喪失
「さぁ、乗って!」
命からがら脱出して来た鬼原が駐車場にて雨音を背負ったままの響に言う。
「はい!」
響が雨音を乗せる。
「すぐ出すからシートベルト付けて、佐伯君にも!」
響が自分と雨音の分もシートベルトを装着する。
「それにしても晴斗がまだ来ません!」
はっとその事を思い出した響が車を降りようとしたが鬼原はそれを止める。
「駄目だ。彼は私達を行かせる為に命張ってまで止めたんだよ。その決意を
無駄にはさせない」
鬼原の何時に無く真剣な眼差しを見て響は押し黙る。
「・・・・・・」
彼女の表情を見て鬼原は自分なりの激励をする。
「だーいじょーぶだって!あのチート眼鏡君にはクリエイト
あるだろ?絶対無敵、元気爆発、熱血最強って奴だよ」
と言っていると、座席に腰掛けていた雨音が起きる。
「ん・・・こんな時にエルド●ンシリーズ網羅してる場合じゃないでしょう」
「雨音さん!」
やっと雨音が再起し響が喜ぶ。
「鬼原さん、今の状況を教えて頂戴」
雨音が現状若干冷静を保っている鬼原に状況を聞く。
「走りながらで良いかな!?」
雨音が頷く間も無く鬼原が車を急発進させる。
そのスピードを感じるて、雨音はスピードメーターとオイルメーター
から目を背けた。
「・・・・・・所長が狙っていたのは雨音さんです。
恐らく所長、いや山本は雨音さんを手中に収めたいんでしょうか」
響が気を取り直し言う。まずは嘆くよりも策を考える。
「・・・・・・それで、父さん、いや、変わり果ててしまった亡き骸から
私達を守る為に荻君が行ってしまった、と」
雨音が響の言葉に付け加える様に言う。
「ええ・・・・・・」
耐え切れず響の瞳から涙が零れる。
「御免なさい、響さん」
雨音はこの状況から晴斗が自分達を逃がしたのだろう、と察する。
「良いんだよ、今は泣かせてあげよう」
鬼原の言う通り、結局彼女は今ストレスを吐きだした方が良さそうだ。
「響さん、大丈夫よ」
「あまねざぁぁぁん!!」
雨音が彼女の頭を撫でると、その泣き声はさらに高まる。
晴斗と響は恐らく雨音よりも関係が深い。それなのに二人の間は分かたれた。
いくら晴斗がクリエイトを使用出来るとは言え、かなり絶望的な状態であることに
違いは無い。その現実から響を癒せるのは自分なのだろうと雨音は責任感・・・否、
ただの”優しさ”を以て響を優しく抱く。
「最早守ってんだか守られてんだかだね」
鬼原はその姿を見ながらひっそりと呟く。しかしこれが正解なのだと言う事は
彼女も理解している
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一方、晴斗は未だダゴンとの戦闘を継続していた。
晴斗が先程撃たれた傷が痛む。
「はぁ、はぁ・・・・・・流石佐伯の親父さん、因果律の力無くとも
十二分に強いな・・・」
すると、セヴェクにある書店にて悠々と読書をしていた所長、否・・・山本錫が
戻ってくる。
「片付いたかい四楼?おや、まだ生きていたのか、晴斗君」
山本錫が傷付いた晴斗を見て関心する。
「単純な格闘だけで俺に勝てると思うなよ・・・」
一方晴斗は山本錫を睨み付ける。
「しかしだね、僕のリヴァースは因果律も操作出来るさ。
こう、念じれば、って、四楼は”使える”因果律は持ってないんだった!」
山本錫があはは、と笑う。
その嘲笑に晴斗は怒りを露にする
「山本錫、お前は死人まで愚弄するか!」
「僕のリヴァースは操った人間のナノクオーツの操作。冥土の土産に
脳神経のナノクオーツまでは操れないと言う事を公開しておこう」
山本錫の説明に晴斗はふーん、と返す。
「つまり、アンタの因果律はナノクオーツの操作か!成程、
だから野望を成し遂げられると。お笑いだぜ!」
そう言うと晴斗は近くにあったエアガンを山本錫に向け発砲する。
そのBB弾は山本錫の右目に当たる。
「ふむ・・・・・・しょうがない。僕も参戦しなくては」
山本錫は一矢の報いも許さない。彼は晴斗を殺害するために躍起になる。
「ちげーよ、”お前も敗戦”だ」
「は?」
晴斗の突拍子も無い一言に山本錫が気の抜けた声を上げる。
「見てくれ。お手製プラスチック爆弾特大サイズ。攻撃の合間を縫って作っといた。
取り敢えず・・・な?地獄で会おうぜ!」
途端、晴斗が起爆させる。
雨音達が移動している中、セヴェクの方から大きな音が聞こえた。
「・・・・・・今爆発音が聞こえなかったかしら?」
雨音の問いに鬼原が答える。
「さぁねぇ」
「・・・・・・自爆特攻か。まるでテロリストだ。ただ、僕のリヴァースの効果で、
僕も不死身なんだよ」
爆発したセヴェクの施設内で、いち早く復活した山本錫が手を払う。
「あーあ、四楼も晴斗君もバッラバラじゃん。どんな威力してるんだよ。
まぁいっか!リヴァース!!」
例の様に爆発四散した彼らを蘇らせる。
「ヴ?ヴぁああああああ!」
「ヴヴヴぉ、ヴヴぉヴぉヴぁ」
二人が言葉にならない声を上げるのを聞くと山本錫はうんうんと頷く。
「ふう、じゃあ行こうか。四楼、晴斗君・・・・・・京都へ」
山本錫はそう言いながら不敵な笑いを浮かべる。
その頃、鬼原が車を走らせる中、雨音は何とも取れない”嫌な感じ”を汲み取った。
そう、これから地獄へ行く様な感覚。
いつか雨音も傀儡と化してしまう危惧。
これは、波乱の予感ーーー。




