達成率や評価などを参考にしてもらえるようだ。
といっても俺も未玖も大した依頼はしていないので、こちらでもあちらと変わらずペーペーからのスタートである。
冒険者として大成する気はないため、とりあえず登録だけ終えてからアイテムバッグから取り出した素材を売り、いくつかの常駐依頼をこなした扱いにしてもらう。
当座の金のためにレブナントの武器を売って活動資金を作ってから、とりあえず適当に喫茶店に入ることにした。
コーヒーはないが、紅茶はあるらしい。
コーヒーって新大陸から見つかったんだっけ?
この世界にはまだ大航海時代とかは来てなかったりするのかな。
シフォンケーキのような焼き菓子と一緒にパクつきながら、これからのことについて考える。
「グリスニアの動きも気になるけど……とりあえず当座はどんどん東に行ければと思うんだ」
「……すぐに家に帰れるように、だね」
万が一誰かに話を聞かれても問題がないように、上手いことぼかしてくれている未玖の言葉に頷く。
俺の『自宅』のギフトはドア設置ができる場所が多ければ多いだけその凶悪さを増していく。
なので適当に魔物を狩りながら、更に東へと向かっていく。
もし可能であれば帝国の帝都であるエルモアグラードまで行ってしまいたい、なんとかして神聖エルモア帝国の帝王とアポを取りたいところだ。
そこで勇者達の保護までお願いできればいいんだけど……まぁ流石にそこまで上手くはいかないだろうけど。
とりあえずの目的は『自宅』を使ってステータスを上げながら神聖エルモア帝国にクラスメイト達を亡命させる体勢を整えることだったけれど……今はそれとは別に気になることもできている。
――アリシア様から教えられた、魔族に関する情報だ。
王都での王様と魔族との会合のことは、当然ながら捨て置けない。
魔族が出張ってくるとなれば、一年一組の皆も無関係ではいられないだろう。
「一番困るのは、王様も魔族も何を考えてるのかまったくわからないってことだよね」
俺達は王様の狙いも魔族の狙いも、どちらもわからない。
少なくとも両者は戦争をしているわけだから、和平のための使者だったりするのかもしれないけど……少なくともグルスト王国は魔族を邪悪な魔王の手下達と断じている。
あの王も簡単に矛を収めるとは思えない。
対する魔族側がやってきた理由も謎だ。
有利なうちに停戦したい……とかなのかもしれないけど、俺達は魔族側が完全に一枚岩なのかどうかもわかっていないわけで。
向こうでゴタゴタが起きているのかもしれないし、魔王が代替わりしたのかもしれない。
両者の思惑はわからないけど、一つだけわかることがある。
それは会合の場で、間違いなく何かが起きるということだ。
「その辺りはとりあえずアリシア王女殿下と定期的に連絡を取るようにしよう。俺が単体で行くだけなら、さほど手間もかからないし」
「うん、そうだね。私は大したことはできなそうだけど……心身共に勝のサポートをするよ。あと、空いた時間でちゃんと自分を鍛えることにする。少しでも早く、勝に追いつきたいからね」
当面の目標は決まった。
エルモアグラードへ向かいながら、そして定期的にアリシア殿下と連絡を取ること。
そして会合の日取りをきっちりと割り出し、当日は近くに待機して王国と魔族との話し合いが決裂した時に備えることだ。
魔族側からすれば勇者は自分達を殺すために召喚された不穏分子だ。
多分だけ両者ともに色々な動きがあるだろう。未玖が殺されそうになったことを考えると、魔族側に罪をなすりつけて従順じゃない勇者を殺すくらいのことは平気でやりそうだ。
とりあえず最低限、皆に被害が出ないように有事の際は助けに出れるようにはしておきたい。
万が一グルスト王国から避難する時のことを考えると、会合までにエルモアグラードへ行って帝王とアポが取るのは必須かな……移動速度を怪しまれても構わないから、俺一人で全開で駆けて行くべきかも。
最悪の場合、『自宅』の力を使って全員をエルモア帝国に飛ばすことになるかもしれない。
何が起こるかわからない分、想定もしづらいのが本当に厄介だ……けど最悪に備えておくのは大切なことだ。
「やることはたくさんあるし……二人で頑張ろうね」
「うんっ! 任せて、腕によりをかけて美味しい料理作っちゃうから」
そう言って力こぶを作る未玖は、なんとも頼もしい限りだ。
戦う力はあっても、色々と未熟なところも多いので……俺のこと、支えてくれると嬉しいです。
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