鼻から牛乳を垂らして、忍者が
「ぶっ!! ぶほっ!!
ゴホンゴホンッ!
アホ、来たやんけっ!」
コンビニのバイトからの帰り道、アタシは男の咳き込む声で足を止めた。
家から近いし、軽い運動も兼ねて歩いて通っていた。
16歳のアタシに「夜道は危ないんちゃうの?」と心配してくれる友だちもいたけど、小さい頃からパパに武術を仕込まれているから平気。
ただのチカン程度なら、不意討ちされても叩きのめせる自信があった。
ただのチカンなら──。
場所は、世界遺産にも登録された古墳群の一つ、小さな古墳沿いの道。
住宅街の外れと言えば外れ。
街灯もあるけれど、薄暗いと言えば薄暗い夜道。
柵の向こうの古墳の敷地には大きな木が数本生えてて、見事な枝が道の上に大きくせり出しているせいもある。
でも、人影は見えない。
声はどこから──。
「ハッ!! 上ッ!?」
アタシは気配を感じて飛び退いて、そのまま後ろに転がる。
レンガ造りの歩道が痛い、
顔を上げると、アタシのいた場所には黒い服を着た2人の男が立っていた。
「に、忍……者……?」
あれは、ホンマやったんや……。
13歳の時にパパに打ち明けられた話。
世間には知られていないだけで、この堺にも秘かに活動を続けてきた忍者集団がいる。
パパは、その抜け忍なのだと。
忍者は抜け忍を許さない。
いつか来るかもしれない“もしも”の日のために、アタシを鍛えているんだと。
パパの冗談だと思っていたのに。
プンっと、風に乗って牛乳の匂いがした。
忍者の1人がゴホンゴホンと咳をして、顔を覆っている布をずらし、鼻に手を当ててフンッフンッと詰まったものを吹いている。
咳込んだんじゃなくて、むせたんか?
アホらしくて力が抜けるアタシに、もう1人の忍者が一気に距離を詰めてきた。
突き出された右手をギリギリで左にかわす。
ビンタの要領で忍者の目元を叩く。
「クッ!!」
男の短く呻く声。
聞きながら忍者の後ろ襟を掴む。
小さく反転して背負い投げの形に。
逆向きの姿勢で、忍者は後頭部を歩道に叩きつけられた。
「なんや、それなりに仕込まれとるんやな」
むせてた忍者が言った。
そして「これはどーかな?」という声と同時に、気配が薄くなった。
いや、姿が消えた。
消えたけど──アタシは後ろに裏拳を大きく振った。
手応え。
驚いて目を見開いた忍者の顔があった。
急所を蹴り上げる。
膝を着いてうずくまる姿に、どーしても我慢できなくて思わずツッコんだ。
アタシは、大阪の女のコなのだ。
「匂いでわかるわ、どアホっ!!」
1000文字って難しいですね。
ホントは、牛乳とあんパンのセットにしたかったのに……。
この作品の執筆の動機は、女のコに最後のツッコミを言わせるオチにしたかったこと。
それに、アクション描写の持論を試してみたかったことです。