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第1章 7話 「深まる謎と新しい居場所」

親方は私を壁に押し付け動けなくさせてくる。

私は為す術なくただ震えることしか出来ずにいた。


「は、離して…」


「質問をさせてもらうぞ」


「……」


「レイナ…お前はここに来る前、一体どんな生活を送っていた?」


「どういう…こと?」


「別におかしな質問ではないだろ、のら猫からある程度の報告は受けた。記憶を失っているらしいこと。レイナという名前はその場でつけた仮の名前であること。レイナは先代の魔女の後継者として相応しい魔力を持ってること。だが…あまりに謎が多すぎる」


親方の言ってることは確かに分かる。

私自身なぜ記憶失ったのかなぜ後継者に選ばれたのか。これらは永遠に解決できない疑問へとなりそうな気がする。

しかし、ここまで強引な質問の仕方はないだろう。これではまるで尋問を受けてるようだ。


「魔女に選ばれる女は皆、特殊な環境で育ったが故だと言われている。レイナもそういうことなんじゃないのか?」


「分かんないですよ……だって過去の記憶が……」


「まぁ記憶が無い以上、質問したって仕方ないかもしれない……」


親方は掴んでいた私の両手首を離す。全身を支配していた恐怖は少し緩和されたのが分かった。手首の方は掴まれた感触が艶めかしく残っておりなんだか嫌な気分だ。

そんなことを思い耽ってる私に親方は言った。


「上着を脱げ」


「え……」


脱げって…

一体どういうつもりだ…?


「早くしろよ」


親方は腕を組み急かしてくる。

あのビリビリに破けた服をまた見せなきゃいけないのか…

私は気が引けるものの上着を脱ぐ。


「これで…いいですか?」


本当は脱ぎたくはなかったが、力の差は歴然である以上どうしようもない。

親方は私の体を凝視してくる。

服の上からとはいえとても不快な気分だ。

親方は考え込む動作をして、しばらくした後口を開いた。


「……やはりおかしい」


「なにが…」


「レイナ。お前は自分の体型を見て違和感を感じないのか?」


「違和感?」


急に何を言い出すんだこの人は?

違和感って言い出すということは魔法による影響が身体にでも現れ始めたのだろうか?

しかし自分で自分の身体を見てみるが何もおかしいところはないように感じる

腕は2本、指は5本あり部位が欠損してる訳でもない、足も同様に異常は無い。

特に血色も悪いわけではない。白い肌に細い腕…


「は…」


いや、そんなはずは…


「気づいたか、レイナ」


親方は私に話しかけてくるがそんなことは耳に入らない。

おかしい、さすがにこんなの…

血の気が引いていく。自分の身体なのになんで今まで違和感を覚えなかった?


「なんらかの異常性があるという予測は外れていなかったか…万が一が起こる前に確認しておいて良かった」


呆然と立ち尽くす私に親方は言う。


「これは俺の推測に過ぎないだろうが、今のレイナの身長は160cmちょうど辺りだろうな。年齢相当から見て特に異常はない。だが体重は…40.5kgほどしかないだろうな」


今まで自分の健康状態を常に考えるほど豆な性格ではなかったのは確かに覚えている。だけど必要最低限のものくらいは考えていたつもりだ。ならなんでこんなことになっている?ここに来る前のことは何も覚えていない。でも原因があるとしたらそこしか考えられない。


「あからさまに異常な健康状態。そうなった原因は何だ?十分な食事を与えられなかった環境が原因か?それとも病でろくな食事が摂れない状態だったのか?それかなんらかのストレスが原因で食事そのものを拒んでいたのか?」


違う。そう否定したかった。

だけど何かを口ずさもうとしても、否定材料は何も浮かばない。

今目の前にある事実を拒もうとしても、眼前にある光景は何も変わらない。

もし目の前に立っている親方や、同じく騎士団所属ののら猫やバルザを普通とするならば、私自身はその普通から爪弾きにされた歪な存在。

そう認識せざるを得なかった。


「……」


親方は怒りも哀れみもせずただ真剣な眼差しで私をしばらく見たあと大きなため息をついた。


「はぁ…まぁいい。今更どうこう言ったってしょうがない。その推察が正しいのかどうなのか今は確かめようがないんだからな」


親方は立ち尽くす私を他所に部屋の扉まで歩き、鍵を開ける。


「とりあえずレイナの分の着替えを取ってくる。って言っても私服とかそういうのは用意出来そうにない。俺と同じ騎士団第1部隊の隊服を代わりに着てくれ」


親方はそう言い残すと部屋から出て行った。

私はベッドに腰かけ、もう一度自分の身体を見つめる。


「これが…本当に私?」


自分のことなのに謎が深まるばかりだ。

白くて細い腕は先程の戦闘で薄汚れており、これでは孤児か何かみたい。

そんなことをしばらく考えていると、部屋の扉がノックされる。


「お待たせレイナ」


扉を開け着替えを持ってきた親方が入ってくる。

私はお礼を言って着替えを受け取る。着替えのうち最初に目に入った上着を両手で広げてみる。見た感じブレザーだろうなこれは。そしてそのブレザーは親方が来ているものと同じ赤色だ。上着を置き、他の着替えも見てみる。カッター、赤色ネクタイ、赤いスカートといった所か。

親方は廊下で待ってるから着替え終わったら言うよう私に伝え、もう一度部屋を出る。

着替えに関して特に困ったことは無かった。服のサイズはややぶかぶかだが問題なく入る。ただネクタイの締め方が分からなかったため後で教えてもらうことにした。

部屋を開け着替え終わったことを伝えると、親方に呼びかけると夕食を取ろうと案内される。向かった場所は親方が使っている部屋らしく同じ2階の真ん中辺りに位置していた。

2人分の食事を親方の部屋に手配するよう部下に頼んだのだろう。部屋の机に料理が並んでいた。


「とりあえず空いてる席に座って。あと食べ物アレルギーとかはあるか?」


「特にそういうのはないです」


私は親方が座る位置の真正面の椅子に腰を下ろす。

その最中ある物を見つけてしまい苦い顔をしてしまった。


「?どうかしたのか」


「いや…特に何も…」


親方が聞いてきたが私はそれをすぐさま否定してしまう。

とりあえず料理を食べなくては。

料理をしばらく食べ進めていると、親方はあることに気づいたのか声をかけてきた。


「お前…」


「ッ!?」


まずい。バレた。

いや元々隠しようがなかった気がするけど。


「……………トマトだけ隅に追いやるな」


「えっと…やっぱり分かっちゃいます?」


「当たり前だ。はぁ…好き嫌いが激しい偏食持ちでもあったか…」


ちょっとここでありきたりな言い訳をさせて欲しいが、人に一つや二つは嫌いなものが当然ある訳で、だからこれはしょうがないしどうしようもないんじゃないだろうか。

なんならこのトマトは私が嫌々食べるよりは、トマトを好きな人がウキウキしながら食べてくれる方が幸せなわけでそっち方が絶対良…


「食べなさい」


「……………」


そんな言い訳を親方はあっさりと粉砕し私に否定する隙を与えない。


「いやーだって…」


「食べなさい」


「あ、後で食べ…」


「食べなさい」


「ケチャップにした方が絶対美味し…」


「食べなさい」


「うぐっ」


い、言い返す暇もない…

私は皿の隅っこに追いやられた可哀想なトマトを見つめる。

それはまるで捨てられた子犬のよう。

その眼前にフォーク差し出すが、つぶらな瞳に見つめられてるような気がしてどうしてもあと一歩が踏み切れない。

フォークで刺すなんて可哀想だし、やっぱりこのままに…


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


そんな茶番を脳内で思い浮かべていると親方は盛大なため息をついた。


「貸して」


親方はそう言い放ち、トマトの乗った皿を回収し台所へ向かった。

なにやらトントンという音が聞こえる。

一体何をしてるんだ?

そう考えていると先程の皿を持った親方が机に帰ってくる。


「おらよっと」


皿は元の場所に戻され、私はそれを覗き込む。

その中は先程隅っこに追いやられていたトマトが細かく切り刻まれた状態で確かに存在していた。


「これは?」


「包丁で細かく切ったんだ。それくらい切り刻めば飲み込みやすいだろ?」


「あ、ありがとうございま……す?」


なんか助けてくれたのかより追い詰められたのかよく分からない感じになってきたぞ。

でもこれくらい切り刻まれているのから食べられそうな気がする。

フォークで刺し、口に運ぶと相変わらず嫌な感触と味、匂いが広がる。

慌てて水で流し込みともう無くなっており、あっさりと食べることが出来た。


「うん。よく食べたな」


親方は手を伸ばして私の頭を撫でてくる。

なんだかしてやられた気分だ。


「まぁこうやると食べることくらいは出来るだろ。ちなみに他に嫌いな物とかあるのか」


「ピーマンとゴーヤとナスとキノコとレンコンとゴボウと栗、柿、桃…」


「多い多い!!!全く…課題が見つかる一方じゃないか」


確かに嫌いな食べ物が多いのは認めざるを得ない…

とりあえず不安の材料だったトマトが無くなったことであっさりと食事を済ませた私と親方。

案外、食べられるものなんだなと実感しちょっと誇らしげな気分に浸っていると、ふと疑問が思い浮かび親方に尋ねてみる。


「そういえば襲いかかってきた盗賊団についてなんですけど、あれだけ人数が多いってことはまだ全員捕まえられてないんじゃないですか?」


「あぁ、それは俺も少し考えていたとこだ。それにこれを見てくれ」


そういうと親方はポケットの上着から取りだしたものを机の上へと置く。

それはこめが私に襲いかかってきた時に使っていた木製のナイフだった。


「これに関してなんだが、こいつの製造主について心当たりがあるんだ」


「心当たりですか」


「恐らくその仮説が正しいなら、この国の闇は奥深くまで浸透していることになる…」


些か予想外な返答だった。

私はなんと言うべきか分からず、無言を貫いていた。

そんな私に親方は自信ありげに言った。


「心配しなくてもいい。取り逃した盗賊もそれに関わった奴も全員捕まえる。どこまで逃げようとも絶対にね」

















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