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はじめてできたカノジョがサキュバスなんてアリですか?  作者: 南野 雪花
第3章 人間の俺が悪魔を守って戦うのはアリですか?
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エピローグ


 冬が過ぎ、春になった。

 俺とミュリアニのあまーい生活は、相変わらず続いている。


「敬一。おはよ」

「ああ。おはよう。ミュリ」


 いつものように、口づけで起こしてくれた恋人に笑顔を向けた。

 たいして広くもない部屋には、朝食の良い香りが漂っている。


「そろそろ起きて」

「もう一回キスしてくれたら起きる」

「キスだけで良いの?」

「その先も必要」


 朝からラブエッチにもつれ込むのもいつものことだ。

 ていうか、それの分の時間を計算して起こすのが心憎いよね。


 ベッドサイドに飾られたデジタルフォトフレームには、二人で撮った写真が表示されている。

 沖縄にいったときのやつとか、京都にいったときのやつとか。


 時雨の家は、もっのすげー豪邸だったよ。

 東洋魔術の大家なんだって、ジェニーが言ってた。


 あ、ジェニーと北斎も同行したんだわ。

 楽しかったぞー。

 冬の京都は良いね。またいきたい。


 沖縄や北海道っていきたい観光地の上位なんだけど、もう一度いきたいっていうランキングだと京都が逆転するらしいよ。

 さすが千年の都。


 舞妓さんのレンタル衣装を着たミュリアニもきれいだったなあ。あ、ジェニーや時雨もなかなかのものだったよ。さすがにミュリアニと比べるのは可哀想ってもんだけどね。


 朝食をとり、身支度を済ませ、ミュリアニにいってきますのキスをしてから部屋を出る。

 手に資源ゴミの袋を持って。


 今日はペットボトルの日です。

 分別が当たり前になったこの時代、毎日のようになにがしかの回収が来るのだ。


「お。じっちゃん。おはよう」


 そして、アパートの廊下を掃き掃除している北斎と行き会った。

 管理人でもないのに、マメなことである。


「これから出勤か? 小僧」

「そそ。新年度が始まるからね。今日から新人も入ってくるらしいぜ」

「うちの高校にも新入生が入ってくるわよ」


 ジェニーの声が割り込んできた。

 時は流れているのである。

 この娘も三年生になるらしいしね。


「あらためて、よろしくお願いするのである」


 そして、聞き覚えのある声が響き、ジェニーの後ろからぴょこんと顔を出す影。

 時雨だ。


 なんと、ジェニーが通っている女子校に入学したんだってさ。

 まあ、魔術協会の息がかかった学校だしね。

 東方魔術結社は親戚みたいなもんだっていうから、コネもあるんだろう。この世はコネに満ち満ちている。


 でもって、たまたま住人が転居したジェニーの隣の部屋に入居したらしい。

 でたな。たまたま攻撃。

 間違いなく裏から手が回ってるんだぜ。


 俺のご近所さんは、聖騎士、魔術士、そして陰陽師だ。

 わぁお。エキセントリックぅ。


「京都以来だな。元気だったか? 時雨ちゃん」

「うむ。敬一殿のおかげをもってな」


 あのときは世話になった、と、律儀に頭をさげてくれる。


 よせやい。

 俺とミュリアニがやったことなんて、ほんのちょっとさ。


 大江山(おおえやま)の鬼復活を阻止して、京都崩壊を防いだのは他ならぬ陰陽師たちじゃないか。


 いやあ、京都でも大冒険があったわけですよ。

 詳しい話は割愛するけどね。


 北斎には巻き込まれ体質と笑われ、ミュリアニには主人公属性とおちょくられる俺の面目躍如だよ。

 必ずなにか起きるんだから。


「汝ら。いつまで立ち話をしておるつもりだ?」


 ぱんぱんと北斎が手を叩いて注意を喚起する。


 いけないいけない。

 朝の五分は貴重なんだ。

 比重としては、夜の一時間くらいかな。


「いってきます。じっちゃん」

「気をつけていくんじゃぞ」


 ふんと鼻を鳴らしながら見送ってくれる。

 相変わらずのツンデレっぷりだ。






 ジェニーと時雨とは路線がちがうため駅で別れ、いつものように満員電車に揺られながら会社へと向かう。

 さすが年度初め。

 初々しい感じの人が多いですなぁ。


 そして、その初々しさを悪い方向に利用して痴漢してるオッサンもいますなあ。

 まったく。

 朝からめんどくさいこって。


 するすると電車の中を移動してオッサンに近づく。

 北斎に鍛えられた体捌きは、電車の揺れも人混みも、まったく障害物にならないんだぜ。


「はいオッサン、そこまでだ。ゲスいことやってんじゃねえよ」


 言葉と同時に、高校生の尻を撫でていた腕を掴んでひねり上げる。

 聞き苦しい悲鳴が響き、注目が集まる。

 女子高生には、関わり合いにならないで移動しろ、と小声で告げた。


「誤解だ! 冤罪だ!」

「OK。それならそれでいいさ。あんたは電車の揺れでたまたまぶつかってしまった。そういうことにしておくぜ」


 ぐっと男に顔を近づけて言ってやる。

 眼光に籠めた言葉は、まったく違うけどね。

 次はないぞ、と。


「誤解して悪かったな」

「い、いや、いいんだ。誰にでも間違いはあるから」


 だらっだらと汗を流しながら、オッサンが頷いた。

 めでたしめでたしだ。


 無料(ただ)で尻を触られた女子高生は業腹だろうが、こういう手合いと関わってもろくなことにはならねーからな。


 訴訟を起こして搾り取ってやるってくらいの覚悟がないなら、とっとと離れてしまうのがお利口さんってやつなのさ。

 面倒を避けるって意味でね。


 やがて、電車はいつもの駅に到着し、それなりの数の乗客を吐き出す。

 もちろん俺も降りたひとりだ。


 朝から余計なお節介を焼いてしまったぜ。


「ちょっとよろしいですか?」


 人影が近づいてきた。

 きびきびした動き、精悍な顔立ち。


 警察手帳を見せなくてもわかるよ。お兄さん。

 内偵中の私服刑事ってとこかな。


「なんです? 警察のご厄介になるようなことは、なにもしてないんですけどね」

「いえ。そうではなく、先ほどの活躍を拝見させてもらいました」


 破顔一笑する察官。

 俺の言い回しが面白かったのかな?


「捜査妨害、とか言わないでくださいよ。高校生を晒し者にするわけにはいかないんですから」

「一言お礼を申し上げたかったのです。あの女の子を助けてくれて、ありがとうございました」


 ぺこりと頭を下げる。

 他人のために。

 こういう人ばっかりだと、この国の未来は明るいんだろうけどね。


「当然のことをしただけです。では、急ぎますので」


 会釈して、俺は歩き始めた。


 嘘じゃないよ。

 会社に行かないといけないんだよ。

 遅刻ぎりぎりってわけじゃないけどね。


「やっぱりお前は俺が見込んだ男だよ。ミュリアニを紹介して良かった」


 かかった声に振り返る。

 N?

 雑踏。雑踏。雑踏。

 そこに私服刑事の姿はなかった。


「メフィストっていってたもんな。そりゃ神出鬼没か」


 ふうとため息を吐く。


 ちゃんとお礼も言いたかったんだけどな。

 最高にいい女を紹介してくれてありがとうって。


 ふたたび歩き出す。

 晴れ渡る空の眩しさに、目を細めながら。


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[一言] これがホントの「悪徳警官」なのかな?
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