皇統十二宮と七妖
「この世界には、皇統十二宮と呼ばれる、神から王権を授かった12の家系が存在しておる」
賢者はそう語り始めた。
「皇統十二宮は、それぞれ自らの家系に王権を与えた神を祀る宗教を、国教として定めておる。そのいずれの国もが、強大な軍事力・経済力を持っており、文化・生活水準も高い。皇統十二宮の治める大国が、この世界の秩序を保っていると言って過言ではない」
「なるほど……その十二の国というのは?」
「セフェル・ハ=バヒール大司教領、インウィクトス帝国、アルテミィア皇国、ニダヴェリール連合王国、アールヴヘイム王国、ネプトゥーナーリア帝国、ツァラトゥストラ首長国連邦、マハーヴァーストゥ帝国、華の国、モコシ連邦、クエルボ王国、そしてエイルリフィア皇国となっておる。……この他にも”宮落ち”とよばれる、かつて皇統十二宮であったが没落や廃絶、敗戦や政変によって地位を簒奪された王家、あるいは他の王家と連合、傘下に下った国がいくつかある。今の十二家は、千年前からそのままじゃがな。まあ、それはまた追々知ることになるじゃろう」
「なるほど……それでは、インウィクトス帝国の皇子というのは、かなり政治的に重要な立場にあるということですね」
女神様は何故、自由が利き辛い立場に僕を生まれ変わらせたのだろう。転生先を選べなかったのだろうか?
「そういうことじゃ。そして、この世界の秩序を支える集団にはもう一つ。皇統十二宮とは別に”七妖”と呼ばれる、七人の強大な魔力を持った魔女が存在する。彼女らは皇統十二宮とは異なり、必ずしも血統による世襲制ではないがの……この七妖によって、魔界と人間界とは交わることがなく、秩序が保たれるようになっておる。つまり、世界のバランサーとでも言えば良いかの。彼女らは魔界と人間界との境界……それぞれ天空、氷河、火山、深海、雷雲、砂漠、森林に城を持ち、そこにひっそりと棲んでいると言われておる。」
「七妖……強大な魔力、というのはどれくらいなのですか?」
会話の端々から聞こえていたが、やはりこの世界には魔法も錬金術も存在しているらしい。それが単に体系化されていないだけの「科学」であるのか、それとも全く別の自然法則に基づくものなのか……人間界とは別の魔界、というのも気になるが……考えるだけで、頭に靄がかかってくる。
「純粋な戦力でいえば、一人で皇統十二宮が治める一国と対等に渡り合えるほどの力があると言われておる。まあ、七妖は世界の辺境に位置する自らの領域から出ることは滅多にないそうじゃから、人間の方から手を出さない限り、そんなことは起こらないじゃろうがの」
一個人が国家と同等の力を持っているなんて、想像し難い。核兵器を個人で保有しているようなものだろうか? そんな世界、考えただけでも恐ろしい。
「いずれにせよ、皇統十二宮の後継ともなると色々と窮屈そうですね。できる限り自由のある暮らしがしたかったのですが……」
「うむ……第二皇子とは言え、リヒト殿下は皇帝陛下のお気に入りじゃからのぉ」
……第二皇子、ということは僕には兄がいるのか。順当にいけば、その第一皇子が次期皇帝ということになるだろう。なんとかして皇族から離脱できないだろうか。
「じゃが、儂の些細な頼みを聞いてくれるのなら、君が望む『自由のある暮らし』を手に入れるため、協力しても良いぞ」
そう言うと賢者は、茶目っ気たっぷりにウィンクをした。