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第1章 第8話 ここが1つの分岐点

早起きは三文の徳というがまさにその通りだと思う。

昨日はのら猫とバルザとの魔法の特訓から、こめの襲撃、その後は親方からは脅迫紛いの事をされたりと疲れる出来事が多数あったため身体的にも精神的にも限界を迎えていた。

その結果、昨晩はかなり早くに寝付いた覚えがある。そして今、まだ日が昇ったばかりの頃に目が覚めた。

カーテンを開け窓から外を眺めてみると、差し込む朝日が眩しくつい目を細めてしまう。でもだんだんとその眩しさに慣れ、私は窓から見える朝の街並みを眺める。


「相変わらずいい景色だな」


朝日というスポットライトを浴びたベルダンの街並みは、よりその美しさを際立たせており私は目を離すことが出来なかった。

なんだか久しぶりに寝起きが良い。こんな感じで気持ちの良い朝を迎えられるのも、綺麗な朝の景観を眺められるのも早起きの特権だ。

さて早く起きたものだから朝食まできっと時間に空きがある。この空き時間を一体どう過ごそうか...

そんなことを考えながらここに来て借りた騎士団の服に着替える。

んー。ちょっとブカブカだけど相変わらずぴったしなんだよなぁ。


何をするか迷ったが庭園を少し歩いてみることにしよう。

そう決めたならすぐ行動しなくてはと部屋から出て出口から建物を抜ける。

石畳で出来た通路は靴で1歩ずつ踏みしめるたびにトッというふうに気持ちのいい靴音が鳴る。この石畳、小石とか汚れとかも目立たないし相当掃除されてるな?

石畳だけみてもあれなので庭に植え付けられた木や花を見ていく。これらも綺麗なまでに整っており雑草など全く見当たらない。おそらく庭師でも雇ってるのだろう。

残念ながら私は盆栽のプロとかそういう訳じゃないのでよく分からない感想ばかり浮かんでしまう。そんな感じで歩いてると庭園に見知った人がいるのを見つけた。


「やぁ、もう起きたんだね」


それはのら猫だった。にしてもこんな朝から何をしてるんだろうか。


「こっちはただ暇だったから庭園を歩いてただけだよ。見たところレイナもそんな感じかな」


私の疑問に答えるようにのら猫は返答する。

しかし出会ったはいいものの大して話すこともない。さてどうしたものか。

そんな私の不安を解消するように、のら猫は続けて言葉を発す。


「ここにはもう慣れたかい?」


「えぇ、最初は戸惑うことが多かったですけど、少しづつここの慣習や雰囲気に慣れてきました」


「そいつは良かった」


するとのら猫は考え込むような動作をした後、私に尋ねる。


「ねぇ、ついでだし何か聞いておきたいこととかないかい?俺に答えられる範囲だったら答えるよ」


「疑問ですか…」


疑問はない…と言いたいところだが、どちらかというと疑問は今ざっと思い浮かんだものだけでもいくつかある。


「何でもいいよ」


そうのら猫は呟いたので私も遠慮せず訊くことにする。


「それじゃあ…この世界には魔法があると同時に魔女が存在するみたいですけどそれは一体?」


「そのことか…」


のら猫はさっそく難題にぶつかったかのように顔を(しか)める。なにかまずい情報でも隠されているのだろうか?


「まず第一にこの世界には5人の魔女が存在してるんだ」


「5人もですか?」


「そう。そしてこの世界に存在する魔法は全て魔女達が(もたら)したモノなんだ」


「魔女が齎した?それってどういう?」


「ここプロイサン国にも魔女が存在していた。その魔女が恩恵として魔法というものを齎し、この国に住まう民たちが使えるようにしたんだ。」


「つまり私たちがこうして魔法を使えるのは魔女おかげと?」


「そういうこと。それ以外の4人の魔女も同様に、自分たちの住む国の民たちに魔法という恩恵を齎している。」


「それじゃあ魔女がいない国の人達は魔法を使えないってことですか?」


「うん。当然ながら魔法を扱えない国が魔法を扱える国に敵うはずはない。結果、そういった国たちは魔女の存在する国に支配されている状態なんだ。」


「なるほど…それじゃあこの国も例外ではないと?」


「それがこの国の場合は立ち位置がちょっと特殊でね」


「特殊?それは一体何故?」


「この国に魔女は確かに存在していた。けれど今は存在していない。何故ならもう既に死亡したからだよ」


理解が出来なかった。

のら猫の言葉が一瞬理解出来ず、私はただ呆然としてしまう。

死亡した?それは何故?

そもそも魔女が死亡するなんてことはあるのか?


「驚くのは無理もないよ」


のら猫は私の反応を当然かのように受け止め、言葉を綴る。


「でも魔女は確かに死亡した。その結果として、国力は低下、支配下に置いていた国は次々と独立運動が盛んになり国は分裂、さらにはその隙に他の魔女が攻めてくれのではと大混乱だったよ」


魔女がいなくなったことはこの国に影響を齎す。それは当然のことだろう。そしてその影響は他国まで影響を及ぼす。ある魔女はこの国に攻めいろうとし、ある魔女はこの国を内部から攻め落とそうとした。


「でも奇跡的に魔法が使えるという事実は覆らなかった。だからこそ今も尚この国が存在してるって訳」


知らなかった。

魔女の存在の大きさを、そして魔法の正体も。あまりに話の規模が大きすぎて上手く想像がつかずにいる。


「全ての魔法は魔女へと通ずる」


「?」


「昔からある言い伝えだよ。俺たちが扱っている魔法は全て線上に魔女へと繋がっているのだろう。そして魔女は魔法を扱える者たち全てを縛り付けている。絶対的な支配。他の魔女は一体どのように民を縛り付けているのかなぁ」


……。

どう返答すべきか分からずにいた。

ただ私は恐くて立ち尽くすことしか出来なかった。



その時だった。

ザザ…とよく分からない音が頭に響き渡る。



何だ?

一体どこから響いてきた?


この音は私以外にも聞こえていないのだろうかと思いのら猫を見てみるが、彼はただ不思議そうに私の様子を見ているだけだった。

どうやらこの音は私にしか聞こえていないらしい。

耳鳴りだったのだろうか。詳しくはよく分からない。


「やぁ」


気を取られていると背後からまた別の人に声をかけられた。


「あー、親方か。もう目が覚めたんだね」


のら猫が呼びかけに返答する。

背後から来たのは親方で、私たちを見つけて声をかけた…といったとこだろう。


「朝の修行でもしようかと思ってね。ところで2人して何密告してたんだ?」


「なわけあるかい。ちょうど出会ったから雑談でもとね」


「へぇ」


…やっぱりなにか違和感がある


「あーそうだレイナ。今日の日程についてなんだか…」


先程、聞こえたノイズ音。

それがより鮮明になっていくのが分かった。

どうやら、のら猫と親方が喋った後にそれは聞こえてくる。

そして砂嵐のような音ではなくなっていた。

音だ。

もっと詳しく言うならば旋律。

それは激しく脳内に響きわたり。

まるで警告音のようだった。


「…っていう感じだ。とりあえずこの日程で今日は過ごしてくれないか?」


「え?あっ!す、すみません。全然聞いてな…」


しまった。

つい先程の現象に気を取られて、話を聞き逃してしまった。


「まぁ、分からないことがあったらあいつらに聞いてくれ。んじゃあ修行してくる」


「はいはい。行ってらっしゃい」


「あー…」


行ってしまった。

しかも、よりによって肝心なとこを聞き逃してしまった…


「えーっと。大丈夫?」


「あ、いや!大丈夫だと思います!…多分?」


「まぁ…わかんないことあったらその都度、俺とかの手が空いてる人に聞いてくれ」


「分かり…」


分かりました、とそう返答しようとした途端、頭に激しい旋律が響く。

しかも先程よりもうるさく。

思わず顔を(しか)めてしまい。

片手でこめかみを押さえ込んだ。


「ちょっと、どうしたんだ?」


「だ、大丈夫ですって…はは…」


流石にうるさい。

一体何が起きてるんだ?

一体この音はこの音は何がしたい?

何かを伝えたいのか?

いてもたってもいられない。

とりあえずこの場から離れよう。


「まだ眠気が取れなくて…部屋に戻ってますね…」


「あぁ…分かった」


のら猫の言葉を待たずして、部屋に戻るべく足を動かす。

騎士団本部の入口に着くと、門の前には1人の人物が立っていた。


門の前に立っていたのはやや小さな少女だった。

白銀の髪を腰の辺りまでおろしており、服装は黒のTシャツの上から白のカーディガンを羽織っている。ただ、そのカーディガンにはボタンといったものはなく、本来なら第1ボタンが付いているであろう場所に赤いリボンが通されており、それを蝶々結びで留めていた。下はショートパンツで太ももから足の先まで大胆に晒されている。

容姿は淡麗でつい目を奪われてしまう。

年は…私より下にも見えるし、上にも見えるためよく分からない。


ただ私から話しかける用事は何もないし、今は不快な現象に見舞われ、とても人と話す気分ではなかったので、その少女の横を通り過ぎ門を開けようとする。


門を開けようと手を伸ばした途端、門の前にいた少女の手が伸びてきて、その手を掴みとる。気づけばその子は私のすぐ近くまで来ていた。若干恐怖を感じるも、その感情すらもどこかへ追いやられてしまうほど綺麗な顔立ちをしていた。


「ねぇ」


少女は告げる。透き通るような声で。


「な、何?」


「逃げて」


「え…」


「あなたは今すぐここから逃げて」


少女は淡々と言い放った言葉は今すぐ逃げろという唐突なもの。


「えっと…それはどういう?」


少女は表情を変えず、無表情のままゆっくりと言葉を続ける。


「あなたはこれから多くの分岐点に辿り着く」


「…」


「だけど、どの選択を選んでもあなたはろくな結末を迎えない」


「…」


「だから逃げて。何もかもかなぐり捨てて今すぐここから離れて。逃げる場所なんて考えなくていい。とにかくどこか遠くへ、そうすればきっと…」


「あの、言ってる意味がわからないんですけど」


聞くに堪えず、口を挟んでしまう。

分岐点?結末?

それに今すぐここから逃げてだって?

流石に理解出来ない。

何もかも唐突すぎるし、このまま聞いていても話が見えてこない


「あなたが私のことを思ってくれてるのはわかりますが」


それに今の私は騎士団に保護してもらってる立場だ。それに難癖を付けられる謂れはない。


「私は自分の意思でここにいるつもりなんです。仮にあなたの言う分岐点が本当にあるとしても、自分なりに考えて道を選択するつもりです。今も、そしてこれからも」


私はここに来て魔法が使えるようになって、実際にそれで盗賊を倒すことが出来たし、何より自分にちょっと自信が持てるようになったんだ。

だったらこの人が言う、私が迎えるであろう結末なんてもの変えてしまえばいい。今の私にはそれができるような気がした。


「………そう。それがあなたの選ぶ選択なのね……やっぱり…止めようなんて…」


呟く少女は若干、物悲しそうな表情をしているように見えた。


「あの、話は済みましたか?」


私の問いに無言で応じるようにその少女は掴んでいた手を離した。

私は部屋に戻るべく門を開け中に入ろうとする。


それにしても…あの子が話しかけてきても頭に音のようなものは流れてこなかった。それにあの子は一体どこから来たんだ?もしかしたら迷子なのしれない。


「ねぇ、あなた」


私は振り返るも、先程の少女はどこにもいなかった。

音もなく、まるで初めからそこに居なかったように、姿をくらませていた。



























次回更新はいつだろうなー(すっとぼけ)

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