第1章 2話 「天空の街」
「それにしても…天空都市ベルダン…」
「うん、天空都市ベルダンだよ」
「え?天空都市って空の上にあるんですか!?」
「そりゃそうに決まってるだろ」
「天空都市なんてフィクションでしか聞いたことないですよ!?」
「まぁ気持ちは分からなくもないが、これは歴とした事実だぞ」
信じられない
天空都市
実際に空の上にある街
そんなもの私の住む世界には存在しなかった
…
やっぱりここは私がかつていた所とは全く違う世界なんだ
今はとりあえず信じるしかない
「わ、分かりました」
「おっ、意外とすんなりと信じたな」
「心の奥底ではまだ信じられませんけど…今はとりあえず信じなきゃいけない場面ですから」
「全く模範的なくらい良い子だねぇ、レイナみたいな子はうちの国にはそうそういないぞ」
「あはは…ちなみにその天空都市へはどうやって向かうんですか?」
「まずはこの洞窟を抜けて、草原をしばらく歩いて、先程のような魔法で上へと上がるんだ」
「ところでその魔法ってのはなんなんですか?」
「まぁそれは後で話すとしよう。とりあえず今はついてきて」
私はなんとなく騎士っぽくないのら猫と洞窟を暫く歩いた
道中には大きな岩が転がってたり大きなキノコが生えていたり大きなコウモリが佇んでおり私の心に不安や恐れが積み重なっていく
しかし幸いなことに岩壁が突如として崩れたり洞窟に住んでそうな危険な魔物が襲ってくることは無かった
そして私とのら猫は暫く歩き長い洞窟を抜けた
するとそこには一面に緑色が広がる大きな大きな草原が見えた
「うわぁ〜とっても広い草原」
「ここら一体はある程度は手入れされているもののそこまで人は住んでいないから自然の形が綺麗に残っているんだ」
ここにある草原は本当に綺麗でとっても広い
視界から見える草原はどれも綺麗な緑色の草で覆われておりその草原に大きな木も何本か生えている
この景観を見ているだけで心の不安がだんだんと薄れていくのが分かる
「それにしてもあの洞窟やたらと長かったですけどあっさり抜けられましたね」
「まぁあの洞窟は定期的に俺が出入りしてたからな、結構手入れを行ってたんだよ」
なるほどどうりであの洞窟を順調に進むことができたわけだ
広い草原を私たちはしばらく歩く
あまりの長さに途中、休憩を挟みながらしばらく歩いた
歩きながらひとまず情報を整理する、ここはプロイサンという国で魔法というものが存在する
魔法自体は私もよく馴染みのあるもので間違いないだろう
しかし疑問なのは一体どうやって魔法を発動しているのかということ
私の過去の記憶が突然消えたのと関係があるのだろうか…
そんな風に私が考えてるうちに天空都市ベルダンの入口に到着したようだ
「ここが入口だ」
「入口って言われても…それらしいものは何も無いですけど」
私たちが立っているところには門や目立った目印もない
ただ先程と同じような草原にしか思えない
「まぁまぁそこは気にするな」
のら猫は片手を耳に当てる
すると近くには誰もいないのに見知らぬ声が聞こえてくる
「こちらプロイサン騎士団第4部隊だ。そちらは?」
「こっちはプロイサン騎士団第3部隊ののら猫。任務が終わったから街に帰還しようと思う」
「そうか。何か収穫はあったのか?」
「ふっふ〜ん。聞いて驚くなよ?なんと女の子を1人収穫して来たのだよ!」
のら猫は私を畑で取れる野菜みたいに紹介したが別に私は畑でとれやしない
「……………もしかして誘拐した?」
「なわけ!保護だよ保護。洞窟に1人で迷い込んでいた所を保護したんだよ」
「で、でも大丈夫なのか?女の子をその…連れてくるなんて…なんかやばくないか?」
「全く相変わらずお前は異性に対してビビりすぎだ。別に人を食らう訳じゃないんだぜ」
「いや…そういう訳ではなくてな…」
「いいから入口を開けてくれ。こっちは歩きすぎてくたくたなんだよ」
「わ、分かった。今解放する」
謎の声が途切れたのと同時に天空から青白い光が私たちのいる草原に差し込む
「入口が開放された。ここから先は天空都市まで一直線だ」
のら猫は私の手を握りしめた
「くれぐれも振り落とされないようにしてくれよ」
振り落とされる?
その言葉が胸に引っかかり私の心にまたもや不安が積み重なる
のら猫はというと大きく深呼吸を行った後、洞窟の時と同じく呪文のようなものを呟きだす
「天空から堕とされた哀れな子羊は、復讐をするべく更なる強者から力を授かる」
すると私たちの立っている草原から青白い粒子が舞い上がり始めた
そのことに気づいた瞬間、ビュン!という音と共に風が押し寄せてきて思わず私は目を瞑る
しばらくしてその瞑っていた目を開けると視界には広い緑の草原ではなく大きな青い大空が写し出されていた
「ッ!?」
私は思わず驚かずにはいられなかった
さっきまでの草原ではなく私たちは大空にいた
そこで強風に靡かれながらその大空を高速で移動していたのだから
「お、おおおおおおおお!?」
私は思わず驚きで素っ頓狂な声が出てしまう
「天空都市まで後ちょっとで着く!もうちょっと耐えてくれよ!!」
のら猫は私を鼓舞するように声をかけてくれるがそんなことは耳に入らない
今の私は混乱でいっぱいいっぱいなのだから
「さ、さすがに速すぎですってこれは!!」
私はやっぱり叫ばずにはいられなかった
あまりに速い
速すぎる
もしのら猫の手をうっかり離してしまい落ちてしまうなんて考えたら恐怖がより一層増していく
私はその恐怖が現実にならないよう繋いでいる手を力いっぱい握りしめる
「そんな怖がらなくても魔法で落ちないようにはなってるから気にするな!」
そんなこと言われても本当に安全かなんて保証がないのだから怖いのは仕方がない
(い、一体あとどれくらいで着くんだ!?)
そんな脳内での疑問に返答するようにのら猫は言う
「もうすぐ着くぞ!3!2!」
カウントダウンが始まった
後ちょっとでこの恐怖も終わる!
「1!」
もうすぐ着く!
もうすぐ着く!
もうすぐ着く!
もうすぐ着く!
「とぉーーちゃくぅーーーー!!!!」
「う、うわぁぁぁぁぁ!?」
ドォォォォォーーーーーン
火薬庫が大爆発したようなとんでもなく爆音が鳴り響く
視界一面には砂埃が舞い上がり周りが見えない
「ゲホッ!ゲホッ!」
辺り一面に舞い上がった大量の砂埃に、咳き込んでしまう
「うぅ…」
私は涙目になりながらもう1度視界を開く
すると徐々に砂埃も落ち着き、だんだんと周りの景色が見えてくる
「やれやれ思ったよりド派手に着地しちゃったみたいだな」
「バカ野郎!こんな傍迷惑な着地の仕方をする騎士団がいるか!」
すると砂埃の向こうから謎の声が聞こえる
先程、のら猫と共に話していた人の声だ
「い、いやぁ…なんかかっこつけたくてつい」
そして砂埃が静まり見えてきたのは石畳の大きな街だった
「えーと、とりあえず…ゴホン。ようこそレイナ。天空都市ベルダンへ」