第1章 4話 「魔法」
夜中に男女2人が1つ屋根の下
もしそういう状況に置かれた時やるべきことは1つしかないのかもしれない
「なぁレイナそろそろいいか?」
仰向けでベッドに横たわる私をバルザが覆いかぶさる
「私そういうこと経験なくて自信ないです…」
「別にそんなことは気にしなくても大丈夫だよ」
胸のドキドキが止まらない
「ところでレイナには一応言っておかなきゃいけないことがあるんだ」
不安がる私に対してバルザは優しい言葉をかけてくれる
「…なんですか?」
「実は俺……」
ゴクリと私は固唾を飲んで次の言葉を待つ
「ここ3日間歯磨いてないんだ!」
「いやあぁあぁあぁあ!?息臭ェ!歯磨けやおらぁあぁあぁあぁあぁあ!?!?!?」
「誰が息臭いねんおらぁあぁあぁあ!?」
「うわあぁあぁあぁあぁあ!?!?!?」
慌てて飛び起きると、そこにはきちんと騎士団の服装をきたバルザが怒って私を見下ろしている
どうやらさっきまでのくだりは私の見ていた夢だったようだ
窓から外を見ると朝日が昇っており何事もなく1晩超えたらしい
「夢か…良かった…」
「何が夢で良かっただ。のら猫に頼まれた魔法の特訓を始めるぞ」
「あぁ!?ごめんなさい!いきく…バルザさん!!」
「今息臭いって言おうとしたな!?」
ドンドンドンドンドンドンドンドンドン
そんな事してるうちにドアが強く何回もロックされる
「あー分かった分かったから」
バルザは顔しかめドアを開ける
「おはようございまーす」
どうやら訪ねてきたのはのら猫のようだ
「レイナとバルザの乱れた夜は……なかったようだな」
「あるわけないだろ」
「まぁとりあえず昨日言った通り。今日はレイナにこの世界の魔法について教えようと思う。騎士団に報告してレイナが滞在する許可を貰ったからそこは安心しな」
「はぁ」
「とりあえず魔法の練習に騎士団の庭園を使おうと思うから出発の準備をしてくれ」
私たちは朝食を済ませ、騎士団本部へと向かう
そこは他の家よりも3倍ほど大きな建物だった
私たちはそんな騎士団本部の横にある庭園に入る
「とりあえずこの世界にある魔法について教える訳だが、魔法には色んな種類があるんだ」
「色んな種類?」
「魔法は主に2種類、基礎魔法と適正魔法があるんだ」
「2つもあるんですね」
「うん、基礎魔法はみんなが使えるんだが、適正魔法は1人に1つしか使ないんだ」
「1種類だけ…ってことは岩石を吹き飛ばした風やここ天空都市ベルダンへ登った方法ってのは…」
「その通り、あれが俺の適正魔法、風魔法だよ。ちなみにバルザは水魔法だ。まぁ魔法は個人の性格が顕著に出たりするから焦らずとも自分なりのペースで適正魔法を見つけていけばいい」
「分かりました」
「それと1個補足させてくれ、魔法を上手く使えるようになるには『 自分に自信を持つ』ことが1番大事だぞ」
「自信ですか…」
自分に自信を持つ
私にとって最も難しい難題が降りかかってきたような気がする
自信を持って行動出来たことなんてきっと人生で数えられるくらいしかないだろう
私は自分1人で何かを成し遂げるより他の人が何かを成し遂げようとしているところをサポートする方が好きだしきっとそれしか出来ないだろうから
「そう不安がらなくてもいいよ。とりあえず1個ずつ試して見るとしよう。それじゃあ水魔法から試して見るか、バルザ見本を見せてあげて」
「お、俺?まぁいいけど…」
そういうとバルザは庭園にある井戸へと右手を向ける
「水の精霊達よ。俺に従いその力を発揮せよ!さぁ浮かび上がれ!」
バルザの呪文に応じ井戸の中にある水が空中へと浮かび上がる
するとバルザは間髪を入れず次の呪文を唱える
「トランスフォーム!!」
すると空中に浮かび上がった水は綺麗な球体へと変化する
「水魔法はこんな感じで使うことが出来るんだ。発動条件は魔法を使いたいところに利き手をかざしてどのような魔法を使うのかしっかりとイメージしてその魔法が発動するよう呪文を唱えるんだ」
のら猫はバルザの魔法について説明する
「なるほど…えっとそれじゃあやってみます!」
バルザは魔法を解き水を元に戻す
その水が戻った井戸に私は右手を向ける
(えっと…呪文はと…)
「み、水のぉ!せ、精霊たちよ!お、俺に従ってその力を発揮せよ!アクアー!!フロート!!!」
…
……
………
……………発動しない
のら猫は苦笑いをしておりバルザはあちゃーという感じで空を見上げている
「ちょっと!?目を逸らさないで下さいよ!!」
「あー…すまんすまん。なんか共感性羞恥とやらが働いてな」
バルザは上を見上げながらそう呟く
「バカにしてますよね!?それ!!!」
「まぁ水魔法は適正ではなかったってだけだし気にするな!よし次の魔法を試してみよう」
どうやら私に水魔法の適性は無かったらしい
私はどうにか自分の魔法の適性を見つけ出すべくのら猫が扱う風魔法や炎魔法、鋼鉄魔法、療養魔法と試していくが全て上手くいかない
「またダメだった…これで1体何個目ですか…えっと次は…」
途中のら猫が持ってきた魔法一覧とその呪文、扱い方をまとめた本をめくっていく
今のところことこどく悲惨な結果なのだが本当に大丈夫なのだろうか…
そう思いながら次のページをめくる
「えっと次は…ん?魔女の扱う魔法と無制限の魔力について……?」
「ちょっと待ってレイナ」
そのページに書かれている魔法を練習しようすると、それをのら猫が制止した
「?どうしてですか?」
「レイナにはまだ言ってなかったがそこに書いてある魔女の魔法についての内容なんだが…それは魔女とは程遠い俺たちが扱うべき魔法じゃないんだ」
「?それっとどういう…」
私が聞こうとすると同時、横にいるバルザはピンと突き立てた人差し指を顔の前に出し黙るよう指示される
「とにかくこれはそういうものなんだよ。頼むよレイナ」
「分かりました…」
私は仕方ないのでのら猫とバルザの言うことを聞くことにする
「でもこれからどうするんですか?私これじゃ何の魔法の適性もないままじゃないですか」
「そうだな…ちょっと王宮図書館に行って何かいい方法はないか探してみるよ」
のら猫は庭から出て図書館へ向かうおうとする
するとその直後、庭の外で子ども達がボール遊びをしていたのか、塀を超えてボールが現れ、それがちょうど出発しようとするのら猫の頭に直撃したのだった
「うぉっ!?ちょ!今その衝撃来たら横に倒れるって!ちょおぉ!?」
「おい!こっちに来るなって!?」
ボールの勢いが思ったより強かったらしく、のら猫が衝撃で横に転ぶ。しかしそこにはバルザが突っ立っていて2人は思いっきりぶつかり合う
「痛ぃ!」
「痛ぇ!って!ぬぉ!?」
のら猫は尻もちをつき、バルザはぶつかった衝撃でバランスを崩す。バランスを保とうと手をブンブン振り回してなんとか後ろへ転ばないようにするがもう遅い。バルザは後ろへ倒れ込んだ。正確にはそのすぐ真後ろにあった井戸へと…
ドボオォォーン!
とド派手に水飛沫をあげて落下したバルザ
のら猫は突然轟音に驚いた顔をするが、後ろを振り返り何が起きたのかを察する
「ば、バルザさーん!?」
「だ、大丈夫ですか!?」
のら猫と私は慌てて井戸に駆け寄りバルザの安否を確かめる
「ぷッはァァァァ!!!おい!のら猫!突き落とすんじゃねぇ!!!」
「わ、わざとじゃないから!!」
バルザは無事のようだが井戸が深くどう救出するべきか分からない
「えっと…とりあえず俺の風魔法で!ウィンドショット!」
のら猫は慌てて風魔法を放つが、その魔法はのら猫側へバルザを引き寄せる魔法ではなく、のら猫側からバルザを引き離すための魔法だった
つまり井戸の水面に浮かぶバルザの頭部へもろに風魔法で攻撃してしまったのだ
バルザは水面下へ強制的に沈められた
「オボボボボボボボボボボボボ!!!!」
「ちょ!バルザが溺れてるって!」
「え?ぬおおおお!?間違えた!ほんとにわざとじゃないから!!」
のら猫は慌てて風魔法を止める
バルザはなんとか水面下から顔を出す
「何すんだオラァ!!!殺す気か!?」
「あ、焦ってつい!!」
「焦りすぎだ!!てか今ので絶対髪の毛抜けたわ!!」
「抜けたところで今更でしょ」
「やかましい!!!!」
バルザは今ののら猫の誤射で体力をかなり消耗し、体力的にもかなり苦しそうだ
「バルザの体力的にもすぐに助けた方がいいんじゃ!」
「えっと!こういう時、発動する魔法は…」
のら猫はテンパって適した魔法を紡げずにいる
そうしてるうちにバルザは騎士団の服装のままだと重く、かつ先程ののら猫の誤射でより体力を消耗したせいで息切れが激しい
そう思った矢先だった
「あ、オボッ!?」
バルザの体力がついに尽きたのか、上手く浮かぶことが出来ずついに溺れ始めた
「バルザ!?」
もう悠長にしていられない
ここで先決なのは今すぐ騎士団本部へ助け求めるしかない
でも…
初対面の人とはやはり話したくないものだし、のら猫やバルザと違い騎士団には怖い人だっているだろう
それにバルザが井戸で溺れたなんて珍事件が騎士団中に知れ渡ったら一生恥をかくことになりそうで可哀想だ
しかし、これだけ御託を並べたがそれでもやはりバルザを放っておきたくない
「あー!私に風魔法が使えたら良かったのに!!!」
その瞬間、風の吹き荒れる音がした
その直後のことだった
ザパアァァァン!と轟音が鳴り響いた
私とのら猫が唐突な出来事に驚いた刹那、井戸の中の水とバルザが空中へ吹き飛ばされる
「ゲホッ!ゲホ!」
バルザは尻もちをし、井戸の水が口に入ったのだろう。咳き込んでいる
「れ、レイナ!今、何かしたのか!?」
のら猫は今の出来事に驚愕し、私に尋ねてくる
「いや!知らないです!気づいたら魔法が!」
「うぇ…口に入った…でも今のは…絶対レイナの魔法だ。間違いない」
今のは私が魔法を発動したから?
いや…さすがに信じられない
だってさっき試しにやった時は魔法なんて発動しなかった
そう考えてるとあるものが目に入った
「のら猫…転んだ拍子に怪我してますよ!」
先程のボールが直撃してずっこけた時だろう
のら猫が着ていたはずの騎士団の長ズボンは破け、擦りむいたところから出血している
「え…?うわ、本当じゃん!バルザが井戸に落ちたことが衝撃すぎてそれどころじゃなかったな。てかいざ意識すると…あたた…痛くなってきたな」
バルザはその様子を見て言う
「とりあえず傷口を洗ったらどうだ?まぁ井戸の水は、今の魔法ですっからかんになっちまったが」
「水ですよね…近場にそんなの無いですよ…」
辺りを見渡して見るが水なんてものは見つからない
「と、とりあえず騎士団本部に戻って水なり傷薬とかを貰ってくるよ」
「いや、無理で歩いちゃ…」
そう言った直後だった
のら猫は階段につまづいて再びこける
「ぎゃーす!」
「大丈夫ですか!?」
「む、無理して歩かなきゃ良かったな…絶対傷口が広がった…」
のら猫のズボンさっきより破けており、より出血してるのが分かる
「とにかくまずは傷口を洗い流して…ってここらには水がないんだった!?」
バルザは自身を指さし
「俺の水吸った服、絞る?」
「「いや、なんか変なの入ってそうだから結構です」」
「2人揃って失礼だな!!」
「えーと、傷を洗い流す水…水…あー!私に水魔法が使えたら良かったのに!!!」
するとその瞬間だった
ジョロロ
「「「え。」」」
水が…出た!?
どこからか出たか分からない水魔法がのら猫の傷口の汚れを洗い流したではないのか
「一体…どこから水が…」
「レ、レイナ!?いつの間に水魔法を習得したんだ!?しかもさっきまでのほんの僅かな間に!!!」
「いや知らないです!気づいたら魔法が!!」
「まさかこれは…レイナちょっと一緒に王宮図書館まで来てくれ!!」
「のら猫。傷口は!?」
「そんなのどうでもいい!!!!」
いや全然どうでも良くないことだと思うが…
のら猫はズボンの裾を破き、それで傷口を圧迫するように巻き付ける
そして私とバルザはのら猫と共に無理やり王宮図書館へと連れて行かれる
「確かにあの本はここにあったよな…」
のら猫は本棚からいかにも読む気が失せる分厚い本を私の座っている机へと持ってくる
「確か…このページ?いや違うな、ここだったっけな?」
のら猫は必死に本を捲り何かを探している
「あった!これだ!!」
のら猫は見つけたページを私に見せてくれる
そのページにはこう書かれていた
「常人に扱えない魔力を司る魔女について?あ!これってさっきのページの!?」
「あぁ…さすがにそんなことはないと思ってスルーしていたが間違いないだろう」
「おいおいのら猫。これは本当なのか?」
「そう!間違えないレイナはかつてここプロイサン王国に所属していた『第5の魔女の後継者』なんだ!!」
「わ、私がですか?」
私があの本に書かれてある誇張されまくってもはや原型を留めてなさそうな伝説のあの魔女の後継者だって?
………いやいや全く信じれない
「いや、これが本当だって信ぴょう性は…」
「『第5の魔女の後継者』が天空都市プロイサンに現れるなんて!あぁ〜ありがたや〜ありがたや〜」
「いや!ちょっと待ってください!!」
「?何だい?」
「さすがに決めつけは良くないです!まだ風魔法と水魔法をちょびっとしか使えてないじゃないですか!!」
「……た、確かにそれもそうだな」
(ふぅ…良かった…)
「それじゃ他の魔法を使えるかもう一度チャレンジしようか!」
「いやあれをもう一度やるんですか!?」
「善は急げだ!早くやるぞ!あ、バルザこの本戻しといて」
「いや俺の扱い雑だなおい。まぁいいけども」
バルザは分厚い本を本棚に戻す
すると本を戻した衝撃で本棚の上に積み重なっていた大量の分厚い本が落ちてくる
「ちょ!?こんな適当な置き方してたなんて聞いてないぞ!」
「!危ない!!」
このままだと大量に降ってくる分厚い本がバルザの頭に直撃してしまう
もし直撃したらあまりの痛さに毛根が全部抜け落ちるかもしれない
私は必死に右手を伸ばす
「間に合えぇぇええええ!!!!」
その思いに呼応するように私の右手から強い風が吹き荒れ大量の本を吹き飛ばしてしまう
「………え」
「た、助かった…ってか今のやっぱりのら猫が使ってた風魔法だよな?」
「あぁ。今のは間違えなくレイナが洞窟の崩落に巻き込まれそうになった時、俺が使った風魔法だよ」
「いや、ちょ」
「先代の第5の魔女は1度見た魔法を模倣〈コピー〉することができた…やっぱり第5の魔女の後継者で間違いないはずだ」
そんなこと言われても信じられない…
そもそも魔法自体あまりよく分かってないのに、魔女の後継者だの言われても頭が追いつかない
「す…凄いじゃないかレイナ!!!」
「え?」
バルザは感激したように私の手を握りしめてくる
「初手で2つの魔法を習得!さらに魔女の後継者ときた!とっても凄いことだよ!俺たちでは手の届かないようなことをレイナはやってのけたんだから!!」
「そ、そうなんですか…?」
「当たり前だ。俺の時は魔法1つ習得するのにすら苦労したんだぜ。凄いに決まってる」
なんだか予想外だ
急に褒められるだなんて思いもしなかった
ここは素直に感謝したらいいのか、それともそんなことは無いと遠慮した方がいいのか、あまり経験のないことに戸惑ってしまう
「よし!とりあえずこのことは騎士団長1人に報告しておくことにするよ。正式な後継者が現れたなんてなったらこの街も大騒ぎになるだろうからな。とりあえず日も沈んで来たしこれで終わりにしよう!お疲れレイナ。いや後継者さんと言うべきかな」
のら猫はそう言い残して図書館を出ていった
「魔女の後継者か…」
あの本に書かれていたことに私が当てはまるなんてやはり信じられない…
私がそう考えているとバルザが口を開く
「今日も俺の家に泊まることになりそうだな、とりあえず帰るとするか」
「分かりました」
私はバルザと共に図書館を出て帰路につく
その時だった
「騎士団のお兄さん!!」
小さな男の子に声をかけられた
バルザはその子どもと目線を合わせて会話をする
「どうしたんだい?」
「街に現れたっていう泥棒さん…もう捕まえられたの?」
バルザはそんなこと聞かれると思わなかったのか、苦い顔をする
「ごめんね。まだ捕まえれてないんだ」
「どうして!?騎士団の人なら信じても大丈夫だってそう言われたのに!!」
「それは…」
「早く捕まえて!盗ったものを取り返してよ!!」
「まだ情報が少ないんだ…ごめん。今すぐは無理なんだ…」
「なんでだよ!!お母さんもお父さんも泥棒に盗まれてすごく悲しい顔してた!2人の大切な指輪が盗まれたんだって!もうお母さんとお父さんの悲しい顔見たくないよ!!」
「ごめん…」
「なんで…なんで!騎士団のお兄さんも助けてくれないんだよおおおお!!!」
その小さな男の子はバルザに泣きつく
バルザはなんと言葉をかけるべきか分からず苦虫を噛み潰したような顔をしている
「レイナ…すまないが俺はこの子の様子を見るから、先に帰っててくれないか」
バルザはそういうと私に家の鍵を差し出す
「分かりました…」
私はどうすることも出来ず、ただ帰路につくことしか出来なかった
「魔女の後継者だってことで頭がいっぱいだったけど…バルザものら猫も本来なら盗賊団の件で忙しいんだよな…私も何かできないのかな…」
レイナはそう考えながら、もう日が暮れ、暗い夜道を歩く
そんなレイナの後ろに1人の男がついてきてるとも知らずに