贄
「彼女は僕がこの場所、鬼門に辿り着き何かを企んでいた事を察知したのか
向かって来たのさ」
山本錫は先程と相変わらず気味の悪い薄ら笑いを浮かべつつ、事を
再び説明する。
「僕はあの時ねぇ、彼女を”待っていた”んだよ」
「待っていた・・・・・・だと?」
晴斗が汗を垂らし、彼に問う。それに対し山本錫はさらに話を進める。
「ああ。そうとも。僕には神の加護がある。朝江ちゃんが僕に近付く事は
因果によって決定づけられていた」
「彼女はあらかじめこちらにA.C.Lの装備ポイントがある事を知らされていた
様で・・・まさかあの機械が量産化されていたとは夢にも思わなかったさ」
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「山本錫ぅぅぅぅぅぅぅ!!」
それは、過去の記憶。因果のアーカイブスから導き出されたヴィジョン。
そこでは朝江が山本錫へとAレインを放っている姿が見えた。
「おっと。君が・・・招朝江ちゃんが来る事は分かっていたよ。
良く来てくれた」
鬼門山に祀られている祠にて、山本錫が笑顔で”出迎える”。
彼の飄々とした態度に対して彼女の堪忍袋の緒が切れる。
「お前が・・・姉さんを殺したんだ・・・今日こそ仕留める・・・!!」
朝江は強烈な怒号と共にAレインを山本錫目掛け射出する。
その鉄槌は彼を串刺しにし、体を地面に突き刺す。
「これでお前は動けない・・・ここでお前はずっと死に続けるんだ」
朝江がさらにAレインを食らわせながら彼に言い放つ。
「お前が今まで殺して来た人の分までお前は死に続けろ!」
そのまま朝江は彼を細切れにしていく。しかしそのサイクルも長くは続かない。
山本錫は死ぬ毎に、強化されていく。
彼女のAレインを軽々と避けた山本錫は地面に突き刺さっていたAレインを
朝江に突き刺し返す。が、彼女とて負けじとAアンブレラで防御する。
「・・・強いね。いや、強くなった。何だろうね、決意が前とは違う感じがする」
「お前なんかに言われる筋合いは無い!!」
朝江が隙を見せた山本錫に応戦する。しかし、その攻撃はひらりとかわされ、
背後に迫られた。
Aアンブレラの展開も間に合わず、その瞬間に彼女の心臓が一突きされた。
「あ、ああ・・・う・・・・・・ねえ、さん」
そして彼女は誰に知られる事無くその命に終止符が打たれた。
「レインの力が失われた今、トリガーにスルならばこの力しか
無いんだな。リヴァース!」
山本錫が倒れた朝江の遺体に手をかざすと、彼女が起き上る。
「さぁ、君の手で壊してみろ・・・・・・」
彼が鬼門を破壊し、そこから勢い良く溢れだすナノクオーツを朝江の
Aレインに付着させる。
「こうすれば特異点の力無くともこの雨を世界に降らせる事が出来る!
僕の力を宿した彼女の人工因果律ならば遠距離への”降雨”させられる」
「これで・・・ワタシノ、ネンガンガカナウ・・・・・・」
山本錫が高らかに笑い始める。そして、世界中にナノクオーツが降り注ぐ。
全ての世界にいた羅刹の資質を持つ者達は途端、因果律に目覚めていく。
「雨音・・・この感じは・・・」
その頃、京都で買い物を楽しんでいた響らが”始まった”事に気付く。
そしてそれと同時に自分達の非力さを悔いた。
「ウソでしょ・・・ねぇ、嘘だと言ってよ!!私達が止めた筈なのに、
こんな・・・いや、いやぁぁぁぁぁ!!」
雨音の悲痛な叫び声と共にヴィジョンが消え去る。
そこにいつの間にか立ちすくんでいた晴斗が涙を溢す。
「そ、そんな・・・こんな世界があってたまるか・・・・・・」
「世界か・・・そうだ!」
遥が手槌を打ち、何かを閃いた。
「晴斗、この世界を変えれば良いんだ。過去からな!」
遥がへたり込んだ晴斗の肩を強くたたき、笑顔で言った。
それを聞いて晴斗も考えが浮かんだ。
「親父・・・たまには使えるじゃねーか。行くぞ!」
「クリエイト!!」
晴斗と遥がそう詠唱すると、虚空へ飛び立った。
「まさか過去の世界へタイムリープして未来を変えるってか。
まぁこちらの世界は滅んだしいっかな」
山本錫が短絡的に言ったが、頭を抱えて響いてくる”アリス”の進言に耳を傾けた。
「何?あいつらが過去を変えると未来の世界線の因果まで変更されるのかよ!?
まァ良い。過去だろうが別世界だろうが僕には勝てないさ。
はははははははは!・・・覚えていろ、クソガキ共!!!」
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「ナイスフォローだ晴斗。お前がタイムリープする空間を
アリスに干渉されない様にクリエイトを使ってくれたお陰で無事に
過去へ戻れそうだな。ありがとう」
過去へ移動する空間。先程と同じ風貌に見える場所だが、ここは誰にも邪魔されない
絶対領域と化している。晴斗の咄嗟の判断によって遥は安心している事を
革新していた。
一方晴斗は久々に再会した父に言い渡されたその”感謝”に少し照れていた。
「う、うるせーな」
「そういえばお前さっき泣いてたな―んん?めっちゃ泣いてました―」
「泣いてませんー。親父こそ不謹慎な笑いやめろバーカ」
晴斗が仮にも父である遥を煽る。それに逆上し二人が喧嘩を始める。
この様なふざけた親子だが、彼ら世界の運命は委ねられていた。




