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第1話 星城高校三姉妹神


「はぁぁぁぁ、千晴さんは癒されるなぁ」


 個人的に世界一眠たくなると思っている『私立、海星高校』世界史の授業中、俺は中庭を挟んで反対の教室、ぽわぽわと落ち着いた様子で四限目の授業を受けている先輩を眺めながらぽつりと呟く。


「だな~、何たってあの眠たそうな顔にふわっとした髪、そして何より包容力が凄まじいんだよな~」

「分かるわぁ、なんか千晴先輩と話してると本能的にバブみが出るっていうか」

「それも全部母性でカバーしてくれるんだよな~」


 不意に隣から割り込んできた親友の言葉に、俺はうんうんと首を縦に振り同意する。


「そういやお前、今日の『()()()』のミーティングには出るのか?」

「ん、あ~今日は父さんと母さんの墓参りに行くから出ねぇわ」

「そうか、お前の両親、今日で一カ月だもんな」


 二人が死んでから今日でもう一カ月。驚くべき時の速さに俺は肩を竦める。

 文脈から分かるとは思うが、俺には両親が居ない。丁度一カ月前に交通事故で二人共死んだ。だから今は両親の残した一軒家で一人暮らし。二週間に一回、祖母が家まで来て掃除やら溜まった家事やらをしてくれている。


「あぁぁぁぁ、もういっそ、千晴さんが義母になってくれたらなぁ」

「何馬鹿な事言ってんだ――――ん?」


 俺の馬鹿げた発言に朔が苦笑いして言うと、ふと朔が千晴さんを指差す。俺はそれに従うようにそれていた目を千晴さんに向ける。

 すると千晴さんがこちらを向き、口をパクパクと動かして――何かを伝えようとしていた。


「――なぁ(しゅう)、聖母様何言ってんだ?」

「ん~……」


 遠距離での『口パク伝言ゲーム』は案外難しい……ええと、『よ』、『ろ』、『し』、『く』、『ね』――


「『よろしくね』?」

「は? 何に対して? お前と聖母様って仲良かったよな?」

「そのはずだが……」


 実は俺と千晴さんはお隣さん関係。元々千晴さんのお父さんと俺のお父さんが親友だったこともあり、昔からそれなりの付き合いは有る。まぁ、高校に入ってからは少し関わりが少なかったが、かと言って今更よろしくを交わす関係にまで落ちたわけでは無い――はずだ。


「う~ん……『よろしくね』か」

「勘違いじゃないか?」

「――そうなのかな……?」


 千晴さんの口から直接聞いてない以上、確かに朔のその説が最も有力だ。もう一度対向の教室を見てみるも、既に千晴さんは前を向いて授業に集中している。だが、このまま『よろしくね』の意味を考えていても、理解することは難しいと思った俺は、心に残ったモヤモヤを胸の奥へ追いやり、残りの数十分を過ごした。




 昼休みになり、俺と朔はいつものカツ丼(卵、米マシマシ)を持って、多くの人で賑わっている中ぽっかりと空いた中央の席へと向かう。


「いや~、ここはいつも席が空いていて楽だな~」

「だなぁ~」


 俺たちは、カツ丼と共に貰った熱々の緑茶で一服しながら言う。朔の言う通り、この中央一帯にはどんな時でも、例え周りの席が全て満席だったとしても空席が有る。何故ならここへ来る人の約9.9割が『星城高校三姉妹神』目当てだからである。


『星城高校三姉妹神』とは『一色家三姉妹』を指し、そのそれぞれの魅力的な美貌は勿論、勉学、運動、美術力など様々な面で才能に溢れた、いわば神を具現化した姉妹とうちの高校内で崇められている三姉妹である。しかし、最近ではその三大神からそれぞれ信仰する神、(すなわ)()()を決め、信者がその非公式ファンクラブに属する事で自ずと勢力が出来てきている。


 その中でも最も信者の多い『聖母会』を率いる人間こそが一色家長女『一色(いしき)千晴(ちはる)』だ。

 千晴さんは知っての通り、思春期真っ只中の男子高校生を一瞬にして赤ちゃんにさせ、しかもそれを天然母性で優しく包んでくれるところが人気で主に、男子信者が多い。もっとも、女子との仲も悪い訳ではないのだが。


 そして次に勢力の大きいファンクラブは、学校中でロリを布教しまくっているロリ天使使節団、もとい『天使ココアのお兄様』率いる一色家三女の一年、『一色心愛(ここあ)』。ここはただ単純にロリ信者が多い。

 心愛は天使と呼ばれるのもおかしくない程の可愛い童顔なのに加え、誰これ構わず男子の先輩の事を『お兄様』と呼び、このまま行けば発芽しなかったであろう男子高校生の一種の性癖『ロリコン』を大量に発生させたからである。こんなことをしていると当然、女子からは「あざとい」や「男たらし」などと陰口を叩かれる事もあるようだが、中にはそんな心愛にお姉さまと呼ばれたい『ロリコン姉』も一定数居るとか。


 最後に『best of 女神』率いる一色家次女『一色佐奈(さな)』。佐奈は俺たちと同じ二年生で有り、成績は常に学年トップ。

 それに加え、音楽にも長けており、コンテストでの度重なる敗退により部活存続も危うかったブラバン部を、練習方法の問題を根本から見直し見事金賞にまで導いた救世主。おまけにコミュ力にも長けており、女子から絶大な人気を博しているまさに、星城高校の女神である。



 そして、先程も言ったように俺と千晴さんはお隣同士。即ち、それが指す意味とは――


 ――「やっほ~、秀ちゃん。何で昨日はベランダに来てくれなかったの?」――


 ――「秀お兄ちゃん、心愛もご一緒しても良いですか? ほら、先週みたいにあ~んしてあげますよ?」――


 ――「あれ~? 秀君、モテモテだねぇ~。じゃあ私もここでご飯食べちゃおっかな~」――


 こいつら全員、お隣さんで幼馴染なので有る。

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