表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
はじめてできたカノジョがサキュバスなんてアリですか?  作者: 南野 雪花
第2章 じれじれカップルの後押ししてくっつけちゃうのはアリですか?
13/33

じれじれカップルの後押ししてくっつけちゃうのはアリですか? 2


 大海原で遊ぶ巨鯨のようにジェット旅客機が進む。

 常夏の楽園、沖縄を目指して。


「あんがい空いてるわね。敬一」


 隣の座席でミュリアニが言った。

 機内や窓の外を面白そうに眺めたり、けっこう興味津々である。

 初めての飛行機なんだってさ。


 まあ、魔法が使える夢魔は乗る必要ないもんね!

 彼女の転移魔法を使えば、東京から沖縄なんて一瞬だ。


 でもそれじゃ風情がない。

 旅ってのは、行程もふくめて旅なのである。


「九月の半ばじゃ仕方がないさ。けっこうシーズンオフだ」


 高校生や大学生の夏休み期間も終わり、お盆も遠くに過ぎ去った日本は、もうすっかり平常運転だ。


 俺が勤務する建設会社には明確な夏休みというものがなく、七月から九月までの間に交代で取ることになっている。

 期間は五日間。

 前後に土日があるわけだから、都合九日間の夏期休暇だ。


 学生時代が懐かしいね。あの頃は四十日も休みがあったのに。


 ともあれ、俺はあえて九月半ばに休暇をぶつけたのである。

 理由は簡単で、空いてるから。

 コミュ障の俺としては、わざわざ混んでる時期を選んで観光地になんぞ行きたくないわけですわ。


 でもミュリアニとは旅行したい。

 そうなると、九月半ばってのは美味しいのである。


「謎理論よねえ」

「否定はしないけど、混んでる時期にいって、ミュリの水着姿をじろじろ見られたくないってのもある」


 理由の六十パーセントくらいね。

 独占欲と笑いたいなら笑えばいいさ。

 ミュリアニは俺のもんじゃー。


「んふふふ。嫉妬に狂った敬一に乱暴に犯されるってのも、私としてはありなんだけどね」

「そんなばかな」


「縛ってもいいのよ? 亀甲縛りとか教えるし」

「どうしてあなたはアブノーマルの沼に引き込もうとするのか」


 困った恋人なのである。

 なんつーか、ミュリアニにNGなプレイというのは存在しないらしい。


 でも無理だから。

 俺がノーマルだから。

 SMとか屋外露出とかNTRとか複数プレイとか、ノーサンキューですって。


「敬一みたいな、ラブラブ全開で可愛がってくれるのも、もちろん好きよ」


 ちゅっと頬にキスしてくれる。


 どーだ。

 羨ましいべー?

 なーんても思っても、そこそこ空いてる機内では注目も浴びないのであった。


 旅客機は進む。

 この国で最も新しい領土へと。






 いまさら言うまでもないことだけど、沖縄ってのは数奇な運命を辿った土地なんだ。


 古くは琉球(りゅうきゅう)王国っていう独立国だった。

 ゆーて、強い国だったわけでもなくて、当時の中国や日本の両方から圧迫される、かなーりつらい立場だったらしい。


 でもって十七世紀には薩摩(さつま)藩に征服されて、独立をうしなっちゃう。

 つーか薩摩ってたしかに強いイメージはあるけど、たくさんあった藩のひとつだよな。

 それに征服されちゃう王国って、どんだけ弱いんだって話である。


「そのあと琉球藩ってことになるんだけど、明治になると名前も消えて、沖縄県になるんだ」

「弱小国の宿命よね。ヨーロッパなんかでもいくつも例があるわ」


 教科書を軽くなぞった程度の説明に、こくこくとミュリアニが頷いた。


 そーだよな。

 こいつこう見えて、俺よりずっと長く生きてるんだ。

 戸籍上は二十二歳だけどね!


 場所はひめゆりの塔。

 ここにも壮絶な伝説がある。


「合体!」

「トーテムポール!」


 ミュリアニが変なポーズを決め、後ろから俺が、彼女の頭に自分の顔を乗せる。

 自撮り棒を伸ばしてぱしゃり。


 北斎に送ってやる記念写真だ。

 や、そういうことをする場所じゃないってのは判るよ?


 慰霊碑だしね。これ。

 太平洋戦争の末期に、アメリカ軍と日本軍が激戦を演じ、もっのすごい数の人が犠牲になった。

 女性だけで構成されたひめゆり部隊もそのひとつだね。


 ざっと十数万人っていうから、ちょっと信じられないくらいの人が、殺されるか自殺するかしたんだよ。

 戦争が愚行だってのが良く判る。


 その犠牲になった人たちの霊を慰める石碑の前で、変なポーズをしてるんだから、俺たちの愚行もなかなかのものだろう。


「でもま、それで良いのよ。理由はどうあれ人が訪れれば忘れられずに済むわ。こういう人たちこそ本当の意味で不滅なのかもよ」


 北斎に写真を送信し、ミュリアニが微笑む。

 ちょっと寂しそうに見えるのは俺の気のせいだろうか。


 千年の時を生きる夢魔の思いは、俺程度には判らない。

 たぶん忖度してもいけないことだろう。


「それじゃあ飯に行きますかね。琉球王朝の宮廷料理とやらを予約してあるぜ」

「いいわね。今夜は王侯貴族の気分を味わいましょ」


 俺の不器用な話題転換に、ミュリアニがくすりと笑い腕を絡めてきた。

 むにっと素晴らしき感触が二の腕に伝わる。


 ほら、パーカーの下が水着なんですわ、この娘。

 やばいっす。


 落ち着け。落ち着け俺。

 こんなところで勃っちゃったら恥ずかしいでしょ。


「私としては、そこの木陰でもオッケーよ」

「だーかーらー そういうこと言うんじゃありません」


 そうやってからかってばっかりいたら、今夜どうなっても知らないぞ。

 寝かせないぞ。


「新婚旅行みたいなものだしね。百発でも二百発でもばっちこいよ」

「それは勘弁してください。しんでしまいます」


 一瞬で負ける俺であった。


 腕を組んで歩き出す。

 レストランの予約まではまだちょっと時間があるから、まずはそのへんをぶらぶらしますかね。


 もうね。

 日差しも風景も、南国! って感じ。

 九月も半ばだってのに、ものすごく暑い。


 東京も残暑きびしいけどさ、まったく違うんだよね。

 このまま、わーって海に走っていきたいくらい。

 さすがにやらないけどね。俺だってもう三十なわけだし、そんな子供みたいな真似は。


「やってもいいわよ? 私も付き合うし」

「ミュリがやると、別の意味で注目を集めそうだな」


 これだけの美貌とプロポーションだもの。

 目立つなっていう方が無理ってもんだ。


 それが夢魔。

 存在そのものが、人間のオスを惹きつけてやまないのだ。


 そしてその愛を独占してるんだから、俺には男どもの視線がざっすざっすと突き刺さっている。


 OK。

 痛気持ちいいくらいさ。

 もっと嫉妬してくれても良いのよ?


 ちなみにミュリアニは、女たちからちらちら見られている。

 一緒にいる俺がいい男だから、という理由ではもちろんなく、プロポーションや顔に対する嫉妬だろう。


 やめときなさいよ。あんたたち。

 下手につっかかったら殺されるからね。


 ミュリアニさんったら男には寛容だけど、女には無関心なんだから。

 ぷちっと虫みたいに潰されるわよ。


「むう。なんか見られてるわね」


 形の良い下顎に右手の指をあてるミュリアニ。

 やや眉根を寄せてる。


「嫉視ってやつじゃね?」

「そっちじゃないわよ。人間のメスから私たちがどう見られるかなんて、べつにいまさら気にしないわ」


 大度なことで。

 勝者の余裕ってやつですな。


「私が気にするとしたら、人間の視線じゃないわよ」


 直接的でない言葉。


 まさか、またいるのか?

 人外が。

 下級悪魔とか、そういうのはさすがに勘弁して欲しいんだけど。


同族(あくま)って感じじゃないわね」


 ふ、と、息を吐いて歩き出す。

 正体を確かめるつもりらしい。

 もちろん俺も付き合いますよ。


「私から離れちゃダメよ。敬一」

「嫌だといわれても離さないさ。ミュリ」

「そういうセリフは夜のベッドでささやいて」

「あいあいさ」


 観光地から住宅街へと進んでゆく。


 ああ。

 こういうのも風情があるよね。

 風に揺れる椰子の木とか、いいなー。


「なんか誘われてる感じね。どこに連れて行く気なのかしら」

「ミュリには見えてるのか? 相手」

「いいえ。気配だけよ。人でも悪魔でもない気配」


 ふーむ。

 いったい何者なんだろうな。


 ちらりと北斎がくれたタリスマンを見る。

 あてにしてるぜ。じっちゃん。



※著者からのお願いです


この作品を「面白かった」「気に入った」「続きが気になる」「もっと読みたい」と思った方は、

下にある☆☆☆☆☆を★★★★★にして評価していただいたり、

ブックマーク登録を、どうかお願いいたします。


あなた様の応援が著者の力になります!

なにとぞ! なにとぞ!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ