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ダイレクトメッセージ

この作品はTwitterを使っている時にふと浮かび上がった作品です。

浮かび上がってから出来上がるまで三時間ほどでした。ちなみに実際に起きた出来事ではないので悪しからず

 高校生になって初めてスマホを持つ。母に入学祝いにと買ってもらった。「女の子だから連絡は取れるように」と母は言ってたけど、それならもっと早くに渡すべきじゃないかな?


 さっそく連絡アプリと話題のSNSアプリをインストールしてみた。連絡アプリは家族とアカウントを交換して、SNSアプリはテキトーにアカウントを作った。このSNSは全く知らない人の何気ない呟きを見ることができたり、自分もテキトーな呟きができる物らしい。いい暇つぶしになりそう。

 ちなみにアカウント名は「キノコ」。由来は中学時代のあだ名。アイコンもネットで拾った茸の画像にしてある。

 高校に行くようになって私は日々の出来事を投稿した。

「今日は一限から体育、辛いわぁ」とか。

「校庭で男子達が鬼ごっこしてる。子供っぽいけど楽しそう」とか。

 投稿を見ればよくある日常を送ってるのかと思える。

 でも実際は違った。


 私は学校で一人ぼっち。最初は色々な人が声をかけてくれたけど皆から見た私は普通ではないらしい。今ではイジメの格好の標的、スクールカーストの最底辺に居る。

 物が無くなるのはしょっちゅうだし、女子から暴力を振るわれることもある。最近ではあらぬ噂を流されたんじゃないかな。様々なクラスから男子が私を見に教室へ来る。視界に入れないように、耳に入れないようにしても伝わってくる。

「なんだ、あのキノコヘアーか。全然可愛くねーじゃん」

「おい、お前ヤラセてもらえよ」

「やだよあんなブス!」

 勝手な事を言ってくれる。別になりたくてブスになった訳じゃないしアンタ達が勝手に期待しただけでしょ。

 隣の席の男子もこちらを見てる。きっと私を笑ってるんでしょ?


 そんな日々に耐えきれず私はもうひとつアカウントを作った。同じ「キノコ」の名前、同じアイコン、でも今度は無関係の人には見られない鍵付きアカウントにした。紹介文も「愚痴専門」の一言にしといた。

 そのアカウントは愚痴をたっぷり投稿した。

 元のアカウントでは言えない、家族にも言えない様な心の鬱憤を垂れ流しにした。そこでしか私は自分をさらけ出せない。家族にもネットの知り合いにも見せられない私の黒い部分。


 ある日のこと、いつものように鍵付きアカウントで愚痴投稿をしているとひとつのアカウントに繋がり申請が来た。

 繋がり申請を許可すると私の愚痴がこのアカウントに見られてしまう、拒否しよう。

 拒否ボタンを押そうとするとそのアカウントからダイレクトメッセージが届いた。

「何か悩んでいるんですか?」と書かれたメッセージはおっせかい以外の何物でもない。そう怒りながらも私は拒否ボタンを押すのを留まっていた。

 サッカーボールのアイコンに名前は"S"とだけ付けられたそのアカウントは、不思議と私の悩みを聞いてくれるんじゃないかと思わせた。

 繋がり申請を許可してメッセージの返事をした。

「申請ありがとうございます。ちょっと学校で嫌な事があったので」

 メッセージを送信するとすぐに向こうから返事が来た。

「学校って良いことばかりじゃないですよね。分かります」

 どう返事をしようか悩んでいると少し間を空けてメッセージが届いた。

「僕でよければお話聞きますよ?」

 その一言を目にした私は日頃の話をしてみることにした。住所も年齢も顔も名前も知らない人に。

 普段の生活がどんなものか話をしている間、Sさんは相槌のひとつも入れること無く私の話を聞いてくれた。私がいっさいを話終えると「今まで辛かったね、よく頑張ったよ」と優しい言葉を掛けてくれた。その言葉に私はどれだけ救われただろうか。気がつくと自然と涙が溢れていた。


「親や先生には?」

 そう聞かれた私は答えた。「話せない」と。すると相手は「分かった、これ以上は聞かないよ」と返す。

 そう、私は大人を頼ることが出来ない。大人を頼りたくない。中学時代の私は今とさほど変わりはなかった。友達は誰一人として居らず、クラスメイト全員に虐げられる日々を過ごしていた。先生に相談したことは何度かあった。でも答えはいつも一緒。

「イジメはいじめられる側にも何か問題がある。自分の行動を見直すべき」

 この言葉が私の中で何度もリピートされている。今でも。

 親に相談はできなかった。私の家には父が居らず母が女手ひとつで私を育ててくれている。毎日を多忙に過ごす母にこれ以上の迷惑は掛けられなかった。


 昔のことを思い出していると新しくメッセージが送られていた。

「じゃあ僕がお話聞きますよ」

 彼の言葉に戸惑った。いや、"彼"というのもおかしいかな?"僕"と言うからには彼で合っていると思うけど。

「でもそんなことをしても……」

 率直な意見を言うのはやめた。もし正面から否定したら相手の気持ちを踏みにじってしまうかもしれない。

「話すだけでも意外と気が楽になるものですよ。僕のことは気にしなくていいので、辛かったら言ってください」

 それを最後に相手からメッセージが来る事は無かった。どうしたものかと悩みはしたが、こちらが何も言わなければいいという結論に至る。そうと決まれば大丈夫かと私は眠りについた。


 翌日、イジメはいつもの通り行われていた。朝の下駄箱で私はため息をついている。上履きが泥まみれになっていたのだ。眉をひそめながら上履きを水道で洗っていると後ろから声をかけられた。

「何かあったのか?」

 それは隣の席の男子だった。

「別に」

 短く答えると男子は上履きを私の手から取り上げて洗い始めた。

「いいよ、私と関わってるとろくな事ないよ」

 上履きを取り返すと男子は怒るような口調で答えた。

「そんなの目の前にして放っておけるわけないだろ」

 正義感の強い人なんだね。これ以上話していると多分長引く。

 私は黙ってその場を離れた。男子の顔は見ていないけど、多分怒ってるんじゃないかな。

 その日の夜、私はいつも通り愚痴を投稿した。

「上履きが汚くて履けなかった。忘れた人用にある貸し場の先生にも顔を覚えられてた」

 投稿してから間もなく反応が来た。それはSさんだった。

「上履きが履けないと困りますね」

 これに対して返事を送ることはしなかった。昨日の件もあるし、第一Sさんに話をしたところで根本的な解決ができる訳でもないし相手に無駄な時間を使わせるだけ。

 それ以上の投稿をすることなくその日は終わりにした。


 それからというもの毎日SNSに愚痴を投稿すると必ずSさんが反応をしてくる。私は1度たりとも返事をしてないが彼は性懲りも無く反応し続けた。正直、鬱陶しいと思うくらいの彼の行動は私には理解出来ない。

 とうとうダイレクトメッセージに新着が来た。

「最近イジメが酷いみたいですね」

 面倒くさいけど、無視することも出来ず肯定だけしとく。

「そうですね」

 するとSさんはすかさず反応を見せた。

「辛くないですか?」

 辛いかと聞かれると少し困る。慣れてしまったせいか辛いというより面倒くさい気持ちの方が大きくなっている気がした。

 自分の気持ちを伝えると相手は少し間を空けて返信してきた。

「それはいけませんね。人間辛いことには慣れてしまいますから、なんとか打開しないと」

 見ず知らずの私に対してそう思ってくれるのはありがたいけど、だからといってこの人に話すのはどうかと私の心が話すのを止めた。

「今日の学校はどうでした?」

 唐突に聞かれた質問に私は唖然とした。何故いきなりそういう話題に切り替わったのかと。私は鍵をつけてないアカウントで投稿した話をした。

「国語の先生がつまらないギャグを言ってました」

 すると彼は間髪入れずに返信してきた。

「どんなギャグですか?」

 それから私達は他愛もない話を一晩中続けていた。窓から指す光が目に入り寝ずにやり取りしていたことに気づく。

「もう朝ですね」

 Sさんの一言にすぐ返信した。

「ごめんなさい。どうでもいい話に付き合わせちゃって」

「いいんですよ。話を振ったのは僕なので。

 ではそろそろ寝ましょうか」

「そうですね。おやすみなさい」

「おやすみなさい」

 やり取りを終えると私はベッドに大の字になって寝転がった。ずっとスマホをいじっていた疲れのせいか二秒と経たずに目を閉じた。


 けたたましいアラームの音に起こされて目を開く。Sさんとのやり取りを終えてから二時間経った程の時間だ。私は行きたくないなと思いながら準備をして学校へ向かう。忌々しい学校へと。

 門を潜ると予鈴が響いた。まずい、遅刻しちゃう。駆け足で教室に急ぐと担任が教壇でホームルームの準備をしていた。

「ギリギリだなぁ、早く座れ」

 そう言われて、他の生徒の視線を受けながら座った。

 本鈴が鳴り担任が話を始めると、教室のドアが勢いよく開いた。

「すいません! 遅れましたぁ!」

 隣の席の彼が、肩で息をしながら入ると皆、笑って彼を迎えた。

「おいおい、いつもギリギリだが遅刻はアウトだぞ? 気をつけろよ」

 担任の言葉に両手を合わせて謝る彼。席に着くと前の男子が後ろを向いて話しかけていた。

「とうとう遅刻かぁ」

「あぁ、まあね」

 そう言いながら彼はこちらを見てきた。けど私はなんの反応もせず前を見た。別に私は彼の友達じゃないし、向こうも話しかけてくるわけじゃなかったから。


 学校が終わり夜になるとメッセージが来ていた。

「お疲れ様です。学校、どうでした?」

 私は特に何か考えるわけでもなく返信をする。

「遅刻しそうになっちゃいました」

「あ、それはすいません。今日からはタイムリミットを決めましょうね」

 そんな風にまるで友達と話すような感覚でやり取りをする。


 一週間が経ち、一ヶ月が経ち、私達はまるで親友のように打ち解けていた。

 お互いの趣味や日常、どんな人が好きで今日は何を食べたとか。学校で誰とも関わらない分、私はSさんとの会話に一生懸命になっていた。

 ある日、学校から帰った私はメッセージを送った。

 長い間やり取りをしていて、私からメッセージを送ったのは実はこれが初めて。

「いつもありがとうございます。Sさんのおかげでイジメに負けることなく毎日を過ごせてます」

「いえいえ、僕はただくだらないおしゃべりをしてるだけですから。それで楽になるならお安い御用ですよ」

 Sさんは本当に優しい人だな。彼と話している時だけ私は笑顔になれる。この人に感謝しなきゃ。

 そんなことを考えているとメッセージが届いた。

「ところで学校で友達はできましたか?」

 私は少し考えてから返信した。

「いいえ」

 嘘をつくか悩んだ。心配をかけないように出来たと嘘をつくか。でも彼は私の事を良く知っている、嘘をついてもきっと見破られるだろう。

 しばらく待ったけどSさんからメッセージが来ることはなかった。

 寝ちゃったかな?私も早く寝よっと。

 布団に入って眠りにつくことにした。起きれば学校という嫌な現実が来るけれど、Sさんとまた話せる。


 翌日、私は憂鬱になりながら学校に来る。でも以前に比べたらその気持ちも薄くなっている。これもSさんのおかげかな。

 下駄箱で靴を履き替えるとある異変に気づく。上履きが何もされてなかった。イジメの内容として上履きに何かされる事が良くあったが、今日は何かされてるわけでもなくキレイに下駄箱に入っていた。

 教室に入り席に座ると机の中が綺麗だった。ゴミやら何やら入れこまれている机はチリひとつない状態で保たれていた。

 どういう事だろう? その日は今まで地獄のように思っていたイジメが全く行われなかった。

 不思議に思いながら放課後教室を出ようとすると扉の前で男子が2人で立ち話をしていた。

「え? 本当に?」

「ほんとほんと、あいつがイジメを辞めさせたんだぜ」

「はぁ〜、正義感の強いやつだと思ってたけど、まさかそこまでとはね」

 少し離れた場所からその二人を見ていると片方が私に気づいた。

「おい、通るってよ」

「あ、マジか。ごめんごめん」

 あからさまに今までと様子が違うことに違和感を覚えながらも私は下駄箱に向かった。

 靴を履き替えているとスマホに通知が来る。何かとチェックするとSさんからメッセージが届いていた。

 普段は夜にしか送ってこないのに珍しい。

 そんなことを思いながらメッセージをみると不思議な文が送られていた。

「今どこにいるの?」

「今? 学校だよ」

 すぐに返信するとすぐ返事が来た。

「学校のどこ?」

 何故そんなことを聞くのだろう?疑問を持ちながら下駄箱にいると答える。

 すると返事が来た。

「伝えたい事があるんだ。そこで待っててくれ」

 Sさんに私はどこの学校に通っているのか言ったことがなかった。だからどうやってここにくるのか不思議で仕方が無い。

「なぁ」

 突然、後ろから声をかけられビックリしながら声のする方を向いた。するとそこには隣の席の男子が荒い息遣いでそこに立っていた。

「貴方、前に声かけてくれた人だよね?」

 私が質問をすると彼は肩で息をしながらこちらに近づいてきた。

「初めましてキノコさん、Sです」

 そう言いながら彼は私にスマホの画面を見せた。そこにはSさんのアカウントと私とのやり取りがあった。

「え?じゃ、じゃあ……貴方とやり取りしてたの!?」

 理解が追いつかなかった。ろくに話をしてない隣の席の子とずっとやり取りしてたなんて。なんで彼はそんなことをしたんだろうか?私はパニックになっていた。

「ごめんよ、今まで黙っていて。君のことを放っておけなくて、でも君助けてもらうことに抵抗を感じてたみたいだから」

「え…アカウントは? どうして私だと分かったの?」

「周りの奴らが君を"キノコ"って呼んでるだろ?それでSNSで探してみたんだ。そしたら君のアカウントがヒットした。

 投稿の内容と実際の出来事が一致したから確信したんだ」

「えぇ、ストーカー?」

「ちちち、違うよ! それはそういう事じゃなくて!」

 彼は必死に説得した。その姿を見ているとこの人がSさんなんだなって本当に思えた。

 クスリと私が笑うと彼は少しホッとした表情を見せた。

「それで、伝えたい事って?」

「うん、これはダイレクトメッセージじゃ伝えられないからさ。直接言うよ」

「うん、だから何?」

「僕と友達になってください」

 彼はそう言いながら手を伸ばした。

「僕を君の初めての友達にしてください」

 真剣にそう言う彼の顔を見て私は涙を零した。無意識だった。だから何故泣いているのか分からなかった。

 彼は焦って私の涙を拭おうとするから私は自分で涙を拭って答えた。

「宜しくお願いします。

 改めて初めまして、キノコです」

「こちらこそ宜しく」

 私の辛い学校生活はこの一日を境に素晴らしいものへと変化した。


 鍵をかけてないアカウントは削除した。ただし愚痴専用アカウントは残したままにしている。

 私にとって大切な宝物だから。

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