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オカルト探偵と小学生  作者: 歳の差ラブコメは尊いなあと思う粒餡
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オカルト探偵の噂

 「じゃあ、もう行くね」

 朝ごはんを食べ終え、私はランドセルを背負う。

 「あーん待って清花、私も行くー!」

 「優生はまだご飯食べてないでしょ、さっさと食べちゃいなさい」

 「だって鏡の中の私が誘惑してくるんですもの……」

 「もう一回顔洗ってらっしゃい」

 「そんなに何度も顔洗ったら、顔がふやけちゃうって!」

 「えっと……」

 「優生のことは気にしないでいいから、もう学校に行きなさい」

 「あ、うん。分かった、行ってきます!」

 「行ってらっしゃい、清花」

 私は文句を言い続けるお姉ちゃんを尻目に玄関に向かう。扉を開くと、暖かい春の日差しが私を出迎えてくれる。家族との会話と、この日差しのおかげで朝の嫌な気分は晴れて、いい気分で学校に行けそうだ。

 「あら、清花ちゃん。いってらっしゃい、今日も元気そうで何よりだわ」

 学校に向かっていると、梅ばあに会った。梅ばあは近所に住んでいる、一人暮らしをしているおばあちゃんで、毎朝家の前の掃き掃除をしていて、私に毎朝挨拶をしてくれるとてもやさしい人なのだ。

 「あ、梅ばあ! 梅ばあも元気そうだね!」

 「あら、そう? 今日は朝から頭が痛かったんだけど、そういえばもう大丈夫ねえ。清花ちゃんの笑顔のおかげかしら」

 「えへへ……ありがとう梅ばあ! いってきます!」

 「車には気を付けるんだよ」

 「はーい!」

 お世辞と分かっていても、やっぱり褒められるのは気持ちがいい。私はその気分のまま学校に向かった。


 「清花だ! おっはよー!」

 「あ、おはよう。清花」

 「おはよう、二人とも」

 教室に入ると、葉月ちゃんと由紀ちゃんが出迎えてくれる。二人は私の大親友で、一年生の頃からずっと一緒のクラスになっている。

 「ねえねえ清花! 耳よりの情報があるんだけど、聞いてかなーい?」

 「耳よりの情報?」

 「やめなさいよ、くだらない。そこに住んでる人がいたとしても、絶対危ない人よ」

 葉月ちゃんが言う耳よりの情報とは何だろうか……葉月ちゃんは、女子だけど戦隊物が大好きな子で、葉月ちゃんをリーダーで、私と由紀ちゃんの三人で三ツ葉団に半ば強制的に入団させられている。

 といっても、普段は三人で遊ぶだけなので楽しいのだが、一応ヒーロー戦隊らしいのでどこからか葉月ちゃんが集めてきた噂が本当かどうかなど確かめたりするだけで、結局ただ遊ぶだけになりがちなのだが……由紀ちゃんの様子を見るに、今回は面倒事のようだ。

 「危ない人なんかじゃいよ! 正義のオカルト探偵だよ!」

 「正義のオカルト探偵……ってなに?」

 どうやら私が学校に来る前に由紀ちゃんに冷たくあしらわれ続けられていたようで、私が興味を抱くと目をキラキラさせて詰め寄ってくる。

 「そう! オカルト探偵! 何でもね、和泉森のどこかに幽霊のことならなんでも解決してくれる探偵がいるらしいんだ! だからさ、今度探しに行ってみない!?」

 「葉月が持ってくる噂はいっつもくだらないけど、今回は特にくだらない!! オカルト探偵なんでそんな非化学的な存在、いるわけないでしょ! あーくだらないくだらない、私はそんなのにはぜーったいに付き合わないからね! 清花もそうでしょ?」

 「え、えーっと……」

 「そんなこと言って―、由紀はただ怖いだけだろー?」

 「そそそ、そんなことないですけどー!? 別に、幽霊とか? 呪いとか、これっぽちも一切合切全くもって怖くないですけどー!?」

 「はいはいそうだなー、じゃあしょうがないし清花と一緒に行くか―。ね、清花」

 「そ、そもそも! 子どもだけで和泉森に行くなんて危ないわよ! しかもあてもなく歩き回るだけなんて絶対に迷っちゃうわよ!」

 和泉森とは、この和泉町にある森である。和泉町は都会とも言えないが田舎とも言いづらい普通の町なのだが、町の外れにとても大きい森があるのだ。一応、隣町に続く道があるにはあるのだが、ほとんど管理がされていないようで草が生え放題になっている。そのため大人でさえ迷いやすい場所であるのに、子どもだけで行くなんてもってのほかだ。実際に昔、行方不明になっていた高校生が和泉森で迷っているところを発見されているらしい。

 普段の私なら、危ないから由紀ちゃんと一緒に葉月ちゃんを止めるとこなのだが……。

 「大丈夫だって! ちゃんとパンくずも用意してきたから! それに、清花もいるし!」

 「あんたはヘンゼルとグレーテルか! 絶対にダメ! ほら、清花も説得してよ!」

 「……」

 「清花?」

 「……ねえ、葉月ちゃん。オカルト探偵って、本当にいるの?」

 「ちょっと!?」

 「おお! 乗ってるねえ清花! もちのろん、私が保証するよ!」

 「そっか……」

 今の私は、普段の私ではないのだ。現在謎の悪夢を見続けている私にとっては丁度良いのだ。この際根の葉もない噂でもいい、すぐにでも葉月ちゃんに賛成したいところなのだが……。

 「……ダメだよ、葉月ちゃん。やっぱり子どもだけで和泉森に行くなんて危ないよ」

 「ほら見なさい!」

 「えー! そりゃないよ清花ー! 希望を持たせておいて裏切るなんて―! 悪い女だよ!」

 「ごめんね、でもさ。この前も口裂け女を捕まえるんだとか言って、遅くまで探してて怒られたばっかりだし、次やったら多分羽衣先生すごい怒るよ……」

 「うっ……た、確かに……分かったよ」

 「納得したのはいいけど、何で清花の言うことは素直に聞いて、私の言うことは聞けないのよ……」

 「いや、何か由紀に反対されるとついその逆を行きたくなって……」

 「あんた私のことが嫌いなの?」

 「そんなことないぞー由紀! 私はお前のことを愛してる! ほーらちゅっちゅ!」

 「ああああ!! 近づくな! 唇をとがらせながらこっちに近づいてくるなー!」

 「遠慮しなくてもいいんだよー!」

 「遠慮じゃなくて嫌がってんのよ!」

 「……」

 抱き合っている二人を見つめながら、考える。やっぱり二人は巻き込めない、これはあくまで私の事情なのだ。それに、私があそこで賛成すれば由紀ちゃんはきっと、優しい子だから私たちのことを心配して先生に相談して、まま達にも話が伝わってしまう。そんなことになったら私はしばらく和泉森にいけなくなり、その分あの悪夢に悩まされることになってしまう。それだけは絶対に嫌だ。

 「はーい、それじゃあみんな席についてくださいねー。朝の会、始めますよー」

 そんなことを考えていると、チャイムが鳴り羽衣先生がみんなに座るように促すと、二人も席に座る。私は、羽衣先生の話を聞き流しながらオカルト探偵について思いを巡らせた。

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