じれじれカップルの後押ししてくっつけちゃうのはアリですか? 11
羽田で待ちかまえていた空港警察にテロリストたちが引き渡される。
ハイジャックなんてセンセーショナルなニュースだからマスコミが詰めかけているかと思ったけど、まったくそんなことはなかった。
まあ、乗客に一人の怪我人もいないどころか、犯人たちは銃弾の一発も発射できないまま拘束されちゃったしね。
まったくお寒い結末だけど、そのまま警察にGOだ。
乗客たちだって、べつにマスコミに囲まれたい人はいないだろうから、粛々と事態が進むのに異論を唱える人なんていない。
それにまあ、騒いでもマスコミはたぶん動かないだろうし。
間違いなく魔術協会が裏から手を回してるだろうから。
俺はかつて聖堂騎士団の影響力をみてるから、よく判るよ。
「で、なんであんたまでついてくるの?」
ころころと軽い音を立ててキャリーケースを引っ張りながらミュリアニが振り向いた。
視線の先にはジェニーがいる。
あ、ジェニーはジェニファの短縮形ね。
そう呼べ、と、本人の希望なのである。
「護衛だよ。お姫さん」
しれっと答える。
ミュリアニは護衛が必要なほど弱くない。というよりジェニーなんかと比べても、ぜんっぜん強い。
しかし、そういう問題ではないらしい。
「ヤクザと抗争。飛行機ではハイジャック。たった三泊四日の間にこんだけ巻き込まれてたら、さすがに影からガードっていかないの。You see?」
半笑いしていたら睨まれた。
「あ、あいあんだすたん」
怖い。
ティーンエイジャーにびびらされる三十男の図。
「仲良しね。妬けちゃうわ」
くすくすとミュリアニが笑う。
「そんな馬鹿な」
あんたにはこれが仲良しさんに見えるのか。
きゃいきゃいとじゃれ合いながら到着ロビーのゲートをくぐる。
「もうすこし大人しく帰ってこられんのか。汝らは」
苦笑で出迎えてくれたのは北斎。
律儀なことである。
行きは出発ロビーまで送ってくれて、帰りは到着ロビーまで出迎えてくれる。あんたは心配性のお母さんかってレベルだ。
ありがたいんだけどね。
車出してくれてるし。
「よ。ただいまじっちゃ……」
手を挙げかけた俺を突き飛ばすようにしてジェニーが前に出る。
「お逃げください! ふたりとも!!」
なんて叫びながら。
「魔術協会だと!? いかん! 二人とも離れるのだ!!」
北斎のじっちゃんも叫ぶ。
右手で聖印を切りながら。
なんだこのシュールな構図は。
聖堂騎士団と魔術協会が対立してる。しかもどっちも俺たちを逃がそうとして。
「お前か! 妖怪じじい!!」
「腐れ魔女め。 貴様があらわれるとはの」
しかもなんか互いに知ってるっぽい。
オトモダチ、ではなさそうだけど。
老人と少女が睨み合う。
ばちばちと火花をあげて絡み合う視線。
まさに一触即発だ。
その横をからからと軽い音を立てながらミュリアニが通過してゆく。
とくに感慨もなく。むしろ何の興味も示さず。
「み、ミュリさんや……」
思わず声を掛けちゃったよ。
だって、それはあんまりとというものだろう。
話には筋道とか盛り上がりとか、そういうものがあると思うんだよね。
宿命の対決っぽく対峙してる二人をまるっとなかったことにするのは、さすがにどうかと。
「敬一。そっち見ちゃだめ。知り合いだと思われるわよ」
「他人のふり作戦!?」
ひどい。
あまりにもひどすぎる。
「ゆーて。こんなところでケンカしていたらすぐに空港警察が飛んでくるわよ」
「あ、そっすね。俺も他人のふりしよう」
秒でミュリアニ側に寝返る俺であった。
だってめんどくさいもん。
警察とかに質問されるのを嫌がるのは、たぶん俺だけじゃないだろう。
まして聖堂騎士団とか魔術協会とか、説明のしようがないし。
北斎とジェニーが警察のご厄介になりたいってなら、べつに止めるつもりはないけどさ。
「まったく。今度はなにをやらかしたのだ。汝らは」
さきに戦闘態勢を解いたのは北斎のじっちゃんだった。
ふうとため息を吐きながら。
「俺らはべつに。ただちょっとハイジャックされただけ。乗ってた飛行機が」
我ながら雑な説明だが、こればっかりは仕方ない。
事情はさっぱりわかんないんだもん。
テロリストたちが乗っていて、それを魔術協会の連中が鎮圧した。
俺が知ってるのはこれだけ。
犯人たちの背後関係も動機も知らされてない。
はぁぁぁ、と、もういっかい嘆息する北斎。
盛大に。
「汝は一時も大人しくしていられんのか? 小僧」
待てい。
「俺は悪くねぇっ! 俺は悪くねぇっ!!」
「敬一。あんまり幻滅させないでくれ」
OK。
ちゃんと打ち返してくれると信じていたぜ。じっちゃん。
親指を立ててみせる。
あ、これは『テイルズ・オブ・ジ・アビス』ってゲームの中で主人公のルークがいうセリフね。全シリーズを通しても、最も有名なセリフのひとつだろう。
じっちゃんが言ったのは、主人公のあまりに無責任で子供っぽい態度に、親友兼兄貴分っぽいキャラクターが放った言葉だ。
うむ、と、じっちゃんが頷く。
これだ。
こうでなくては。
「あれはなにやってんの? 姫さん」
「男の友情とか、オタクの会話とか、そういうやつじゃない?」
呆れたような顔の女性陣だった。
北斎所有のハイブリッド乗用車に乗り込む。
つーか、じっちゃん良い車乗ってるよな。占い師ってそんなに儲かるとも思えないんだけど、やっぱり聖騎士って給料がすげー高いんだろうか。
「これは事故車での。持ち主が次々と死ぬという曰く付きだったから安かったのだ」
給料とか下世話なことを訊いちゃった助手席の俺に北斎が笑った。
ちなみにミュリアニとジェニーは後部座席である。
俺としては恋人の隣が良かったんだけど、さすがに聖騎士の横に魔女を座らせるわけにはいくめえよ。
「安かったって……」
「うむ。本体価格は〇.一万円だった」
「買うなよ! そんなもん!!」
驚愕の価格だよ。
なんだよ。千円って。
自動車の値段じゃねーべや。むしろ自転車だって買えなねーべや。
もちろん登録料だのなんだのかんだので十万円くらいはかかるだろうけど、それはどんな車を買っても絶対にかかる費用だから、計算に入れる必要はない要素だ。
「問題ない。今まで持ち主や事故にあった者たちが、ことごとく悪霊化して取り憑いていただけだ」
「どうしよう。問題しかない」
「すべて儂が浄化したからの」
「便利だな聖騎士!」
つまりこの車は、もうまったくなんにも問題ないということである。
北斎の丸儲けじゃん。
「それが儂らの仕事でもあるのだよ。小僧」
「ああ……なるほど」
理解した。
順番が逆なのだ。
北斎は車が欲しくて購入したわけではないということである。
寄る辺ない悪霊たちを浄化するためにこれを買った。そのあとは、充分に使用に耐える車をスクラップにするのももったいないから使っているだけなのだ。
「ふん。善人気取りの妖怪じじい」
真後ろから舌打ちが聞こえます。
ジェニーだ。
ミュリアニは運転席の後ろである。上座ってやつ。ちなみに俺が座ってる助手席が一番の下座。
ただまあ、これってドライバーがどういう地位かによってだいぶ違ってくるんだけどね。
どうでもいいマナー講座でした。
「悪霊化した幽霊なんて消滅させれば良いだけなのに、わざわざ浄化してやるとか、どんだけ善玉ぶりたいんだかね」
吐き捨ててるし。
そういうなって、ジェニーさんや。
どうせ送るなら、ちゃんと送ってやった方が良いじゃないか。
乱暴な方法でなくて。
「そのへんは術者の気持ちの問題だからね。結局は同じことなんだけど」
肩をすくめるミュリアニだ。
いがみ合いに辟易したのだろう。
しかし北斎とジェニーの反応は、ちょっと予想の外側だった。
『同じ……こと……?』
異口同音に呟いてるし。
ていうかじっちゃん。ちゃんと前見て、前。
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