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オカルト探偵と小学生  作者: 歳の差ラブコメは尊いなあと思う粒餡
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森の奥の探偵事務所

 「……よし」

 私は覚悟を決めて、森の中に入る。学校が終わった後私は急いで家に帰り、森に入っても大丈夫な服装でここまできた。

 森の中に入ると先程までは暖かい光が私を包み込んでいたのに、一気に暗くなりまるで異世界にでも迷い込んだようだった。後ろを見てみると、森の入り口が明るく光っており、それが更に私がとんでもない場所に来てしまったのではないかと思わせる。もう帰ってしまおうか……。

 「……いやいやいや、ここまで来たんだから。行くしかない! 頑張れ私!」

 不安でいっぱいになる胸を押さえ、自分を鼓舞しながら奥に進んでいく。そこに希望があると信じて。私の数少ない特技として、記憶力がいいのが自慢だ。だから多少進むぐらいなら恐らく帰れるだろうが、それでも慎重に歩いて行かないと森の中はどこも同じに見えてすぐにでも迷ってだろうから、度々後ろを振り返りながら慎重に進む。

 ……あの悪夢の森もこんな雰囲気だった気がする。森なんてどこも同じようなものだろうが、和泉森の不気味な雰囲気がそう思わせるのかもしれない。一体、あの夢は何なのだろうか、気を紛らわせるために、でも道には迷わないようにしながら考える。ここ最近夢について調べたりした結果、化け物に追われる夢は知らず知らずのうちに何かに恐れていて、それが夢の中で爆発して悪夢を見るのだという。だが、それに関しては私に心当たりはないため恐らく違う。ならやはり、悪霊の類なのだろうか。あまりオカルト関連について詳しくないし、どちらかといえば信じてない方であるが、ここまで来ると本当に存在するのではと考えてしまう。だとしたら私は一体なにをして憑りつかれてしまったのだろうか、心当たりなんてしいて言えば三ツ葉団関連の事ばかりだが、葉月ちゃんも由紀ちゃんも変わったところはないから恐らく違う。私だけ気に入られたという可能性もあるが、そもそもあんな化け物に関わったことなんて……。

 「ん?」

 そこまで考えて、思い出す。いや、正確には思い出せないのだが……あの化け物の姿が思い出せないのだ。毎日見ているはずなのに、輪郭すら思い出せない……もしかしたら、恐怖のあまり忘れてしまっているのかもしれない。

 「……あれ、なにこれ……鳥居?」

 そんなことを考えながら歩いていると、目の前にはいつの間にか鳥居があった。まさか迷ってしまったのではと思い後ろを振り返り、記憶を探るが……大丈夫、まだ帰れる。となると、単純に気づかなかっただけだろうか、よく見てみると草に覆われているため気付かなくても仕方ないかもしれない。

 「でも、こんなとこに神社なんてあったかな……聞いたことないけど」

 私が知らないだけかもしれないけど、和泉森に神社がある話なんて聞いたことがないけど……見た感じ古びた様子だし、もしかしたらかなり昔のものなのかもしれない。鳥居の奥は、かろうじて道であろう物が続いているだけで、肝心の神社が見えない。……入ってみようか、少し怖いけど、よく考えたらオカルト探偵よりも、神社の方が悪霊には効くだろうから。そう思って、鳥居に一歩踏み出したその時。

 「……え?」

 ガサリ、と右の茂みから葉が擦れる音がした……風だろうか。そう思ってそちらを見てみると……そこには、やつがいた。

 見慣れたやつが、私がずっと思っていてやつが、私が和泉森に入るなどという無茶な行為をする原因になった、恐れていた……化け物が。

 「ぜぃがぁああ、ぜい、がぁあああ。ぜいがああああああ! あぞぼうよぉおおおぉおお!!」

 そいつには見覚えがあった、先程までは思い出せなかったはずなのに、あの夢の中で私を追ってきていた化け物だと確信した。そいつは黒いオオカミのような姿をしていたが、私よりずっと大きい。それに、目が赤く光っていて、何より特徴的なのはその笑顔だ。見慣れたあの歪な笑顔、私を弄ぶかのような不気味な笑顔。

 「い、いやあああああ!」

 私は無意識に叫びをあげて、鳥居の方に走り出した。しかし、化け物は驚くほど素早く、まるで私が鳥居の向こうにいけないように立ちはだかる。何とか化け物にぶつかってしまう前に踏みとどまり、すぐに反対側に逃げた。

 化け物は先ほどはあんなにも素早かったはずなのに、まるであの夢を再現するかのように私の後ろにぴったりとついてくる。

 「はぁ、はぁ、はぁ……!」

 大丈夫、帰り道は覚えている。夢の中ではどこがゴールなのか分からなかったが、ここは現実であり、ゴールは森の出口。あそこまでいけばきっと、きっとあの化け物もいなくなって、そのまま家に帰ればお母さんが優しく出迎えてくれるはずだ……そう信じなければ、頭がどうにかなってしまいそうだった。


 おかしい、もうどのくらい走ったのかは分からないが、とっくに森の出口にたどり着いているはずなのに、私はいまだに走り続けている。

 「いや、なんで……!」

 それどころか、私はいつの間にかよく知っている道を走っていた、あの悪夢と同じ道を。そしてすぐ後ろにはあの化け物が、何もかもが悪夢と同じだった。しいて違うところがあるとすれば……これは夢ではなく、現実であるということ、傷ついたら傷つき、死んだら……死ぬ。

 どうすればいい、どうすれば私は助かる? 必死に頭を働かせる。私は悪夢の中でどうやって死んだ? 走って、走って……最後は。

 「あぶな、い!?」

 私はギリギリのところで何かを避ける。最後はいつも何かしらに足を取られ、捕まるというのを繰り返していたが今回は避けることができた。しかし、無理な体勢で避けてしまったため、私は結果的に転んでしまう。

 もうダメだ。立ち上がる力もない、立ち上がれたとしても走ることはできないだろうが。目を閉じて、化け物が私を殺すのを待つ。だが、いつまで経っても痛みも何も感じない。もしかしたら私はもう死んでしまっているのだろうか、そう思って目を開けると……。

 「え?」

 目の前には、綺麗な百合の花畑と、一軒の家があった。どういうことだろう、まさか私は本当に死んでしまったのだろうか、後ろを振り返って見ると、そこには私が今まで走ってきたであろう道があった。まるで先程の出来事は夢だったかのように、化け物がいた気配すらいない。助かったのだろうか……どっちみち、今化け物に襲われたら逃げ切れる自信はない。私はゆっくり休んでから、改めて辺りを見渡す。どうやらここは円形の広場のような空間になっていて、そこに花畑が広がっていて真ん中にぽつんと古びた家があるようだった。一体こんな場所に誰が住んでいるのだろうか……いや、そもそも人が住んでいるのだろうか。

 「もしかして……これがオカルト探偵の家?」

 そうだ、私はオカルト探偵を探しにこんな危険な場所に来たんだった。ここに目的のオカルト探偵がいると思ったら急に元気が湧いてきた。そもそも、こんなに森の中を走り回った理由も、あの悪夢に出てきた化け物がとうとう現実にまで現れたのが原因なのだ。オカルト探偵に会えば悪夢についても、現実に現れた化け物についても……そういえば、帰り道も分からないから無事に家に帰れるかもしれない。だったら早くいかないと……そう思って立ち上がった瞬間、その家の扉が開いた。

 「……誰だお前」

 そこには、一人の若い男の人が立っていた。

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