02:キャラ作成
私とかず兄はファンタギアのセットアップを済ませ、お昼を食べながらゲーム情報の確認と打ち合わせをする。そして、身支度をしてからかず兄のベッドに横たわった。
ファンタギアは睡眠導入した後に脳と信号をやりとりするらしい。状態としては夢を見てるのとほとんど同じなんだとか。とにかく、寝ちゃうから横たわった状態である必要があるんだってさ。
バイザー型のファンタギアを被ったまま、横で一緒に寝転がるかず兄を見る。ダブルベッドとは言え、腕を広げれば触れてしまう距離だ。流石にちょっと無防備すぎ?
「どうした、唯。もうすぐ12時だぞ?余所見してると乗り遅れても知らないからな!打ち合わせ内容はちゃんと覚えてるか?」
「…んもう、大丈夫だよ」
かず兄だから、別に何にも心配ないか。ゲームに夢中みたい。見つめる顔は歓喜か興奮でか、少し赤らんでいた。
「よし12時!!唯、そっちの転移門の前で集合だぞ!『オープンワールド』!!」
「はーい…って聞こえてないよね。じゃあ私も…『オープンワールド』」
ボイスコマンドを唱えるのと同時に、私は急速な眠気に襲われていった…。
ファンタギアの箱と同じ、オーロラの奔流が視界全てに広がって流れていく。いや、私がオーロラの中を飛んでいるようだ。浮遊感と風を感じる。
辺りを見渡している内に白土の大地が近づいてきて、ってえ!!?ちょちょちょ、これどうやって止まるの!?
「あわわあわあわブクブク…あ、止まった…わっとっとっと!」
焦ってる内に大地まであと20cmのところでゆっくりと身体が止まって、ストンと落とされる。中途半端な姿勢だったから転びそうになったけど、なんとか持ちこたえた。
「えっと…ここは?」
一歩踏み出すと足元で星の光が散る。学校のグラウンドくらいの範囲が白土の平地になっていて、そこから先は全方位が同じ白い岩がうず高く積み上がって岩山と化していた。崩れたら埋もれちゃいそう。殺風景だけど、どこか幻想的だった。
「あぁ、新しい生命が生まれたのね。『The Road』へようこそ」
「?…わっ、妖精だ!」
後ろから声が聞こえて振り向くと、身長1mくらいの妖精が居た。ピンクの長髪で、ティンカー・ベルみたいな人型の妖精さん。
「あなた達の世界じゃ私達みたいなのをそう呼ぶの?まぁそれはさておき、あなたにも何かしらの種族になってもらわないとね」
との言葉と同時に、目の前に半透明のウィンドウとキーボードが現れる。わーお。
まずは名前入力と種族決定からか。性別は固定、ね。
「名前は…ちょっと捻っとけって言われたしなぁ…。『ユーリィ』…うん、使用可能。じゃあこれでっと。種族は…」
「人間族、森人族、炭鉱族、獣人族、魔人族、竜人族の6つがあるわ。どの種族も得意分野を持ってるけど、苦手なものは無いからどれでも良いと思うわよ?」
「そっかー。妖精にはなれないの?」
「ふふ、私たちは例外なのよ」
システムAIだから特別な外見なのかな?まぁ、種族に関してはかず兄からも説明を受けてる。森人族はエルフ、炭鉱族はドワーフで獣人族はケモ耳人間、魔人族はツノ付き人間で竜人族は翼が生えてるんだとか。すっごいよね。
で、種族によって補正されるステータスが違うんだとか。かず兄はステ振りについて熱く語ってたけど……私はまぁ生産メインで行くつもりだし、それに合わせて。
「んじゃ、森人族でファイナルアンサー」
目の前のウィンドウを横にスクロールして、森人族のウィンドウを出す。耳が尖って大きく横に突き出してる、お馴染みのエルフスタイルだ。決定ボタンを押すと、それに合わせて私の周りに光の円が瞬いた。耳を触ると、おぉ。確かにデカい。
「決まった?じゃあ次は、あなたの能力を決めなくちゃ」
妖精さんが手を横に振ると、またウィンドウが現れた。今度はステータスだ。
STR(筋力)、DEF(防御力)、INT(知力)、DEX(器用)、AGI(敏捷)、POW(精神)の6つが基本ステータス。そして、その下にLUK(幸運)の文字。こっちはランダムらしい。基本ステを決めた後に自動で決まるようだ。
《ステータス》 STR:7 DEF:7 INT:7 DEX:10 AGI:7 POW:7 LUK:?
これが今表示されている数値。森人族はDEXに補正が掛かっているから、そこだけ+3されている。器用値はスキルの精度に関わってくるらしいから、生産スキルでガンガン物作りしようっていう私に必要なステータスって訳だ。
「他はまぁちょっとずつ変更するくらいでいいかな…全振りなんてリスキーなタイプじゃないし、私。そういえばかず兄はどんなステータスにするんだろ…」
剣士系の戦闘メインで行く、とは聞いてるけど。まぁ後で会えば分かることか。
「…よし、これで完了。あとは決定ボタンを押せばLUK値が…おぉ、出た」
《ステータス》 STR:6 DEF:6 INT:6 DEX:11 AGI:9 POW:7 LUK:5
これでステータス設定は完了かぁ。LUKが5…ね。1〜7でランダムらしいし、期待値は超えてるからまぁ満足かなっと。
「ふーん、あんまり奇抜な感じじゃないのね。良いんじゃない?さて、お次はあなたの個性についてよ。あなたの道を決めるかもしれない選択だから、よく考えなきゃダメよ!私のオススメとしては、これね。他にもたくさんあるけど、5つ選んで頂戴」
ばばーんと大きなウィンドウが目の前に広がって、たたらを踏む。そして小さいウィンドウが2つ追加で表示された。
「わわっ…えーと、このデカイのがスキル一覧?うわぁ、スクロールバーが長い…。で、こっちの小さいのが妖精さんのオススメ一覧と選択したスキルのウィンドウか」
そう、このゲームは職業システムではなくスキルシステムらしいのだ。ステータスに関係なく、この初期スキル決定の時にはどんなスキルでも選べるのだとか。ゲームを始めた後もスキルポイントというのを使って取得できる。でもプレイ内容によって取得可能なスキルも変わってくるらしいので、ここでの選択の重要度は高い。持ってるスキル次第でプレイの仕方も変わるだろうからね。
「かず兄も初期情報では詳しいスキルのことは載ってなかったって言ってたっけ。ここの選択は完全に私次第ってことかぁ…」
種族とかステ振りは事前に少し相談に乗ってもらったけど…えーと、スキルは『格闘スキル、魔法スキル、アシストスキル、生産スキルをバランス良く取得するのが安定』だっけ?
「そう言っても、格闘スキルだけでこの数だしなぁ…カテゴリ別表示にしても多すぎるってどういうこと…。そうだ、妖精さんのオススメは?」
《リリーのおすすめスキル》
【短弓】 【小剣】 【短剣】 【細剣】 【索敵】 【隠蔽】 【鷹の目】 【危機察知】【木魔法】 【火魔法】【採取】 【木工】 【調薬】 【錬金術】
「こんな感じのスキルがあるんだ…。あれ、妖精さんはリリーって名前なの?」
「そうよ。誕生の道案内人、リリー。短い間だけどよろしくね」
随分と仰々しい称号がついてるんだなぁ。得意げな顔がちょっと可愛い。
「うん、よろしく。ところで、このおすすめってどういう基準で選んだの?」
「あなたの種族と能力から向いてそうなのをピックアップしただけよ。個性ってどれでも選べるんだけどやっぱり向き不向きってあってね。例えば、頑丈じゃない子が【ガード】の個性を選んでも大して活用できないの。逆に、竜人族は皮膚が硬いから向いてるわ。分かる?」
「分かる分かる。私は…森人族で器用と敏捷が高い、かな?」
単に生産の精度と速さを上げたかったってだけのステ振りなんだけどね。
「そうね。だから、それを活かせるような小回りの利く武器を使った方がいいんじゃないかと思ったの。あと、森人族は感覚に優れるから察知系の個性がおすすめ。そして森人族のテリトリーは森林だから、どちらかと言うと【木魔法】と【火魔法】を取った方が有利ね。フィールドを活かせる木と、植物系魔物に効く火ってことよ。で、植物系の素材が多く採れるからそっち向きの生産個性を勧めたってわけ」
「な、なるほどー。思ってたよりも丁寧なアドバイスだね…」
というか、今の説明で新情報がいっぱい発覚してない?植物系モンスターが出るの?そんで、植物素材が多く採れるって?うーむ…これは素直に聞いておいた方がいいのかもしれない…。でも他のスキルも気になる!!
「えーと、格闘スキルの似たようなのだと…【長弓】【機械弓】【大剣】【長剣】、【長槍】に【短槍】、く【鎖鎌】???やっぱり多すぎる…!」
「今あなたが挙げた個性は筋力が無いと上手く扱えないと思うわよ?まぁ、どれを選ぶのもあなたの自由だけどね」
「むむむ…どうしようかなぁ…」
戦闘に関わるスキルは思い切っておすすめの中から選んじゃおうかなぁ。こだわりも無いし。うーん…【短弓】とか良いかも。前にお爺ちゃんに付き合ってスリングショットで野鳥を捕まえたりはしたことがある。昔お爺ちゃんが使ってたボウガンや趣味の和弓を試し撃ちしたこともあったっけ?百発百中とは行かなくても、7割近くは当ててたと記憶している。うん、そうしよ。
「じゃあ格闘スキルは【短弓】で…魔法スキルは【木魔法】にするかな」
【木魔法】なら、農業とかにもしかしたら役立つかもしれない。
「アシストスキルは…うーん。他だと【暗視】【看破】【軽業】【挑発】【威圧】…なんかピンと来ないかも。弓だと近距離戦は出来ないし、【索敵】が無難かな?」
【鷹の目】も魅力的だけど…説明を読む分じゃ、遠くの敵の察知とエイムの補助って感じらしいからなぁ。エイム補助は無くても大丈夫だし、遠くの敵より気付かずに近づいてくる敵の方が怖いからこれもパス。まぁその時はかず兄に頼ればいいかもだけど。
「これで3つ…あとの2つは生産系が良いんだよね!!」
ウキウキしながら生産スキルのカテゴリを開く。ずらららーーっと一次生産から三次生産、ファンタジーな生産スキルまでが網羅されていた。
「わわぁぁ……こ、これ全部取りたいっ…!!!」
「そ、それは流石に無茶なんじゃないかしら?」
リリーが若干ヒくのを感じた。無茶かなぁ…無理なのかなぁ…。
「スキル…個性って、いくつまで持てるとか上限があるの?」
「そうねぇ。個性を同時に使える数は位階が3つ上がると1つ増えるの。でも、個性を覚えるのに上限は無いわ…一応ね。でも、今覚えられるのは5つまでよ!それにあんまりあっちこっちに手を出すと中途半端になっちゃうわ!一つの個性を極めれば、ちゃんと新しい個性が…っと、いけないいけない。お喋りが過ぎたわね」
「もっと喋って良かったのに…」
お姉様系のキャラだけど案外うっかり屋さん?…えっと、レベル3ごとにスキルスロットが1つ増えて、スキルを極めれば新スキルもゲットできるのかぁ。
「ここにある個性って、後でも取れる?」
「条件をクリアしてスキ…個性得点を消費すればね」
スキルって言いかけてたよ。中の人でも居るんじゃ…いやいやそんな訳ないない。
「せめてスクリーンショットだけでも撮りたいぃ…ねぇ、この一覧を保存したいんだけど出来る?」
「執念深いわねぇ…(汗)えっと、手をこの形に組んで…」
リリーは丁寧にスクリーンショットのやり方を私に伝授してくれた。優しい。
悩みに悩み抜いた結果、私はスキルを決めた。
「私の選んだスキルは…!!!」
《選択スキル》
【短弓】【索敵】【木魔法】【採取】【木工】
「です!!!!」
そう、見事に全部リリーのおすすめから選んでしまった。いやー、何やかんや言って私って安定志向なんだよね。こういう所ではっちゃけるのはかず兄の領分でしょ。
でも私なりに考えた結果だ。一次生産である【採取】を取れば、そこで手に入れた素材を【調薬】や【錬金術】に繋げることが出来るだろう。【紡績】や【アクセ製作】【農業】【果樹】も狙い目かな。つまり、可能性の幅が広いと思われるスキルだ。
【木工】に関しては、格闘スキルで【短弓】を取ったからだ。一覧を見る限り、木材系の武器は【木工】で製作、金属系は【鍛治】でという分け方らしい。弓で射る矢は勿論消耗品だろう。という訳で、【木工】で矢を自作するという目論見です。
「あら、私の助言を聞いてくれたのね。ありがとうって言うのも変かしら?」
とか言いつつ嬉しそうなリリーちゃん、眼福です。
「ううん、こちらこそアドバイスしてくれてありがとう。残りの生産スキルは自力で頑張って全部取ってみるね」
「そ、そう…。じゃあ最後はあなたの外見を決めるわよ。オートカスタマイズも出来るけどどうする?」
オートカスタマイズというのは自分の外見を元に、それを美化してくれる機能だ。
「うーんと、オートカスタマイズした後で更に変更って出来る?」
「えぇ、いいわよ」
リリーは何やら粉を取り出して、きらきらーとそれを私に振りかける。
その後、ポンと目の前に水鏡が現れて私を映し出した。わぉ、目鼻立ちがスッキリしてる。でも私の特徴は何となく残ってるな。
水鏡の周辺に、カラーピッカーやら外見変更のウィンドウが出てくる。さて、ここからどう変化させよう。
かず兄は作家名のシズでゲームプレイするらしい。顔出しは既にしてるから隠す意味も無いってことで、スキンはあまり変更しないという。というかそうしろと上からお達しがあったんだって。
つまり、私は劇的ビフォーアフターしとかないと身バレした時が大変ってこと!
「えーと、前髪を長くして顔を隠して…あ、これでも前はちゃんと見えるんだ。で、目は緑。髪はちょっと紫入れて…せっかくだしウェーブかけてロングヘアにしよ」
体格は変更できないし、顔の造作は下手に弄くると危険だろう。不気味の谷現象というヤツだ。という訳でこれが私の精一杯の変装ということになる。
後でフード付きの服とか作ればいいや。
「リリー、これでいいよ。次は?」
「もう色々決めるのは終わりよ。最後に、スキルの練習っていうかチュートリアルが出来るけど…やっていく?」
チュートリアルか。どうしよ。かず兄、待たせちゃうかな?でも「多分時間がかかると思う」って言ってたし別に良いよね。どれだけ悩むつもりなんだか…。
「うん、やっていく。あんまり長くはかかんないよね?」
「えぇ。メニュー操作を教えて、スキルを試していく程度だもの。大丈夫よ」
それは見事なフラグだった。
ここでちとステータスの設定についての補足をば。
・STR(筋力)、DEF(防御力)、INT(知力)、DEX(器用)、AGI(敏捷)、POW(精神)の5つの基本ステータスに加え、LUK(幸運)というステータスがあります。
・STRは攻撃力、DEFは防御力、INTはMP効率、DEXはスキルクリティカル率、AGIは素早さ、POWは経験値の取得率に影響するステータスです。LUKは何か運要素でほんのりと影響する。多分。
・それぞれの種族にステータス補正があり、人間族はPOW、森人族はDEX、炭鉱族はSTR、獣人族はAGI、竜人族はDEF、魔人族はINTに一定値の+補正があります。