遺産
「雨音さん!!」
「佐伯!!」
「佐伯君!!」
彼の突然の行動に隙を見せた雨音に向かって銃口が突き付けられ、
三人が雨音の名前を呼ぶ。
「チャージショットだ砕け散れぇーーー」
ヤマザキが右腕に力を込めたその時、彼は突然うめき、その場で
もがき始めた。
「あああ、苦し、息できなっああああああぁぁ」
ヤマザキが体をのけぞらせ、泡を拭きながら息の根が止まる。
「一体何が起きたんだ!?」
晴斗が雨音に問うが無論彼女がこの状況を理解している訳が無い。
「私にも分からないわよ・・・・・・それに今ので”酔い”が冷めたわね」
雨音が呟いていると、彼方からけたたましく靴音が聞こえて来た。
「・・・・・・因果律の限界」
「その、声はーーー」
不可解な言葉を呟き突如現れた人物は全員が見知った”彼”だった。
「所長!」
雨音達の声が重なる。それ程の驚愕と緊張が場に走った。
「まぁそう身構えないでよ、今日は君達を狙ってここへ来たダゴンの
回収が目的だ。リヴァースを使って色々聞きたい事があるんだ」
こちらに近付き、死んだヤマザキを小突きながら所長は言う。
「だから退いてくれ。雨音ちゃん、君のお父さん、助けたいだろ?」
彼は父さんを助ける、と言った言葉を使うが、正直その言葉を信用に置けない。
彼を取り巻く様々な事象、昨日からずっと続くその疑念。雨音は目まぐるしいこの
混沌とした心情を所長にぶつける。
「貴方、何が助ける・・・よ!父さんは、もう・・・」
雨音がその場で崩れ落ちる。それを見た所長は彼女へ優しく言葉を掛ける。
「僕のリヴァースなら、助けられるよ。お父さんを」
そう言えばと雨音が閃く。
雨音が死んだ時、彼・・・所長もいた。
もしかして、所長ならば本当に父親を助けられるのでは、と思うが、
彼がこの状況を生み出した仮ではあるが張本人でもある。
「助け、たい・・・けれども・・・」
「いい加減にしろ佐伯ッ!!」
その時、晴斗が、自分の心に惑う雨音に叫ぶ。その声に雨音ははっとする。
「仮にもそいつはお前の親父さんを殺す様仕向けたんだぞ!忘れたのか!?」
晴斗の突然な反応に所長も少し困惑の表情を見せる。
「ん?晴斗君、どうしたんだい?」
所長の言葉に対して晴斗は彼を指差し、言い放つ。
「アンタは人を殺してでも自分の目的、いや、”野望”を
推し進める人間だろうが!俺はアンタに言い包められねぇよ!」
「心外だなぁ・・・」
所長は晴斗の辛辣な言葉を受けてもなお笑顔で呟く。
しかし良い分は晴斗の方が正しい。
所長が以前出会った男達に因果律を付与出来た理由が
彼の因果律にあるとすれば辻褄も合う。
「それと・・・さっきアンタが言った”因果律の限界”とは何だ!」
晴斗が所長に詰め寄り、問う。
「立場上君達と僕は敵同士だよ?簡単に話聞いちゃっていいのかい?」
所長はそう言うが、晴斗にはそれでも口を割らせるクリエイトがある。
晴斗自身もその様にする。
「そんなの、クリエイトで強引に開かせれば・・・ん?」
晴斗は言葉を言いかけた所で止め、既に息が絶え目も当てられない姿となったダゴンに詰め寄った。
「どうした?まさか四楼がまだ、生きている・・・のか?」
所長がダゴンを見てふと何かを思い出す。
「ーーーしまった!?」
突如、所長が血相を変えて晴斗、ダゴンの元へ走り出した。
そして懐から隠し持っていた拳銃を取り出す。
しかしその抵抗も甲斐は無かった。
「へっへっへ、聞いちまったぜ所長さんよ、因果律と、アンタの野望の事をよ!」
晴斗が不敵な笑いを浮かべ、所長を指差す。
「くっ!」
躊躇い無く所長は晴斗に向かって発砲する。しかし、それを見据えていた晴斗は
軽々しくかわす。こうも軽々しく回避できたのは未然に避けたのもあったが、
所長の手が震えていたと言う事もある。
「因果律は、使用する毎に代償を求める!それは心ないし命!」
晴斗が躊躇い無く言い放つ。
「今は言う時では無い!」
所長の制止を聞かず、晴斗は因果律の事について看破していく。
「何故なら脳神経及び心臓部に因果律のエネルギーである”ナノクオーツ”が
あるからだ!」
ナノクオーツ。晴斗が何故か解明していく事実に所長が発狂する。
「うるさい!」
所長の声は依然として晴斗に届かない。
「ナノクオーツは体内への侵入でのみ蓄積される!」
所長は発砲し続けたが、その弾道は大きく外れ、晴斗には当たらず、
弾丸も残り少ない。
「そして羅刹の共通点は自分または血縁者が京都府神下町に行っていた事ーーー」
その時、看破し続けていた晴斗の左肩に銃弾が当たった。
「ぐ、ああああああああああああ!!」
「荻君!」
晴斗の叫びに雨音は彼を呼ぶ。その声で晴斗が意識を取り戻す。
「うぁぁ、く、まだだ・・・。山本錫、お前の目的は神下町にあるだろう
ナノクオーツの散布!そして・・・不特定多数の人間を羅刹にし
殺し合わせる事!!」
晴斗がそこまで言い終わるとその場にうずくまる。
「・・・・・・ご明察。そこまで当てられるのはこちらとて予定外だ・・・。
みんなここで死んで貰おうかな」
他の客は全員逃げているのが不幸中の幸いだった。だが、この場に残る全員の命の危機は
未だ回避出来ていない。
「まずは晴斗君、お傷が過ぎた君からだ!」
そう言い放った所長は拳銃の代わりの弾丸をリロードし、満面の笑みでダゴンに近づく。
所長を注視していた雨音達は思わずダゴンを守る事が手に負えていなかった。
「君達には冥土の土産にリヴァースの真の力を見せてあげよう」
所長がダゴンの亡骸に触れる。すると、彼の体を光が包み込み、
おもむろに立ち上がる。
「生き返った・・・・・・!?」
響がその奇跡とも形容できる光景に驚愕する。
「あれがリヴァースの能力、対象の蘇生」
あの因果律を知っている雨音が説明すると、所長がさらに言葉を付け加える。
「そして、この四楼の骸を僕は、自在に操れる!」
そう言うと所長はダゴンの体を自在に操ってみせた。
「そんな!リヴァースで蘇らせた人を使役出来ると言うのか!?」
鬼原がその真実に驚愕する。
それと同じく雨音達も少なからず驚きを見せる。
「蓮ちゃん大正解!」
「と言う事は、まさか私も・・・・・・使役出来るって言うの!?」
雨音が所長に問う。
雨音も元はと言えば彼のリヴァースによって蘇生した人間。
恐らく今まで現れた羅刹も同じくリヴァースで蘇生され、ないしは操られていた。
「だが今は雨音ちゃんを操作出来ない。ただ、因果律は進化出来る。いつかは操ってみせるさ。
ふふ、ふはははは、っははっははははっはは!!」
所長が高笑いしながら踊り出す。
「さぁ四楼、まずはあの忌々しい眼鏡を葬り去るんだ!」
所長が体を大きく曲げ、晴斗を倒す様に命じる。
「ヴ、ヴヴ、ヴヴぉおヴぉヴぉおお」
変わり果てたダゴンに、かつての面影は無かった。その姿を見た時、
私は意識を失ってしまった。
「僕はやるべき事をやらなくちゃ、だ。後は頼んだ四楼」
所長が彼の肩を叩く。
「ヴん、ヴヴヴぁあ!」
「狙いは”今のところ”俺だ!響、佐伯を連れて逃げろ!」
この状況に晴斗は三人に脱出を命じる。
「でも、あなたはっ!?」
響が彼に問う。すると晴斗はぐっ、とサムズアップをする。
「俺にゃ”想像力”がある。また会えるから、とっととズラかれ!
決して佐伯を死なせるな!お前が、響が佐伯を守るんだ!!」
晴斗がそう叫んだ。
「・・・護ります、絶対に。だから、眼鏡も・・・晴斗も生きるんですよ!」
響は涙を拭いながら雨音、鬼原と共に脱出する。
「・・・・・・行っちまったか。ふふ、短い間だったがありがとうなお前ら」
「俺も、立ち向かえそうだ」
晴斗が迫るダゴンを迎え撃つ。
「行くぜ、妄想!!」




