01:プロローグ
ぴちぴち、ぴちゅぴちゅ。…ズタァーーーーーーーン……。
爽やかなスズメの鳴き声と、遠くで聞こえる猟銃の音に私…美作 唯は目を覚ます。
「ふわぁぁ……」
手づくりのねこの縫いぐるみに顔を埋めつつもムクリと起き上がり、階下へ降りる。
洗面所へ行けば、丁度お兄ちゃんが顔を洗っていた。
「修兄、おはよー」
「んぶっ…あぁ、おはよう唯。寝ぐせひっどいぞ」
「修兄もねー。そんなんじゃ香織さんに顔合わせらんないよ?」
との私の指摘に、修兄は後頭部の寝癖に水をつけた。適当野郎め。
私は修兄を押しのけて顔を洗い、良い匂いのするリビングへ。
「おかあさーん、朝ごはんなにー?」
「ふふ、おはよう唯。昨日の鹿鍋の残りと山菜サラダね。お爺ちゃんが採ってきてくれたの。唯は卵要る?」
「要るー。今日は忙しいから栄養摂らないと…」
「どっか出かけるのか?」
と、口を挟んできたのはお父さん。もう作業服を着込んでいる。
「うん、かず兄が暇なら遊びに来いって。ご飯食べたら行ってくるね」
かず兄というのは私の従兄弟だ。近所に住んでいて、歳は離れてるけどよく遊ぶ仲。
「あいつ…相変わらず狙って、うぐっ!!?か、母さん〜!?」
「お父さん、気付くまではシーー、よ?いいわね?」
「???」
お父さんとお母さんが謎のやり取りを交わす中、私は食卓に着く。
朝からお鍋とは贅沢だ。まぁお爺ちゃんが鹿を丸々献上してたから余るのも訳無い。
その時、ガラララーーと玄関の扉が開く音が聞こえた。
「あらあら敏三さん、今日は狐かいね?もう朝ご飯だから裏に置いてきなさいな」
「あぁ、光恵。玄関に猟銃忘れてなぁ。すーぐ行って戻ってくるから」
ガララーーーと、玄関扉が閉まる。足音が聞こえ、お婆ちゃんが顔を出した。
「あの人ったらそそっかしくていけないねぇ。あぁ雄太、狐だってさ」
「狐かぁ。そういや一個仕事が来てたな、丁度良かった。今週中に加工だな」
とまぁ、ドタバタしつつも美作家の全員が揃う。
猟師その他色々やってるお爺ちゃん。雑貨屋をやってるお婆ちゃん。洋服店をやってるお母さんに、革職人のお父さん。木や金属でアクセサリーや家具を作ってる修兄。そのお嫁さんで、料理が大得意の香織さん。そして高校二年生、絶賛冬休み中の私。
全員ものづくりが大好きな、自慢の家族だ。
朝ごはんを食べ終わったら、早速かず兄の家へと向かうべく支度をする。
お気に入りのバッグとお母さんに作ってもらった服。そして自分で編んだ手袋をはめれば完全防備だ。
「いってきまーす」
「悪い狼には気をつけろよー!!」
狼?イノシシとかシカは裏山に居るだろうけど狼は流石に居ないんじゃないかな…。
お父さんの謎発言に首を傾げつつ、麓への道を下っていく。私の家は段々畑と林に囲まれていて、後ろには山を背負っている。緩い坂道を5分ほど降ればすぐに町の一角へ出るんだけどね。お隣さんとか居ないからちょっと寂しいけど、うちの家族の生業を考えると離れてて正解だと思う。ミシンとか彫金のノミの音ってうるさいから。
ともあれ、町に出て更に10分ほどでかず兄の家に着いた。叔父さんは喫茶店を経営していて、その裏に母屋があるのでそっちに向かう。
「こんにちはー!唯ですー」
玄関ドアを開けてそう呼びかければ、すぐに二階から人が降りてくる足音がした。
「唯!待ってたぜー!!」
大人びた顔で子供っぽく笑う青年。かず兄こと築紫 一磨だ。
「ほいほい上がった上がった!あ、そこの郵便受けの封筒取ってくれ」
「これ?あ、かず兄宛てだよ」
ぶ厚めの封筒を手渡す。 かず兄はそれを受け取って早速びりびりと封を破っていた。
「先に上行っててくれ、お茶とお菓子貰ってくるわ。唯は何飲む?」
「えっとー…キャラメルカフェオレ!」
「ほーい」
お店に繋がる廊下へ行ってしまうかず兄。私は二階へ上がって、勝手知ったるかず兄の部屋へ上がりこむ。相変わらず紙とインクの匂いでいっぱいのお部屋だ。
昔から変わらないでっかい本棚と、勉強…もとい、仕事机。レトロな木机の卓上には最新鋭のPC機器が並んでて、資料なのか原稿なのか紙束でゴチャゴチャしてる。
で、ベッドとその後ろに広がるゲームゾーン。レトロゲームから最近流行りのVRゲームまで取り揃えてある。なんだか買ったばかりっぽい大箱も2つ、置いてある。
かず兄は昔から本とゲームが大好きなインドアっ子だった。そして、その趣味をそのまま生業とし、22歳の現在は小説家兼ライターだ。ゲーム雑誌の記事とかを書いてるらしくて、その界隈じゃ有名らしい。小説もゲームみたいなファンタジーのラノベ系を書いてるから、読者からの人気もひとしおなんだとか。
私は壁脇のソファに沈み込んで、自作のクッションを抱き締める。よく入り浸っているので自分用に小物なんかを献上しているのだ。
「家の次に落ち着く場所だなぁ、かず兄の部屋って。……しかしまぁ、」
あの大箱…気になる。遊びに来てって言われてたワケだし、もしかしてあれ…ゲーム?
だといいなー、ウチじゃあまりやらないから。色々作る方を優先しちゃうんだよね。
じーっと箱を見つめていると、階段をのぼってくる音がした。
「唯、おまたせ。ほら、カフェオレとクッキー」
「わーい!叔父さんのナッツクッキー!」
私は手渡されたそれに夢中になる。甘苦いコーヒーと香ばしい味のクッキー、最高。
私の隣に座るかず兄もブラックを一口煽り、ふぅと息を零していた。そして目をぱちくりとさせた後に、小脇に抱えた雑誌を私に差し出す。
「んく、何?あ、かず兄がいつも記事書いてるゲーム雑誌?」
「そ。さっきの封筒の中身がコレだった。実は、今日唯を呼び出したのもコレ関係でさ、ちょっと読んで欲しいんだよ。そこの付箋のトコな」
「もしかして感想聞きたいとか?遊びに来てって言ってたのにー」
「まぁまぁ、取り敢えず話は読んでみてからのお楽しみだ」
コーヒーカップを置いて、雑誌を受け取る。付箋がついてるページを開くと、まず目に入ってきたのは美しい諸島?を上空から撮影したような写真だった。
そして、その写真の左上には『The Road』の文字。
「綺麗な島だね、これ。森と街と火山に高山?自然いっぱいって感じ。どこの国?」
「くく、現実の国じゃねーよ。それ、ゲームの背景カット。グラフィックだよ」
「…え?え、えええぇえ!!?こ、こんなにリアルなのに!?」
再び、その写真を凝視する。でもグラフィックだなんて見分けがつかない。遠景だから?でも確かに、現実じゃこんな風景あり得ないよね。砂漠とか雪山もあるし。
それにしてもグラフィック特有の微妙な違和感が全然ない。映画のCGならまだ分かるけど、ゲームのグラフィックだなんて…。
「な、なんのゲーム?PS6?それとも南天堂とか?」
「うーん、そういう有名どこじゃないんだよ。ほら、タイトル読めって」
「タイトル?…『待望の新星、FVRMMORPG"The Road"を徹底解明!!』…えぇ、なにこのFVRって?後のは分かるけど…んん?もしかして最近ニュースで話題の…」
「そう!!ようやく、ようやくフルダイブ型のVRゲームが実現するんだ!!!」
かず兄は興奮した様子で、笑顔をキラキラさせた。
『待望の新星、FVRMMORPG"The Road"を徹底解明!!』
〈アウトライン〉
幾多の分野で技術のブレイクスルーが発生し、各国共同のVR開発チームが結成されてから5年後。人類は夢見ていた世界を現実へと変える技術を手に入れた。そう、フルダイブ型仮想現実テクノロジーである。その技術は軍事・医療面で試験的に利用され、であるにも関わらずその内容は秘中とされてきた。
そして人体に無影響である保証がされ司法整備が整い、ようやくその技術が我々の元へ降りてきた。そう、ゲームファンの元へ!!!
我々サンダーブックス社の取材によると、技術完成当時から各国ゲーム会社へはFVRのデータや技術が公表されていたという。それを元にゲーム会社らは先んじてソフトやハードの開発を進めていたのだ。そして、日本がその最先端へ到達した。それこそがこの『The Road』 である。制作会社はVRが浸透しつつあった20年前に誕生したfantasìa社。誰よりも先にVRゲームへ打ち込んだfantasìa社が贈る、ゲームファンたちへの最高傑作だ。
今作はプレリリース版として20000ロットが製造され、その半分を一般で抽選予約受付している。(本誌でも抽選2名様へのプレリリース版プレゼント企画を実施いたしますので奮ってご参加ください。詳しくは記事の最後をチェック!)
今号ではコラム第一弾として公式発表の内容を織り込みつつ、本誌の独自取材による制作会社へのインタビュー、本誌編集部によるゲーム分析といった内容になっております。そして、次号からは人気ラノベ作家であり本誌の常連ライター・シズが実際にプレリリース版をプレイして徹底解明!!な連載をお送りします。見逃すな!!
〈インフォメーション〉
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雑誌の冒頭部分、その最後の2行で私はドキリと胸を跳ね上げさせる。シズというのはかず兄のペンネームだ。と、いうことは…。
「あの、その、そっちの箱ってもしかして…?」
「やっぱり気づいてたかぁー。隠しときゃ良かったかな」
無骨な紙袋から覗いていたその大箱を私の目の前まで運んできて、ごとりと重い音を立ててローテーブルの上に鎮座させた。
「これぞ!!次世代のゲーム機、その名も『FantaGia』!!こいつで『The Road』をプレイ出来るって訳だぁー!!」
「おおおーーー!!」
星空とオーロラで彩られたその箱は、2つ。2台分。つまり?
「せっかくのMMOなのに知り合いが居ないのは、なぁ?という訳で唯、一緒にプレイしてくんないかな」
「も…もちろん!!!わぁあ…!ありがと、かず兄!!」
テーブル越しにムギューと抱き着く。普段大人しい私だけど、そうするほど嬉しい!
「んんっ………いやー、こちらこそ色々ありがとうな」
顔を手で押さえてるけど、ニヤケ顔が指の間から見える。かず兄も嬉しいらしい。
ワクワクを押さえ切れず、私はかず兄から『FantaGia』へと興味を移す。
「それでそれで、どんなゲームなの!?MMORPGってことはネトゲみたいな感じ?」
「……だな。FVRで一番期待されてた分野がそれだったからってことだろ。前情報を見た感じではステージは超広大、ゲームシステムも幅が広いネトゲって印象だったな」
「ゲームシステム…最近は色々あるよね、ドラゴンや動物に乗れるのとかストラテジー系とか、自分がモンスターっていうゲームもあったっけ?あと、忘れちゃいけない生産システム!!」
「そうそう。実は唯を呼んだのもその話に絡んでてな。雑誌の編集長から『攻略じゃなくて面白プレイの方向で頼む』って言われててさぁ」
「…それが?」
「いや、俺の周りで面白いって言ったら唯だから」
首を傾げる。私は普通のダウナー系女子高生だと思うんだけど。
「どの辺が面白いの?」
「コホン。……現代日本で裁縫・編物・革加工に工芸品、木工や金属加工までこなして挙げ句の果てに動物の解体まで出来る女子高生って唯以外に居ねーよ!!!」
「えぇー、全部家族の影響だって!!そりゃ、多少は珍しいかもしんないけど…」
学校で友達と話題がズレやすいって自覚はありますけど、ハイ。
「まぁとにかく。このゲームって戦闘系の次に充実してるのが生産系のシステムって話なんだよ。唯の趣味範囲は勿論揃ってるし、鍛治とか錬金術みたいなゲームでしか出来ないのもあるしさ。で、唯を誘おうと…」
「やるやるやる!!!ぜったいやる!!!農業は!?畜産は!?建築とかも気になってるんだよね!!あと紡績とか陶芸とか」
「はいはいはい待て待て落ち着け!!ったく、物作りときたら目の色が変わるなぁ」
「当たり前!かず兄だって憧れるでしょ?ファンタジー物語みたいに生活の全部を自分で作る!自分の作ったものに囲まれて過ごす!ふへへへへへ…」
現実じゃ材料調達にお金が掛かるし、作るのだって時間が掛かる。ゲームは自分で材料を調達出来るし制作過程も省略される。作る過程を楽しむことは出来ないけど、その辺は一長一短だろう。やりたいことがいっぱいある私にはゲームでの生産も合うかもしれない。
「ゲーム内に出てくるアイテムは全部制作可能って話だし、オリジナルアイテムだって作れるらしいから期待には応えてくれるんじゃないか?で、サーバーオープンが今日の午後12時からなんだよ」
「今日!?ずいぶん話が突然だね」
「コイツの取り寄せとか仕事納めに時間が掛かっちまってな。それに、唯も冬休み始まったのって今日からだろ?なら今日話せばいいかと思ってさ」
「そっか、それもそうだね。じゃあ急いで準備しないと!」
「だな!よっしゃやるぞ、最新ゲーム!!」
生産重視のVRゲーム、俺得要素を掻き集めて書いていきます。趣味小説のお蔵出し。
気に入って頂けたら幸いです。




