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はじめてできたカノジョがサキュバスなんてアリですか?  作者: 南野 雪花
第1章 セックスから始まる恋愛はアリですか?
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セックスから始まる恋愛はアリですか? 2


 さて、何を願う?


 ここで金とか権力とかを望んではいけない。

 なにしろ相手は悪魔だから。

 そういうものを願った人々が破滅するのは、まあ定番ですからな。


 俗っぽいものを欲しがっちゃいかんのですよ。

 ならば、俺が願うのはただひとつ。

 ぐっと右手を差し出す。


「彼女に、なってください! おなしゃすっ!!」

「……敬一にとって、それは高尚なお願いなんだ?」


 なんともいえない表情のミュリアニである。


「金や権力よりは?」

「たいして変わんないと思うけど……あんだけやったのにまだ足りないの?」

「いや。そこはどうでも良いんだ」

「良いんだ……」

「デートしたいじゃないか。一緒に街とか歩きたいじゃないか」


 ぐいっと身を乗り出す。

 大事なことだ。


 セックスしただけでバイバイってのは、風俗と一緒なのである。

 それでは卒業したことにならない。

 素人童貞のまま。それすなわち、童貞なのだ。


「うん。この童貞力の言ってることが、私には一グラムも理解できない」

「男とは、理解されない生き物なのか」

「あんたが理解できないって言ってんのよ」


 なんてこった。

 俺の高尚な精神が理解されないなんて。


「どのあたりが高尚なのよ? そもそも私と敬一は種族が違うのよ? 判ってる?」

「うん」

「いや、あんた絶対理解してないでしょ」


 ものすごく疲れたようなため息をミュリアニが吐いた。

 解せぬ。

 仕方がない。きちんと説明しよう。


「良いか。ミュリ。良く聴いてくれ」


 俺はモテない。

 自分で言うのもなんだが、生まれてこの方、モテたことがない。

 コミュ障だからだ。

 異性を目の前にすると、緊張して喋れなくなってしまうのだ。


「いやいや。いま喋ってるじゃん。べらっべらと」

「そこだ。ミュリ」

「どこよ?」


 うろんげな目の夢魔さまです。

 わかんないかなー?


 ここまで異性と話せたのは生まれて初めてなんですよ。

 快挙といって良いくらいなんだ。


「すなわち! きみこそが運命の人だ!!」


 ぎゅーっと抱きしめる。

 ああ。

 なんて柔らかくて良い匂いのする身体なんだ。


「人じゃねーって言ってるだろ」


 ぐっと押し戻されました。

 しょぼん。


「言ってる意味は全然わかんないんだけどさ。ようするに敬一は私に惚れたってこと?」

「いえす!」


「悪魔なのに?」

「いえす! あいらぶ!!」


 人間とか悪魔とか、ちゃんちゃらおかしいってもんですよ。

 俺の部屋に現れてくれて、俺を愛してくれた。

 きみこそ俺の天使だ。

 悪魔だけど。


「やべえ……この人間きもい」


 あれ?

 なんか引かれた?


「だめっすかね……」

「なんでいきなりしょんぼりするのよ。さっきまでの勢いをどこに捨てたのよ? あんたは」


 うう。

 だってだって。


「仕方ないわね……なんでもひとつ願いを叶えるってのが契約だし」


 しょげてしまった俺の頭を撫でるミュリアニ。

 許された。

 俺、許された。


「ミュリ……しゅき……」

「や。なんでそこで語彙力を失うの? バカなの?」






 ところで、誰も興味ないだろうけど、俺は社会人である。

 大学を卒業後、中堅の建設会社に就職した。


 このご時世に正社員ってのは、そこそこ安定した身分だといえるだろう。会社自体もホワイトというほどではないが、ブラック企業ではない。

 福利厚生はちゃんとしていると思うけど、ほどほどにサービス残業もある。

 一応は完全週休二日を謳っているが、休日出勤しなくてはいけないことも皆無ではない。


 でもまあ、東京都心にアパートを借りられるくらいの給料はもらっているし、余暇を趣味に使う程度の余裕もある。


「あらためて考えると、モテる要素は揃ってると思うんだ。わりと」

「べつに女は条件になびくわけじゃないでしょ。あんた自身が問題なのよ」


 出勤の準備を手伝ってくれながら、ミュリアニが半笑いを浮かべる。

 ヒドス。


「緊張してなんにも喋れないか、わけわかんないマシンガントークか、どっちかしかないんじゃ、普通の女はどん引きよ」


 そうだけど。

 まったくもってその通りだけど。

 そんなにはっきり言われたら泣いちゃうぞ?


「泣かないでよ? うざいから」

「ミュリが冷たい」

「そもそも敬一は私に何を求めてるのよ?」

「愛」


 はぁぁぁ、と、ミュリアニが盛大なため息を吐く。

 そういうとこだぞ。


「とにかく、帰りに私が着れる服を買ってきて。このままじゃ外にも出られないから」

「い、いえすまむ」


 ごくりと唾を飲み込む俺だった。

 ミュリアニは全裸で登場した。いまは俺のワイシャツを着ている。

 裸ワイシャツだ。


 ひっじょーに素晴らしい格好だが、これで外出することはできない。

 なので、俺は服を買ってこなくてはいけないのだ。

 下着も。


「ブラとか買うのは敬一には無理だろうから、コンビニかドラッグストアでパンツだけ買ってくれれば良いわよ。Mサイズのやつ」

「お、おう」

「服はこのさいスウェットとかで良いから。最低限、外に出られればOK」

「が、がんばるよ」


 現状では、服を買いに行くための服がないのである。

 おしゃれなのをもってないのー とか、概念的な意味ではなく、物理的に。

 全裸ワイシャツで外出なんぞしたら、さすがに通報されてしまう。


 それは事実だ。

 事実だが、俺が女物のパンツを買うのは、それはそれで通報案件な気がするぞい。


「堂々としてたら案外スルーされるものよ。キョドるから怪しまれんのよ」

「ていうかさ。魔法とかそういうので服を出すとかできないのか?」


 それで全部解決するのに。

 悪魔なんだから、そういう理不尽な力を持っていてもいいと思うんだ。

 むしろ持っていてください。お願いします。


「魔力は受肉(じゅにく)に使っちゃったから、スッカラカンね」

「受肉?」


 耳慣れない言葉に訊ねれば、こくんとミュリアニが頷く。


 夢魔というのは、本来は肉体を持っていないらしい。

 アストラルサイドがどうこう言っていたが、詳しいことは俺にも判らない。


 ともあれ、俺と恋人関係になるためには肉体が必要であるため、昨夜のようなかりそめの身体ではなく、きちんとした人間の肉体を形成しなくてはならなかったそうだ。

 そんで魔力を使い切ってしまったと。


「おおう……俺のために……」

「私たち悪魔は契約によって生きる者だからね。約束した以上はきちんと履行するのよ」


 そのあたりは平然と嘘を吐く人間と違うらしい。

 方便を用いたり、訊かれていないことには答えなかったり、誤解や曲解の余地のある言い方をしたりすることはあっても、悪魔は嘘を吐かないのだという。

 なかなか複雑な生き様だ。


「でも、魔力を使い切ってしまって大丈夫なのか?」

「肉体は人間になったから平気よ。それに、生命維持に困難をきたすくらいまで使うバカはいないわよ。それこそ人間じゃあるまいし」


 唇の端を持ち上げる。

 ちょっと耳が痛いね。


 無理に無理を重ねて限界を超え、それで体を壊し、ときには命まで失ってしまう人間は枚挙に暇がないから。


「本当に命のかかった戦いっていうなら無理もするけどさ。なんで仕事や学校なんかで無理をする必要があるのか、私にはさっぱりよ」


 両手を広げてる。

 うん。

 俺にもさっぱりだよ。


 いまのところ俺はそういう状況になってないけど、たとえばパワハラとか無謀なノルマなんかで追いつめられたら、平然と会社を辞めるだろう。

 最悪、無断退職したって良い。


 社会人として云々、なんてお題目より、俺自身の命の方が大事だから。

 死ぬまで会社に奉仕するってのは、なんぼなんでもナンセンスってもんだ。


「ただまあ、なるべくはやく魔力は回復させてしまいたいんで、帰ってきたら補給よろしくね」

「補給て……」


 どうやってそんなもん補給するんだよ。

 首をかしげる俺の前で、ミュリアニは左手を軽く握って輪っかを作り、そこに右手の人差し指を出入りさせた。

 すこすこ、と。


「わかるでしょ? ウブなネンネじゃあるまいし」


 わかるけど!

 女の子がそんなジェスチャーしたらだめでしょ!

 あと、俺ウブだから!

 昨日まで童貞だったから!!

 

 

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