《side朝江》仕方ない
朝江が先日の事を思う。
---姉さんが殺されたのを彼女らは”仕方無かった”
そう捉えている。
本当に命はそんな言葉で語れるの?
失われる命に仕方無いなんて無い。全ての命に意味がある。
そう。誰の命でも妥協で失うなんて絶対に許さないーーー。
「・・・ねぇ、山本錫。あなたは本当にその命を、仕方ないで
済ませられるの?」
山本錫がは?と問う。しかし、朝江はその言葉に耳を貸さず、
彼の顔面を思い切り殴った。
「へぶっ!!」
その強烈なパンチで吹き飛び、大学の壁面に叩きつけられた。
「お前の命にもう、意味は無い。Aレイン!!」
朝江が鉄棒を山本錫の腹部に突き刺す。
彼は吐血しながらも笑い出した。
「ははは、僕だけのけものフレンズってか。まぁいいや。
アリスの回収はどうせ必要ないさ。序の口で詰んでる
君達には良いハンディだよ。それで、君の名は?」
「招、朝江」
山本錫はこくこくと頷き、体を引き裂きながら鉄棒を引き抜き、
虚空へ消え失せた。
「また会おう、朝江ちゃん」
そして、彼の高笑いが遠くなっていった。
彼が消えた事を確認すると、気を失ってしまった。
その頃、鬼原とヘルマンは、大学構内を駆け巡っていた。
「司書さん追って来ませんね。さらに山本錫も」
「様子がおかしいな。ホ―エンハイム君、庭園へ戻ろう」
鬼原の提案をヘルマンは拒否した。
「危険ですよ!そんな事したら招さんにも危害が
及ぶんじゃないですか!?」
「そう思うのも妥当だな。私が行って来る」
鬼原はそう言い残すとヘルマンを置いて庭園へ戻る。
仕方なくヘルマンも彼女に付いて行く。
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「・・・・・・ねき・・・まねきくん・・・招君・・・招君!」
朝江が目覚めると、鬼原、ヘルマンが自分の名を呼んでいる事に
気が付いた。
「あ、鬼原さん、ホ―エンハイムさん」
「招君、大丈夫かい?こんなに血が付着してしまって・・・」
鬼原が彼女に付いた返り血を拭う。
「はっ、お爺さん!」
朝江がヘーゲルに近寄り、彼の手を取る。
しかし、彼は動かず、鬼原が朝江の肩に優しく手を置く。
ヘルマンの方を見ても、彼は首を横に振るだけだった。
「この傷跡・・・やったのは山本錫だね?」
「はい・・・逃げられたけど・・・」
「別に問題は無いさ。それより、招君、君の方が心配だ。
怪我は無いかい?」
朝江は少し頷いて、何も言わなかった。
暫くそこにいると、チューリッヒ市警の警官らが走って来た。
彼らにヘルマンが事情を説明すると、警官はパトカーを用意した。
「乗って下さい、二人共。取敢えず話は日本大使館へ行ってからの
方が好都合です」
パトカーで移動している中、朝江は同乗している鬼原へ呟く。
「お役に立てず、申し訳ありませんでした」
「いいや、良いんだよ。あのお爺さん、カタパルトさんは
すぐに身内の元へ還ったし、山本錫に関する事が載っているこの
本を託してくれた。それに・・・」
それに?と朝江が聞き返すと鬼原は彼女の目をまっすぐ見つめ、
こう言った。
「君は強くなった。今日までできっと何かがあったんだろう?」
「・・・佐伯雨音さんと長谷川響さんに会いました。彼女らは救えなかった
命を悔い、救うべき命に向かっている。そう言う人達なんだって・・・。
誤解が解けました」
「そうか。私と今はいないけど荻君は?」
「私達の大敵、山本錫に最初に立ち向かった勇傑、そう思っています」
「あっはは、大げさだよ招君!」
鬼原が腹を抱えて笑う。彼女が前の座席を蹴っているお陰で前で
運転している警官が怪訝にしている事を朝江は心の内に隠した。
彼らが乗ったパトカーは日本大使館へ入り、身分証明の類を見せる事で
その中へ案内された。




