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はじめてできたカノジョがサキュバスなんてアリですか?  作者: 南野 雪花
第3章 人間の俺が悪魔を守って戦うのはアリですか?
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人間の俺が悪魔を守って戦うのはアリですか? 11


 東方魔術結社というのは、簡単にいうと魔術協会の親戚みたいなものらしい。

 ジェニーたちが使うのが西洋魔術で、ようするに悪魔との契約が力の源。

 東洋魔術というのは、たとえば陰陽術とかそういうものだという。


 あいかわらず、ざっくりしすぎて良く判らないミュリアニの説明である。


「我らの力の源は神霊である」

「それもまたアストラル界の住人ね。基本、全部一緒だから」

「うぐう」


 ミュリアニにいじめられているこの少女は、秋月時雨(あきつき しぐれ)

 陰陽師なんだってさ。


 俺たちと接触するために、田中の心に忍びより、うまいこと取り入った。

 親戚の子ってのはもちろん嘘で、田中がそう信じてるだけ。


「少女に対して特別な思い入れがある御仁なので、術にはかかりやすかったのである」

「田中……」


 艶やかな黒髪と白皙(はくせき)、つぶらな黒い瞳が、たぶんどストライクだったんだろうなぁ。


「しかし、いまさら東方魔術結社が接触してくるというのは解せんのう」


 じっちゃんが首を捻った。


 ミュリアニというか、悪魔について彼らは不干渉の姿勢を貫いてきたらしい。これまですっと。

 いきなり方針が変わったというのは、ちょっと考えにくいそうだ。

 もしそういうことなら、ジェニーを通じて魔術協会から連絡があるだろうし。


 あ、そのジェニーは田中の相手をしている。

 さすがにこんな話を聞かせられないからね。


 良い感じに距離を取って、こっちの会話が聞こえない位置で雑談に興じているのだ。

 さすがの手練手管である。


 ちなみに、どうしてジェニーかっていえば、やつが興味を持つのは彼女くらいだから。

 俺や北斎なんかははなから論外だし、ミュリアニにもあんまり関心がないという変態なので。


「結社の方針ではなく、我の独断である。敬一殿とみゆりあに殿にお力添えいただきたく、参上つかまつった次第にて」


 ミュリアニ、な。

 みゆりあに、じゃなくて。

 カタカナを発音するの苦手なのか? この子。


 ともあれ、個人的な依頼というやつだ。

 俺とミュリアニは顔を見合わせる。


 残念ながら、俺たちは便利屋とかは営んでいない。

 ただのサラリーマンと自宅警備員のカップルなのだ。

 力添えといわれても、なにをどうしたものやら。


「娘御よ。小僧もミュリ坊も面食らっておる。まずは順を追って話すが良い」


 ラム肉をそれぞれの器に取り分けながら、北斎が助け舟を出してくれる。

 相変わらず気の利くじっちゃんだ。


 あと、ラム肉美味い。

 ちょっと独特な風味があるけど、これはクセになる。


「失礼した。聖騎士殿。そもそも事の始まりは天保(てんぽう)年間である」

「そこまで遡らなくても良いわ。説明に何日かけるつもりだ?」


 うむ。

 びっくりしたよ。

 まさか江戸時代から話が始まると思わなかった。

 もしかしなくても、この子は天然なのか?


 こくんと頷き、時雨が口を開いた。


「三日前、財布を落としたのである」

「江戸時代関係なかった! 驚くほど関係なかった!」


 思わずのけぞる俺であった。






 なんのことはない。

 財布をなくしちゃったので、探すのを手伝って欲しいという話だった。

 あまりのしょーもなさに驚愕である。


「そもそも失せもの探しならば、汝ら陰陽師の独壇場ではないのか? 式神どもに探させればよかろうに」


 じっちゃんも呆れてる。


「それがな。聖騎士殿。符も財布の中なのである」

「だめじゃねーか」


「おじいちゃん。言葉言葉。敬一みたいに汚くなってる」

「おお。すまんな。ミュリ坊」


 祖父と孫の心温まる会話と見せかけて俺をディスるの、やめてもらえませんかねえ。


 符というのは、式神を使役するのに必要な重要アイテムらしい。

 アニメとかマンガとかに出てくる、急々如律令とか書いてるアレだ。


 一応、紙と筆があれば即席でも作ることはできるっぽいんだけど、財布がないってことは紙も筆も買えない。

 本気でダメすぎである。この少女陰陽師。

 いっぺんになくしちゃわないように分けて持ちなさいよ。貴重品は。


 ともあれ、ないないづくしで困じ果てた時雨は、この三日間、食事もとれていないし公園で野宿だった。

 そして今朝、俺の家に向かっていた田中を発見し、そこに悪魔の気配を感じ取って、藁にもすがる思いで術をかけてついてきた、という次第だ。


 うん。

 ちょっと可哀想すぎる。

 育ち盛りじゃないか。


「たくさん食べてくれよ。肉も野菜もいっぱいあるから」


 ばんばん器に盛りつけてやる。


「痛み入る。敬一殿」


 もっしゃもっしゃと食べる陰陽師。腹へってたんだべなあ。

 なんとか助けてやりたい。


「同情には値するんだけど、私たち悪魔は基本的にボランティアってしないのよ。手伝うってことは代価を要求することになっちゃうんだけど、それは良いの?」


 困った顔でミュリアニが言う。

 助けてあげたい、とは思ってるんだろうな。


 ていうか、町内会のボランティア活動に参加してるじゃん。あんた。


「あれは良いのよ。精気(リビドー)集めの一環なんだから」

「さいですか……」


 ミュリアニが通学児童の見守りや、町内のゴミ拾いをやってるだけで、そのへんの男どもの視線は釘付けだからね。

 下手したら小学生男子だって、精気(リビドー)を発散しちゃうかもしれない。


「あんまり若くても美味しくないんだけどね。やっぱり敬一のが最高よ」


 うふふふー、と、腕を絡めてくる。

 もう。すぐそういうことするんだから。


「代価、であるか」


 ふうむと考え込む時雨。


 人間が悪魔に支払う代価なんて相場が決まっていて、魂とか精気(リビドー)とか、そういうものになってしまう。

 ミュリアニは夢魔なんで、精気(リビドー)が最高の報酬なんだけど、哀しいかな時雨は女だ。ミュリアニが食べる男の精気(リビドー)は支払いようがない。


 これはちょっと難しいかな。

 と、俺が考えていると、時雨がぽんと手を拍った。


「我の家に招待というのはどうであろうか。敬一殿も一緒に。京料理でもてなそう」

「京都か。いいねえ」


 思わず反応しちゃったよ。

 あんまり行く機会のない場所だし、これからの季節はとくに良いかもしれない。


 千年の都でらぶらぶデート。

 これはけっこうそそる。


「なかなかいいわね」


 ミュリアニも微笑した。

 契約成立っぽい。


「都内の猫たちに探させるわ。たぶんすぐに見つかると思う」

「なんで猫? ミュリは猫にコネでもあんのか?」


 首をかしげる俺に、北斎が笑った。

 猫とか鴉とかは、ぜーんぶ夜魔の眷属なんだってさ。


 王女であるミュリアニの頼みをきかないなんてことは絶対になく、この東京にいる飼い猫と野良猫、それに鴉が、すべて彼女の目であり耳なのだそうだ。


「そりゃすぐ見つかるわ……」


 びっくりである。


「だから、小僧が浮気などしたら秒でばれるぞ。ゆめゆめ忘れぬことだ」

「しないよ! するわけがないよ!」


 むしろ秒で否定してやる。

 俺はミュリアニ一筋だし、そもそも充分に満たされてるから浮気なんかする必要もないのだ。


「ん。見つかったようね」


 わいのわいのと騒いでいると、朗報が舞い込んだようだ。

 本気で早いな。


「痛み入る。みゆりあに殿」


 深々と頭を下げる時雨であった。

 良かった良かった。


「重畳だがな。小僧。べつに汝が金を貸して、その金で娘御が自分で符を作って探しても良かったのではないか? ミュリ坊の力に頼らなくとも」


 北斎の言葉だ。

 紙も筆も、千円もあれば釣りがくるだろうし、と、付け加える。


「あ」俺は声をあげた。

「あ」ミュリアニも声をあげた。

「あ」時雨も声をあげた。


 まったくもってその通りである。

 そもそも、時雨だって俺の家までこなくとも、田中から金を借りればよかったのだ。

 特殊性癖の持ち主なんだし、嬉々として貸してくれるだろう。


 なんて間の抜けた話だ。


「いや。いつ気がつくかと思って待っておったのだがの。乗り気になっている汝らに水を差すのも悪いし」


 ぽりぽりと頭を掻く北斎。


『はやく言ってよ!』


 俺とミュリアニの声がハモる。


 驚いたのか、ジェニーと談笑していた田中がびくっとなった。

 よからぬ事でも話してたんじゃないだろうな。


「ま、まあ、京都に行くことになったし、それはそれで良いんだよ」

「そうよ。私は敬一と旅行したいから力を使ったのよ。わざとよ」


 うん。

 さすがにその言い訳は無理があるぞ。ミュリアニさんや。


「ぜひ、おこしくだされ」


 なんともいえない顔で、少女陰陽師が言った。


 秋の深まる東京。

 すっかり高くなった空に、小鳥が遊んでいる。


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[気になる点] 陰陽師って「魔を滅する集団」なのではないのであろうか?(・・;
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