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傷心と共に彼女は走り出す
夕日が、二つの長い影を教室の床に描き出していた。一方の影がもう一方の影にゆっくりと近づいていくのを、私はじっと見ていた。暖かな手が私の右頬に触れたのを感じ、なすがままに正面を向き直った。目の前の青い瞳は、潤んでいた。夕日に照らされ、輝いていた。
「トウカ…」
私の名前を甘く囁いた唇は、気がつくと私の唇にあった。暖かな感触が、私の脳を溶かしていく。
「私ね、トウカのことが好きだよ…」
溶けた脳が掻き回されるようだった。考えようとすればするほど、頭の中がぐちゃぐちゃになっていった。自分の気持ちが、友情と恋心の境界線が、どんどん見えなくなっていった。
「分からない…」
だから私はこう呟いた。こう呟くほかなかったのだ。
私はその場から、彼女から、そして自分の気持ちから逃げ出した。ただひたすらに、遠くへ行きたかった。
しかし、どれだけ走ろうが無駄だった。あの時見た彼女の悲しげな表情を、私は振り切ることが出来なかったのだ。