好きな食べ物を聞かれると迷うけど、嫌いな食べ物は即答できる
「……誰だ、お前」
目の前の家から出てきた男の人は私の方にゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。見た感じはお姉ちゃんぐらいの年齢だろうか、こんなに古い家に住んでいる割には普通の格好をしている。
この人がオカルト探偵なのだろうか。オカルト探偵というぐらいなのだから、もう少し変な格好をしていると思っていたけど、こんな場所に住んでいる人が普通の人のわけがない。きっとこの人がオカルト探偵なのだろう。
「えっと、あなたが……」
「帰り道はあっちだ」
「え?」
彼は私の前で止まり、自分の後ろを指差しながら言った。
「そのまままっすぐ行けば森から出られる。何をしに来たかは知らねえが、こんな場所にいても百害あって一利なし、さっさと出てけ。それじゃ」
「ま、待ってください!」
「……」
引き止める私を無視して、彼は来た時と同じようにゆっくりと帰っていく。帰り道が分かったの嬉しいが、このまま帰ったのでは何も変わらない。むしろあの化け物が現実にもいると分かったせいで、私だけの問題ではないと知ってしまった。もし家族や友達に何かされたらと思うと怖い、だからここで見捨てられるわけにはいかない。
「お願いします! 助けてくださいオカルト探偵さん! もうあなたしか頼れる人がいないんです!」
私がそう叫ぶと、彼の動きが止まる。もしかしたら助けてくれる気になってくれたのだろうか。
「……もしかして、それ俺のことか?」
「は、はい……もしかして、違うんですか?」
振り返って彼がそう聞きながら再度こちらに近寄ってくる。
「違う、俺はそんなセンスのかけらもない名前は知らないし名乗ったこともない」
「そんな……」
「ただ、興味はある。お前はその名前どこで知って、どうしてここに来たんだ?」
「友達から和泉森には幽霊のことならなんでも解決してくれる探偵がいるって……」
「幽霊の事なら何でも解決してくれる探偵……だからオカルト探偵。なんて安直な……」
「あ、あの! この森に他の人とか住んでたりしませんか! もしかしたら、その人の名前だけ知ってて、その人がオカルト探偵さんかもしれませんし!」
「いるわけない。この森に俺以外の……人間、がいるわけない」
「そんな……」
ということは、オカルト探偵の噂はただの噂に過ぎなかったということになる。……それじゃあ私はどうすればいいのだろうか、このまま一生あの化け物の恐怖におびえ続けなければいけないのだろうか……。
「なるほどねえ……で、お前はどうしてここに来たんだ?」
「え?」
「え? じゃねえよ。こんな森にオカルト探偵を求めて来るぐらいなんだから、それなりの理由があるはずだろ? まあその理由によっては助けてやらんこともないぞ、それなりの情報を得れたわけだしな。まあこのまま帰るのならそれはそれで構わねえが」
「い、いえ! 話します! 話させてください! え、えっと。私いつからかは忘れちゃったんですけど、変な夢を見るようになって、大きい化け物に襲われて、目が覚めて、それでオカルト探偵の話を聞いて森に行ったら、夢の中の化け物に襲われて、それで、それで!」
今まで誰にも話せなかったのが自分でも気付かないほどストレスになっていたのか、話していると涙がどんどんあふれてくる。この人はオカルト探偵ではないが、もしかしたら私を助けてくれるかもしれない。そう思うとどんどん言葉が出てくる。
「あー泣くな泣くなめんどくせえから。ところどころ早口で分からんかったが、要はその化け物を何とか出来ればいんだろ?」
「はい!」
「なるほどね。ま、俺には無理だし諦めな、帰り道はあっちださようなら」
彼は笑顔でそう言って帰っていった。
「はい!……え?」
待て待て待て待て、彼は今何を言った? 無理? 帰り道? しかも何も考えることもせず即答で!
「待ってください! 助けてくれるんじゃなかったんですか!?」
「助けてやらんこともないとはいったが助けてやるとはいってない」
「ずるい!」
「人間はずるい生き物なんだよ、一つ賢くなれて良かったじゃねえか。それに、俺はお前の話を聞いてやることが一つ出来たもんでね、お前の話に付き合っている暇はない」
「そんな……じゃあ、じゃあ私はどうすればいんですか!」
「さあ、俺には無理なのは本当のことだし。ただ……アドバイスぐらいならできる。そいつは幽霊とかそういう類のものではない、一応は人間に分類されるものだ」
「人間……?」
あれが人間? この人は何を言っているんだろうか。あんな化け物が人間なわけがない、もしかしたら私をさっさと追い返したくてでたらめを言っているのではないだろうか。
「そして、それの対処法は……ま、簡単なのは忘れることだな。その化け物のことを考えるな、恐怖するな。そいつを思えば思うほどそいつは化け物に近づいていく……まあ俺から言えることはこれぐらいだな、それじゃ」
彼はそう言って今度こそ帰っていき、家の中に入ってしまった。
「忘れろって……そんなの、無理に決まってるじゃん……」
私は彼が入っていった家を眺めながら、花畑の真ん中で途方に暮れるしかなかった。