第二天 零夜六家
悔しいっ……!
負けたからではなく、本気すら出させることができなかったことが。一撃も与えることができなかったことが。
才能がある兄さんや姉さんなら勝てるのかな……?
俺が模擬戦で戦った相手――星月柊はまさに次元が違った。俺ごときじゃ手も足も出るはずかない。だけど、兄さんたちならどうなのか。
凡才の俺とは違って才能がある兄さんなら……勝てるかもしれない。
既に俺が届かない領域にいる星月柊や兄さんたち。絶対に超えることはできない。だけど、だけど、その領域に少しだけでも足を踏み入れたいと思った。
だから……俺はこれからも努力を続ける。あの領域に至れば、多くの人が救えるから。
*
模擬戦が終わった後、家に帰った俺はリビングで4時間ほどテレビを見ていた。……一人で。夏澄は模擬戦が終わった後に「勝てなくてざんねんだったね〜。でも気にするひつようはないよ! かっこよかったから!」と笑みを浮かべて言っていた。
この言葉があったからこそ、俺は前向きになれている。
夏澄のあの時言った言葉を脳内で再生していると、バンっと扉を開ける音が聞こえたと思ったら、母さんが飛び出てきた。
「陽翔! 速報が入ってきたわ!」
速報? 一体何のことなんだろう?
「零夜六家だけに伝えられたことなんだけど、最近、星月柊君が
“フロスメンダーチウム・クラマンティスプエリ”っていう泣く木の魔物を討伐したらしいんだ。あと、皇京華ちゃんは“セイレーン”っていう半人半鳥の魔物を……」
な……!? 俺と同じ5歳児が5級と4級の魔物を討伐だと!?
星月柊が5級の魔物を討伐したのはまだいいとして、皇京華が4級の魔物を討伐したことは驚いた。
皇京華には一度だけ会ったことがあるが、高貴で冷たい少女という印象だった。氷のような水色を帯びた銀のストレートの髪と、切れ長で蒼い目がその印象を強めている。
皇京華は前髪は片目にかかっていて、冷たい顔……というより無表情なので、5歳児とは思えない迫力がある。伊達に零夜六家の序列2位である皇家の次期当主という地位に就いているわけじゃない。
ちなみに零夜六家とは、上流階級の一族の代表の6つの家のことだ。序列1位の星月家、序列2位の皇家、序列3位の天日家、序列4位の雛鶴家、序列5位の神代家、序列6位の一条家から成り立っている。
それはさておき、皇京華が戦っている姿を見たことがないからどれくらいの力量があるのか分からないんだよな。
どれくらい強くなれば10級とか9級などの低級魔物より圧倒的に強い5級や4級などの中級魔物を倒せるのかが気になる。せめて俺も成人する頃にはそこまでに辿り着きたいものだ。
「ちょっと、陽翔。お母さんの話聞いてる?」
「あ……」
思考を巡らせている最中に母さんに話しかけられた。だから咄嗟に出たのはこんな反応だった。
「その反応……聞いてなかったのね?」
「いや、違うよ! 前半の部分は聞いてたから!」
これは本当のこと。ちゃんと前半の部分は聞いていた。だって、さっきはそれについて考えていたことだし。
「『前半の部分は』ってことは後半は聞いてなかったのね……。もう……ちゃんと人の話は聞きなさいって何回言ったと思ってるの! ……ってあれ? 私ってそんなこと言ったかな……?」
これだから母さんは「見てくれは超美人なのに中身は残念なポンコツ」って言われるんだよなぁ。
「兎にも角にも、話はちゃんと聞くこと! 分かったわね?」
「はい」
ここで「は〜い」とかいう返事をしたらまた何か言われるかもしれないので、きちんとした返事をしておくのがポイントだ。
*
さて、母さんもいなくなったことだし模擬戦の反省でもするか。
俺が負けた原因はズバリ……相手が悪かったからだ。これはどうしようもない。星月柊が強すぎたんだよ。
他の原因として考えられるのは、十分な基礎体力が身についていなかったことだな。5分間戦っただけで息を切らしたりするのは流石に体力不足だ。これは日々の鍛錬で改善できるだろう。
また、別の原因としては戦術というのも関係するだろう。格上に対して碌に戦術を組んでいなかったのは、今になってはただ負けにいっているだけとしか思えない。
これからは戦術についても学ぶか……。俺にはまだ時間があるし、その時間をどんどん使っていこう!
じゃあ早速、十分な基礎体力を身につけるために、兄さんに稽古をつけてもらいに行こうっと。