《side朝江》帰路
「君達が例のA.C.Lに関わっている鬼原蓮様、招朝江様ですか」
物腰低くそう彼女らを呼ぶのは常駐日本大使である。
彼はナノクオーツが発見された日本と、その起源であるイリアステルに
関する知識を有しているスイスの間を保ち、現在のA.C.L技術を発展させた
張本人でもある。
「いやぁ、様だなんてよして下さいよぉ」
鬼原が頭を抱えながら照れる。その横で朝江が彼とこれからの話を
進める。
「それで、私は入国許可無しでここへ来てしまった訳ですが、
何某かの処罰は受けますか?」
「いいえ、今回本国にあの山本錫が侵入、反国家的行為を
行ったと言う想定外の事が発生している為、無起訴です」
「そうですか。ご迷惑お掛けしました」
朝江がかしこまってお辞儀をした。
大使が彼女に笑顔で話しを続ける。
「気にしないで下さい。あなた方は我々スイス国民の命を救ってくれたのです」
「それは・・・!」
朝江がさっきのヘーゲルの事を思い出した。自分が成す術も無く無残に殺されてしまった。
彼女の頭から離れないその光景。山本錫の不気味な笑い。
この目で味わった人の死。”それ”は恐怖に他ならなかった。
「うっ・・・」
朝江が口元を押さえうずくまる。彼女の不調を察した鬼原が医師を
呼ぶ。
「招君は体調が優れない。早く医者を呼ばないと・・・」
鬼原は多少なれども医療知識があるが、それでも看護程度しか出来ない。
正真正銘の医師の到着を待った。
「今到着しました!」
ヘルマンがそう伝え、朝江の元へ案内する。
医師の判断によると、これは心的外傷によるものだった。
彼女の体調も考え、鬼原と共に帰国する事となった。
「こちらが無償でお送り致します」
「ありがとうございます。ところでホ―エンハイム君、君はどうする?
こちらに残るのかい?」
鬼原がヘルマンに問う。すると、ヘルマンははにかんで荷物をまとめ始めた。
「いいえ。僕も日本に行きます。まだ001は完成していませんから。
錬金術技術なら僕が居た方が何かと好都合でしょうしね」
「心強いや」
鬼原はそう呟くと、すぐさま朝江の様子を伺いに向かう。
「招君、もう歩けるのかい?」
「はい、何とか・・・くっ!」
朝江が頭を押さえつつ、ゆっくり歩き出す。
大使館に車が到着し、空港まで三人を連れていく。
大使館の前では大使らが暫く手を振っていた。
「・・・疲れちゃったなぁ。招君、やはり体調は回復しないか」
鬼原の独り言があまりにも大きかったためか、ヘルマンが言葉を返す。
「まだですよ。それにこれから飛行機にも乗るんですから」
鬼原が少し唸る。すると、朝江が細々とした声で言った。
「人が死ぬのが怖いんです」
鬼原が彼女の方を向く一方彼女はどこか遠くを見渡し、さらに続ける。
「姉さんを殺した相手に、また人が殺されてしまった・・・。
それも目の前で惨たらしく。その事を考えて、今こんなに気分を
悪くしている、と」
「トラウマです。簡単に言えば」
朝江が少し笑みを浮かべた。不意に鬼原も彼女と同じ方向に目を向けると、
そこには日常生活を営む人々の姿があった。
「生きている、ね・・・」
鬼原が呟くと、それを朝江が返す。
「生きていくんですよ・・・」
朝江の顔色が少し良くなっている事に気付いた鬼原は一つ、彼女に
提案をした。
「実は今度佐伯君の誕生日なんだ。盛大に祝おうや」
「え・・・?」
「ホ―エンハイム君も来なよ。そう、何も私達が思い馳せるのは
死だけじゃ無い。生きている事。人の成長。そう言う物を
語ろうじゃないか!!」
鬼原が急に嬉々として叫んだ。
「帰国したら、パーティーだぁー!!」
「laut」
ヘルマンは小さくそう呟きながらも、表情は柔和だった。
車は彼女らの”希望”を乗せ、空港へ向かう。




