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邂逅


「そう、か……」


 安堵からか、御津川君が背もたれにぐぐっと身体を預ける。

 彼の巨体に椅子が悲鳴をあげている。

 けれどそんなことには頓着していないようで、彼はどこか遠い目をしながら天井を見上げていた。

 どうやらかなり本気で、未玖のことを心配していたらしい。


「なんなら……」


 その様子につい、今からでも彼女を連れて行こうか、と言い出しそうになる。

 寸前のところで言葉を止める。


 俺はなんて迂闊なんだろう。

 クラスメイトの前で『自宅』は使わない方がいいと未玖には散々釘を刺されているっていうのに、つい気持ちがゆるんでギフトのことを教えそうになってしまった。


「なんなら……なんだよ?」


 そのせいで御津川君に怪訝な顔をされてしまった。

 なんとかして取り繕わなければ、と脳みそを高速で回転させる。



「なんなら俺だけならこっちに来れるから、手紙のやりとりとかできるよ。あともし御津川君が帝国の近くに来れるなら、会うのを手引きしたりもできる」


「……文通なんぞする気にゃなれねぇが、一度くらい顔は合わせときてぇな。グルスト王国の北側、前線の……そうだな、カスティーリャ砦あたりでも問題ないか? それならもう一度来てもらって時間を調整すりゃあ、適当に一人で抜け出して国境付近で落ち合えるはずだ」


 なんで前線に……と思ったけど、そっか。

 そういえば御津川君は『覇王』のギフトを持ってしまったせいで、イゼル二世に最前線に飛ばされてるって話だった。


 けど御津川君の態度に別に不満に思っている様子はなさそうだった。

 いつも彼は世界観から週刊誌まで何もかもが違うと思っていたけど、御津川君は見事なほどにこのアリステラに適応しているみたいだ。


「了解、一応しばらくしたらまた来るつもりだから、その時に細かい打ち合わせをしよう」


「ああ……鹿角、一ついいか?」


「うん、何かな?」


「未玖は今――元気にしてるか?」


「……うん。本人曰く、聖女をやってる時よりずっと楽しいって」


「へっ、そうか」


 御津川君はそう言ってニヒルに笑うと、体勢を変えて前屈みになった。

 そしてパチンと指を鳴らすと、テーブルの前にボトッと葉巻が落ちてくる。

 これってもしかして……アイテムボックス?


 魔法剣が使えるだけじゃなくて時空魔法まで使えるのか。

 間違いなく、今のグルスト王国の勇者メンバーの中で御津川君が一番の使い手だろう。


 驚いているうちに彼は指先から炎を出し、葉巻から吸った煙を大きく吐き出した。


 一応こちらに気を遣ってくれているのか、風魔法で煙を散らしてくれているため匂いは気にならない。

 なるほど、こっちの魔法使いはこんな風に葉巻を吸うのか……。


「あれ、というか御津川君タバコ吸ってたっけ?」


「ああ、面倒だから人前じゃあ吸ってなかったがな。けどこっちの世界はいいぜ、成人が十五だから酒でも葉巻でも女でもよりどりみどりだ」


「順調に染まってるなぁ……」


 そのたくましさに苦笑していると、御津川君の方が何を思ったのかフッと煙をこちらに吐き出してくる。

 俺が見よう見まねで風魔法で煙を散らすと、何が面白いのかクックックッと笑われた。


「それはお前もだろ、鹿角。つぅかお前……相当強いだろ?」


「さぁ、なんのことかな?」


「俺の魔力感知も生体知覚も鑑定も弾くやつに会うのは初めてだ。多分だけど……魔族ばりにめちゃくちゃだぞ、今のお前」


 どうやらとぼけても無駄なようだったけれど、よくわからないふりをしてやり過ごす。

 というかこの世界にも鑑定ってあるのか……やっぱりなんとかして偽装系のスキルを取らないと、今後の活動に差し支えるかもな。


「そ、それじゃあ俺は予定があるからおいとまさせてもらおうかな」


「腹芸は苦手なんだな、この世界の怪物達とやり合うんならもう少しそのあたりも訓練しといた方がいぜ。まぁとりあえず……未玖をよろしくな」


「言われなくても」


 色々と見透かされている気がしないでもないけど、とりあえず一旦御津川君と別れる。


 そしてそのまま警備が厳重になっている更に奥へ奥へと進んでいき……とうとう目的の場所にやってきた。

 さっきと同じようにするりと影を通ってドアを抜け、ベッドの影からぬるりと出てくる。


 するとそこにいた少女――アリシア・フォン・グルストが儚げな顔をしながらこちらを見つめてくる。


「あなたは――暗殺者さんかしら? 私の命を奪いに来たの?」


 そう口にして、なぜか自嘲気味に笑ったのだった――。


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