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九回、お前が投げるか

作者: 楊泰隆Jr.

実際のこととは関係ありません。似ている場面を思いついたとしても気のせいです。これは私の妄想です。

「九回、お前が投げるか?」


 俺をベンチ裏に呼んだ監督が言う。

 俺は先発投手だ。そんな俺に「九回、お前が投げるか?」などと監督が言ったのはこの試合が今季の、いや俺にとっての最後の試合になると思ったからだろう。

 日本シリーズ第六戦、敵チームに大手を掛けられて崖っぷちの試合、なのに七回を終えて七点差のビハインドだ。相手の中継ぎ陣を考えると残り二回で七点差をひっくり返すのは絶望的だった。

 俺は明日、あるか分からない第七戦の先発予定だった。その機会は無くなりかけている。そして、俺は引退を宣言している。だから監督は俺に『記念出場』の機会を提案したのだろう。

 監督のことは現役時代から良く知っている。自分にも周りにも厳しい人だった。このチームが暗黒時代と呼ばれていた時、チームを支え、どんなに苦しい試合でも最後まで諦めなかった人だった。

 そんな人が俺に「九回、お前が投げるか?」と言ってくる。俺も老けたが、監督も老けた。監督という重圧もあったのだろう。俺は自分が大したことをしたと思っていないが、この人は俺がいたからリーグ制覇が出来たと思っているのだろうか? だから、こんな提案をしてきたのだろうか?


「馬鹿、言わんでください」


 それが俺の答えだった。

「俺も年です。今日投げたら、明日投げられません。監督、まさかと思いますが、もう諦めたんですか? まだ選手は戦っています。ファンも声援を送っています。なのに、監督が折れたら、失礼じゃありませんか。最後まで戦いましょうや」

「いいんだな?」

「良いも悪いもありません」

「分かった」

 奇跡は起こらなかった。

 何も見せ場のないまま、俺たちは負けた。

 俺に登板の機会はなかった。


 後日、一部の報道で俺を出さなかったことに触れている。その記事を見て、俺は苦笑する。

「俺たちは最後までに諦めずに戦ったんだよ。それに…………」

 読んでいた新聞を机に投げる。

「二十年間、先発でやって来た俺の最後がリリーバーって方が締まらんよ」 

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