03:合流
「…ーリィ、……ユーリィってば!!!ちょっと!?」
「はっ!!?…え、どうしたのリリー?」
「さっきから…30分くらいずっとそれやってるけど、時間はいいの?」
「はぇっ!!?」
私は手の中の木製リリーちゃんフィギュアを二度見する。まだ造作が荒いが良い仕上がりだ。…じゃなくって!!
「わわわっ…そんなに時間経ってた!?」
右上に表示されたウィンドウを見れば、12:50。開始が12時ぴったりで…。
「もう1時間経っちゃう!!?しゅ、集中しすぎたーーー!!」
リリーからメニューの開き方や攻撃・魔法のやり方を教えてもらうまでは良かった。
索敵も使ってみました。何か変な超能力でも持ってるみたいに敵の位置が分かった。
問題は採取と木工。大きい木は伐採スキルを使うらしいから、ここでは低木や落ちてる枝木を初期アイテムの小型ノコギリで採取して大まかに切り分けたんだよね。
それから、またも初期アイテムの小刀で削って「さぁちょっと削ればお試しになったでしょ」というリリーの言葉が聞こえた所までは覚えている。
そう言われてリリーの方を見た私の脳裡に電流が走り…そしてリリーちゃんフィギュアは生み落とされてしまったという訳なのか…。
「り、リリーちゃん。これあげるね?慌ただしくてごめんだけど、行かなきゃ!」
フィギュアを本人へと渡し、アタフタと足踏みする。行くってどっちに?
現在はチュートリアル専用のインスタンスフィールドにいるらしい。果てなく草原が広がっているのだった。
「リリーちゃん!スタート地点へはどうやって…リリーちゃん?」
「えっ!?ええええっと、その…う、嬉しくなんか…じゃなくってえっと、お、お返しにこれあげるわ!持っていきなさい!」
顔の赤いリリーちゃんが薄くてレトロな装丁の本を差し出してくる。素直に貰った。
《誕生の道案内人 リリーから せかいのえほん を受領しました!》
左下にそんなログが流れた。絵本?どうやら何かフラグを立てたらしい。
「ありがとう、リリーちゃん!それで…」
「森人族の拠点へ送ればいいんでしょ!わ、分かってるわ!…それじゃ、ユーリィ。あなたの旅路が良いものとなるよう願っているわ。……じゃあね」
「うん、またね」
…って、システムNPCにまた会えたりなんてしないか…残念。
「【転送】!」
私はリリーちゃんに見送られ、だいぶ遅いスタートを切ったのであった…。
光の輪が私を包み、通り抜けていく。その一瞬で私は森人族の拠点とやらに着いてしまったらしい。途端に喧騒が耳をつんざいた。
「ひぇっ…やっぱ初日って混むのかな?うるさ…あてっ」
そこら中で人が彷徨いたり、はたまた私のように転送されてくる所為でぶつかり合ってしまう。6種族いる分、人が分散されるはずなのに全然そんな気がしない。早く待ち合わせ場所まで行かなきゃいけないのに!確か転移門って言ってたっけ!?
「えっとえっと転移門…場所なんか分かんないって!!周りすら見渡せない…」
スタート地点らしい泉を囲む石垣から離れ、人混みを掻き分けて一先ず脱出する。
密集度がマシになった所で辺りを見渡した。全体的には森という印象だ。泉の奥に巨木が立っていて、窓がついてるからきっと建物になっているのだろう。更に辺りには電柱のように大きな木が乱立していて、そのどれもにツリーハウスがくっついていた。勿論普通の家もある。泉を中心に四つ辻が伸びており、その道に沿って家や店が並んでいるようだった。さて、転移門はどこだろう…。
「あのーすみません。他の種族の街?に繋がってる転移門の場所、知りませんか?」
喧騒を他所に軒先で編み物をしていたエルフのお婆ちゃんに問い掛けてみる。
「んんー?あぁ、ゲルツィナ様の門のことかい。それならここの道をまっすぐ行って街の出口の横にあるよ。人が多いから気をつけてお行き」
「ありがとう!」
ゲルツィナ様ってのが謎だけど、多分それでしょ。行ってみよう!
「おぉぉーーー…ファンタジーだなぁ…」
街を囲む防壁まで辿り着いた私。関所もあるからここが出口なんだろう。そしてその左脇に、でっかい半円のゲート状に石が積まれていた。まるで遺跡みたい。
ゲートからは青白い光がもわもわと噴き出していて幻想的だ。
これがゲルツィナ様の門らしい。
「って、見とれてる場合じゃない。かず兄はどこだろ…」
私と同じように待ち合わせしてる人なんだろう。ゲートの周りには十数人くらいの多種多様な種族のプレイヤーがうろうろキョロキョロしている。
どれだろ…見た目はあんまり変わってないはずなんだけど。
と、辺りを見渡していたらゴウッ!と強風のようなSEと共にゲートが明滅した。
「…あっ!!か……シズ、兄!!!」
ゲートから出てきたのは頭に二本のツノを生やした魔人族の男。背格好だけですぐに分かった。あれがかず兄だ。…名前呼びそうになっちゃった。
キョトンとこっちを見てくる顔は、やっぱりかず兄だった。オールバックの髪を少し伸ばして、背中で括っているらしい。マホガニーブラウンの髪色も結構似合ってる。リアルの方ではもっと明るめの茶色にしてるのに。
かず兄は私の方に歩み寄ってくるが、なんか変な顔してる。訝しむような表情。
「……唯、だよな?」
「うん。今はユーリィだけどね」
「めちゃくちゃ見た目変わってんな!?ぱっと見じゃ分かんねー…あ、でも前髪上げたらちゃんと唯の顔してる」
「わぷっ、やーめーてーよー!!」
前髪を上げたり下ろしたりして遊んでるかず兄の手のひらを掴んでペイッと捨てる。
「ははは、わりーわりー。それちゃんと前見えるのか?」
「見えるようになってるみたい。身バレしないかな、これで」
「大丈夫だろ。分かんない分かんない。いやー、似合ってるなエルフ耳。背が小さいから本当に妖精みたいで」
む、失礼な。これでも155cm……には届いてないけど。でもそれくらいあるもん!
「か…シズ兄がデカすぎるだけ!シズ兄だってその顔と高身長にツノまで付いたら、『モンスターだ〜!』って言われるかもねー?」
「うっ、気にしてるんだからやめろよー。髪色大人しくしたからまだマシだろ?」
かず兄は仏頂面だと結構怖い顔立ちなのだ。中身が子供っぽいのが救いだね。
「…そういえば今来た感じなの?私も今着いて、結構遅れたと思ってたんだけど…」
「あぁ、やっぱスキル選択で迷っちゃってな。ユーリィはスキルどうした?」
「えっと…【短弓】【索敵】【木魔法】【採取】【木工】だね」
「おー、弓!エルフっぽい!生産4つとか取るかと思ったが、やっぱ安定志向なのか」
…それも魅力的だなー。生産4つ…。
「シズ兄は?どうせはっちゃけてるんだろうけど…」
「おう、かなり凝ったからな!イメージは…魔法剣士だ!!【長剣】と【火魔法】に【付与魔法】、あと【テイム】と【錬金術】でファイナルアンサー!!」
「…いやいやいやいや!?突っ込みどころ満載だけど!それでFA!?」
ドヤ顔がなんとも憎ったらしい。
「ま、まず…前の2つは良いとして、【付与魔法】と【テイム】って何?」
「【付与魔法】は武器や装備に魔法を掛けれるんだってよ。エンチャントだな。バフやデバフは【支援魔法】だけど、こいつは武器から直接魔法が出るようになるんだ」
「へー…。確かに、武器から魔法が出たら魔法剣士っぽいかもね」
「だろー!?んで【テイム】はその名の通りモンスターを手懐けるスキル。成功率は結構厳しいらしいけど…まぁ、テイマー路線ってド定番だし入れてみた!」
「その時点でブレてんじゃん…。魔法剣士は何処に行ったの?」
「いーだろ、ユーリィだってモフモフしたくないのかよー。それに俺、LUK値は7だし多分ちょっとはテイム出来るはずだぜ」
「それはビックリだわ!え、最大値なの??いいなー…」
モフモフは確かに正義だ。それにモンスターを仲間に出来るなら便利かも。
「えーと、じゃあ最後の【錬金術】ってのはどんなスキルなの?」
「いわゆる…マジックアイテム作成スキルらしい。これ、結構謎なんだよなー。まずマジックアイテムって何?って感じだし。チュートリアルじゃ『フラッシュバブル』っていう閃光弾みたいなの作れたな。まぁ、何となく魔法剣士ぽいだろ?」
「うん。面白そうだけど、それほぼスキル4つが魔法系ってことじゃないの…?」
「【テイム】は補助スキルだし【錬金術】は生産スキルだって、一応!」
「…それもそうかぁ。ま、使ってみたら結構良かったってこともあるよね」
「そーいうこと。楽しめりゃ無問題!ってことで、ユーリィ!これからどうする?」
うぅむ。生産がしたい。生産がしたいぞー…。でも生産には材料が要るしなぁ。
「まずは…外のフィールドに行ってみたいかな?街は後でゆっくり見よ」
「おう、俺も早く戦闘したいぜ!あーでも、そうなるとクエスト受けてからのが良いかもな…。NPCから受けられるのもありそうだけど、やっぱセオリー通り行くなら冒険者ギルドか」
「んじゃ、冒険者ギルドに行ってから外に出てみよっか」