05:初戦闘とマタギ系JK
街の関所から一歩外に出れば、サワサワと草が揺れる音や草の匂いに包まれる。
用事は済んだということで私たち二人は街の外の『いざないの草原』に来ていた。
「やっぱ最初は草原からってのが定番だよねー。走り回りたい気分になっちゃう」
関所を中心として歪な円状に草原が広がっている。平原ってほど真っ平らでもなくてモサモサと草がそこかしこで生い茂っているのが見えた。遠くに目をやれば広そうな森が鬱蒼と佇んでいる。
「確かにな。童心に返りそうだぜ。自然公園とかこんな感じだったよな?」
「あー、広さもこのくらいで…って、走るなー!モンスターにタゲられるっ!」
すたたたーっと走って行きそうになるかず兄の髪しっぽを引っ掴んで止めた。
「ちぇー。なら早速クエストやるか。ユーリィは何貰った?」
「んっと…『角兎5匹の討伐』『森鳩10匹の索敵』『森鳩5匹の討伐』『矢の材料の採集』『矢の作成』…ってなってるね」
「おー、被ってるのあるぜ!俺も『角兎5匹の討伐』と『森鳩5匹の討伐』が入ってて他には『10秒以内に5回無属性魔法で攻撃』『懐柔のお香の作成』『モンスター1匹のテイミング』か。となると角兎ってのから始めるのが良さそうだな」
うむうむ。多分武器スキル用のクエストがそれだろうからね。森鳩の方は魔法スキル用かな?鳥モンスなら遠距離攻撃が必要そうだし。
「あ、シズ兄。パーティー組んどこう!倒した数とか共通になるよね、きっと」
「そうだな。パーティー申請…これか?送ったぞー」
シズ兄がパパッとメニュー画面を操作すると、『プレイヤー シズからパーティー申請されました はい/いいえ』というウィンドウが目の前に現れた。はいを押せば、左上のHP/MPバーにシズ兄の項目が表示される。パーティーに入れたようだ。
「ついでにフレンドも申請しとくぞ。しばらくは一緒にプレイするよな?」
「うん、冬休み中は入り浸るから!学校始まったらどうなるか分かんないけど…」
「おう。まぁこのゲーム、ゲーム内時間が現実の3倍速になってるから冬休み明けても充分楽しめると思うぞ。よし、登録完了っと!じゃあ行くかー!」
他プレイヤーもあちこちで戦闘している中、私たちもすぐにモンスターを見つけた。
草むらからぴょこんとうさ耳が伸びているのだ。
「あれだな…ユーリィが先制するか?」
「うん、そうする。当たらなかったらフォローお願いね」
私は武器を取り出し、チュートリアルで数回試した通りに矢をつがえる。
かず兄が木剣を構えているのも確認し、草の間から見える白い体に照準を合わせた。
「…行くよ。えいっ!」
ヒュンッ…バスッ!!と、手応えを感じる音。
「きゅいいっ!?キューーー!!」
ピョコッ!!と飛び上がった兎がこちら目掛けて勢いよく駆けてきた。
《Lv.3 ホーンラビット》と、小型犬サイズの兎の頭上に表示されている。
「おおー、意外とでかい!?」
「よしきた!…っと!!おらっ」
頭からタックルしてきたホーンラビットをかず兄が木剣で受け止め、一撃。
「きゅきゅっ!!キューー!」
ゴロゴロと吹き飛ばされた後に、ホーンラビットは脚を踏ん張ってさっきより速いタックルをかず兄へと繰り出してきた。
「うおっ!?初期モンスも侮れねえな!とりゃっ」
直撃は避けたものの若干かすめたらしく、かず兄のHPバーが微減している。
っとと、見てる場合じゃない。私も攻撃しないとね。
「シズ兄!撃つよ!」
2本目の矢をつがえ、かず兄に再度攻撃されて転がっていった所を狙って撃った。
「ぴきゅっ!?ギュ、ギューー!!」
「行かせねえよ!」
私の2撃目が当たってタゲが移り、私に向かってきたのをかず兄がカウンターで弾き飛ばしてしまった。おお、やるねー。
「きゅきゅーー…」
それがトドメとなったらしく、ホーンラビットは動かなくなってしまった。
『戦闘終了 経験値10を入手しました』
とのログが流れたのを確認して、ホーンラビットの死体に近寄る。
「ポリゴンになって砕け散る〜とかじゃねえんだな。うーむ、デフォルメされてるから良いものの罪悪感を感じるぜ」
「そだねー。兎あたりなら慣れてるけど犬とか猫とかになると、ちょっとヤかも」
「…まぁユーリィなら慣れてるわな。爺ちゃんの猟に何度も付き合ってるし」
血がドバドバ出てたりしないし、全然マシでしょ。可愛い兎がぐったりしてるのは確かに可哀想だけどね…。
「えーと、素材を回収するのは解体ナイフってのを使うんだったよね」
「ユーリィがやってみな。アイテムの配分とかどうなるんだ?」
「そういえばそうだね。…えい」
ぶす、と死体にナイフを突き立てるとホーンラビットは発光してからフェードアウトしてしまった。と同時に、左下にログが流れる。
「んーと…私の方は『角兎の角』と『角兎の肉』が入ってるね」
「あ、俺も『角兎の肉』を入手したって出てるな。肉は基本ドロップで角はランダムドロップってとこか?…って、膨れ面してどうした」
「兎の革…手に入ると思ったのに〜…」
皮革と言ったら牛革や豚革だけど、兎革も使えない事はない。後々【皮革】のスキルも取るつもりだから兎革ゲット出来るならしたかった…。
「はは、レアドロップかも知れねぇし今後に期待だな。…ってヤベ、後ろ!」
「ふぎゃっ!!?」
どすん!と後ろから軽く突き飛ばされるような衝撃を受ける。メニュー画面を見る為に下を向いていた私は簡単に前のめりに倒れて…しまうはずだったが、かず兄に抱き留められて無事にすんだ。
「きゅっきゅっきゅー」
「新しいのが湧いたか!あーっと、【ファイアーバレット】!」
私のせいで手が塞がってるかず兄が火魔法の初期呪文を使ったらしい。
慌てて体勢を整えると、ホーンラビットがぶんぶん身体を振って火を消している所だった。私も続けざまに木魔法を使う。
「【プラントバレット】!!」
バシュン!と空中に現れた蔓の弾が飛んでいき、着弾と同時に兎に絡みつく。
「キュッキュー!!」
怒ったホーンラビットがタックルの構えになる。蔓は数秒で消えてしまったけど、その間に攻撃の準備は整った。
「兎の革のため…!狩りつくしてやるっ!!」
バシュッ!バシュッ!ゴスッ!!ドサッ…
「「きゅいぃぃ…」」
2匹のホーンラビットが私たちの攻撃を受けてダウンする。はぁ、と詰めていた息を漏らしてメニュー画面を開きインベントリから解体ナイフを取り出した。
「…いい?」
「お、おう。解体していいぞ」
との返事に、私はナイフを逆手に構えて念を込める。むむむむむ……。
「革、出ろっ!!えいっ」
ザスッ。シュワワワーン……ぴこん。
『角兎の肉を入手しました』
「う、うぁぁーーー!!ダメー!?し、シズ兄は…」
「いやーははは…俺も角と肉だけだな」
「ぬぁーーーーー!!!」
あれから十数分。私たちは合計で8匹のホーンラビットを倒していた。とっくにクエスト分はクリアしているのだけれど、止められない理由があった。
「うぅぅ…どのラビットも毛皮ついてる癖に、8匹倒してこんな小さい革だけって…」
【生産素材】角兎の革 品質F レア度1
ホーンラビットの腹部分の革。肌触りは柔らかいが強靭性に欠ける。
そう、出るには出たのだ。4匹目の時に…。
どうもホーンラビットのドロップは基本が肉、PTの誰かにランダムで角、そしてレアドロップとして革が出るように設定されているらしい。
でも!小型犬サイズの兎から出たその革が…ハガキ2枚分の面積しかないっていう!!
そりゃないでしょー!!!
「どう考えてもこのサイズの兎なら新聞紙片面くらいの面積は取れたっていいのに…一匹捕まえたなら毛皮も肉も骨も余さず頂くってのが当然でしょ…MOTTAINAI…」
「唯〜、怨念を出すな〜…。ゲームシステムはどうしようもねーって」
「この解体ナイフめ…解体と名付けられたならちゃんと全部剥ぎ取って…あれ?」
恨みの余り、解体ナイフを指先でツンツン突いてたらウィンドウが浮かび上がる。
「あぁそれ、アイテムの詳細ウィンドウだな。チュートリアルで教わったろ?」
「それは知ってるんだけど…ほら、この項目!」
【道具】携帯用解体ナイフ 品質E レア度1
初期アイテムの解体ナイフ。モンスターに使用するとアイテムを入手出来る。
☑︎自動解体機能を使用
「自動解体機能…これをオフにすれば…!?」
チェックを外し、私はまだ解体していないホーンラビットの死体をロックオンする。
「お、おいおい…ゲームでそんなリアルな解体方法出来るわけ…」
ザシュッ!ブチ、ブチ、めりめりめり…。
兎の解体は冬によく手伝うので慣れたものだ。首からお尻までナイフを滑らせ、内臓を…あれ、内臓消えちゃった。血も出ないし…まぁいいや。股周りにナイフを入れて、足首のところにぐるっと切り込みを入れる。切れた部分から皮を引っぺがした。首まで剥けた所でナイフをあてがい、ズダン!と頭を落とす。後は面倒な前足だ。こちらも足首まで剥いたあとにゴキゴキと関節を曲げて外し、ナイフで切り落とした。
「やったー!皮ゲット!!ふふ、一頭分丸ごとだー」
「…ファンタジーゲームがホラーゲームに…マジか。解体行けんのか…」
呆然とするかず兄。かず兄だってお爺ちゃんの解体見たことあるだろうに。
ぷらんぷらんと剥いだ皮を持て余していたら、その皮も肉も光になって消えていく。
「えっ!?失敗!!?…あ、インベントリに入ってる!」
メニュー画面を開いてアイテムを取り出してみた。
【生産素材】角兎の毛皮 品質D レア度1
ホーンラビットの胴体の毛皮。肌触りは柔らかいが強靭性に欠ける。
◻︎毛皮→革への変更
【生産素材】角兎の角 品質E レア度1
ホーンラビットの角。装飾品などの素材になる。
【食材】角兎のレバー 品質E レア度2
ホーンラビットの肝臓。とても新鮮で滋養がある。
【食材】角兎の肉 品質E レア度1
ホーンラビットの肉。骨つきなので出汁を取ると美味しい。
「わ、すごい!!毛皮が鞣されてる!!しかもタッチ一つで革に変更可能!?内臓もあの時ゲット出来てたっぽいし…ゲームって便利だね、シズ兄!!」
「そうだな…。そういうトコはちゃんとゲームらしくてちょっと安心したわ…」
んふふふ。細かいニーズにも対応してるとか神ゲー間違い無しでしょこれ!
「よーし、革もちゃんと手に入ったし次行こー!」
「りょーかい。じゃあ森鳩ってのを探しに行くか!!」
私とかず兄は、草原の奥の森に向かって足を進めるのだった。




