葉桜が映える頃
日の落ちきった空の下、私はもう逃げない。
どの位走ったのか。
知らない道をただ進み。
そこに私と、響さん、荻君。
二人の信頼出来る”仲間達”はいた。
「山本錫、元所長。貴方の行ってきた殺害、裏切り、
命の冒涜。その罪をここで断ち切るわ」
今目の前で身構えている彼は私の命を救ってくれた命の恩人。
なのだけれど、ここで殺さなくてはいけない。
「因果とは難しい物ね」
「雨音さん、こんな時に何笑っているんですか」
「御免なさい。ただ・・・彼とはもっと、素敵な関係になりたかったわ」
「じゃあそうしようよ!今からでも遅く無いさ。雨音ちゃーーー」
「今の!貴方とは絶対に分かりあえないわ。だから、ここで、
因果を信じて・・・優しい貴方と巡り会う為に・・・・・・」
ここで貴方の業を晴らしたい。
「さようなら・・・シャイン!!」
私が手をかざし、振り下ろす。
すると、天空から大量の光の槍が降り注ぎ、山本錫を照らす。
この光を受けた羅刹は、その身を跡形も無く消滅する。
「ぐあああぁぁあぁあぁぁ!!」
「うあぁ、佐伯雨音・・・覚えていろ・・・・・・僕は死んでも
死なな・・・い・・・・・・」
「・・・所長・・・・・・」
これで、良かった、のよね。
「雨音ーっ!」
「佐伯君!!」
「皆来てくれたわね・・・く、ああああぁぁ!!」
「雨音さん!?」
「ふふ、因果律の、限界・・・・・・の様ね。私のナノクオーツが集中している
のは・・・脳神経・・・・・・助かる余地も無いわね・・・」
「佐伯、命だけなら助けられる。だから、そんな・・・
消極的になるな!」
「雨音さんはいつだってピンチを乗り越えて来たんですよ?
その位で、その位で・・・うぅ、雨音さん!!」
嬉しい。私の事で泣いてくれるなんて。
何て嬉しいの。
これで、私は満足したわ。
「大丈夫。佐伯雨音は生きるわ。ただ、私が私では
無くなってしまうだけ」
「雨音さん?」
「どんな私であっても、彼女を許してあげて。きっと私は帰って来るわ」
「雨音さん、一体何を言ってーーー」
「雨音、さん?」
「死んではいない。意識を失っただけだ。とにかく、救急車を!」
「雨音さんの言っていた事・・・”私が私で無くなる”」
「どう言う意味なの・・・・・・?」
-------------------------------------------------------------------
雨音が入院してから一週間が立った。
四楼の帰りに安堵したのも束の間、雨音の母は娘が昏睡状態にあると言う事に
不安を抱いていた。
しかし、響や晴斗の支えもあってか、雨音の病室へ訪れた。
「雨音、今まで会えなくてごめんね。お母さんに出来る事って、
何も無くて・・・本当に・・・ごめんなさい・・・・・・」
「良いのよ、ママは悪くないよ」
「雨音?」
ベッドの向こうには意識が戻った雨音が笑っていた。
時を同じくして響と晴斗が同病室を訪ねる。
響は左目に眼帯を付けながらも気丈に挨拶をする。
「雨音さん!雨音さん、会いたかった!もう大丈夫なの?」
「うん!もうへっちゃらだよ!!」
「佐伯・・その口調・・・・・・」
「まさか、雨音さんの言っていた事って・・・こう言う事・・・!?」
------------------------------------------------------------------
「これは、君のアナザーと同じ状態にあるなぁ。記憶は引き継いでいる
ものの、性格がガラっと変わっているよ」
緊急で呼ばれた主治医でもある鬼原が状況を解説する。
羅刹に関する理解、そして理化学ないし医学に精通していた
鬼原としては性に合った役割としている。
「そうですか・・・」
「佐伯君の脳神経を補填、侵食していたナノクオーツを失ってしまった
事が要因にある」
「そして、この状態を治す術は・・・無い」
鬼原が拳を固く握り締める。
「でも、鬼原さん。雨音さんの体は回復したし、退院許可は下りますよね?」
「ああ。だが、今の佐伯君の性格に関してはまだ考えなくてはいけないね。
それに君の目も直さなくてはね」
「ま、今はポジティブに考えた方が良い。彼女は帰って来る。
そう言ってくれたんだろう?」
「はい、ありがとうございます」
----------------------------------------------------------------
退院の手続きが済み、響達は帰る準備を整える。
「じゃあ家に帰りましょうか」
「うん・・・・・・」
「どうしたんですか雨音さん?」
「いつになったら私は帰って来るのかなぁ?」
「意外な質問ですね。やっぱり前の雨音さんを心配しているんですね」
「うん。私も、あの子の事を知ってるから・・・うっ!」
突然雨音が頭を抱え、苦悶の声を上げた。
「雨音さん!」
「うぅ・・・」
雨音の頭痛が治まると、急に冷静さを取り戻し、周りを見渡した。
「ふぅ、ただいま、皆」
「え?雨音さん・・なの?」
「今の状態は不安定みたいで一旦は意識が戻ったみたいね・・・ってうわっ!」
雨音が説明をしているにも関わらず響は彼女に抱き付いた。
「雨音さん・・・ああ、おかえり!」
「御免なさい響さん。これも脳神経のトラブルで起こったただの
偶然に過ぎないわ。きっとまたあの子に意識は移るわ」
「そんな、やっと会えたのに!」
「気にしないで頂戴響さん。きっと彼女にもたくさんの魅力があるわ。
あ、そうだ。最後にお願いがあるわ」
「何ですか?何でも言って下さい」
「彼女の為に赤いリボン買ってあげて頂戴」
響が首を傾げた。
「リボン?ですか」
「ええ。正直言うと私が欲しかったのだけれど、私のままじゃ
恥ずかしいのよ」
雨音がクスッ、と笑う。
「でも彼女ならきっと似合うわ。だからお願いね、響さん。
彼女を、もう一人の私を宜しくね」
雨音はそう言い残すと、ベットに倒れこんでしまった。
「雨音さん、雨音さん!」
「うーん、あ、響ちゃん!おはよー」
「雨音・・・さん」
「帰りましょうか!」
「うん!」
佐伯雨音。彼女の失った物と手に入れた物。
葉桜の映える頃。
一人の少女の戦いはここで一先ず幕を下ろす。
これからの未来は、いつか因果が導くだろうーーー。




