痛みを知る事
響が雨音の中学校に転校して来てからもう四日目となる金曜日だ。
彼女も学校の生活、それに雨音の家での居候にも慣れてきた。
響用の制服も昨日やっと届き、彼女はそれを着てはしゃいでいる。
しかし、今日、金曜日は雨音にとってあまり良い日では無い。
「どうしたんですか雨音さん?」
響は朝食をあまり手に付けていない雨音を見て、声を掛ける。
「そ、そうね・・・今日は少し悪い事が、あるのよ」
「あったんじゃなくて、ある?」
雨音の言動が解せない響は首を傾げた。
何があるのか、と彼女はそれに続き問う。それに対する雨音の答えは
安直なものであった。
「家庭科の授業があるのよ・・・・・・」
雨音が顔面を青くして言う。
「裁縫では針を指に刺すし、調理は包丁で手を切ったり料理の順序、
具材を間違えるし・・・」
雨音が答えると響は呆気に取られた表情をしていた。
「雨音さん、不器用だったんですね・・・」
「ええ。それでも学校は行くわ!給食が美味しいもの!」
雨音は立ち上がり、叫ぶ。家庭科の授業は4時限目。それを終えた先にある
希望を語る。
「行く理由そこなんですか!?」
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何とか朝の倦怠感を気合いで押し切り、学校で授業を受ける。
国語、数学、体育と授業が続く。
響は勉強が苦手な様で数学にてどこか遠くを見ていた。
しかし、3時限目の体育で本領を発揮する。
彼女の類まれない運動能力で今日の陸上測定では区の記録を
上回る結果を残した。けれどもそこで体力を使い果たしてはいけない。
「ねぇ雨音さん!何で体育の後に家庭科があって、校庭から移動、
着替え、家庭科室へ移動、なんて労力を使わなくちゃいけないんですか!?」
響が息を切らせながら問う。
雨音も彼女と共に家庭科室へ走る。
「知らないわよ!全くこの学校の先生達が何を考えているか
分かったものじゃ無いわよ!」
雨音達は体育の後片付けをしていたお陰で完全に授業に遅れる。
これだから金曜日はあまり好きじゃ無い、と雨音が嘆く。
「先生、遅れーーー」
雨音が”遅れました”と言い切る前に彼女達の眼前に衝撃が走った。
先生も含め、家庭科室にいた生徒全員が手足を縄で縛られ、口をガムテープで
塞がれていた。
そして、そこにはもう一人、これらの行動を起こした張本人であろう男が
立っていた。
「貴方、一体何の目的!?」
「殺す、ただそれだけだ。人質が惜しかったら早く教師を呼んで来い。
出て来た奴らから始末してやる」
雨音の問いに対して男はそう答える。こいつは倒さなくてはいけない。
二人はそう確信する。が・・・。
ここからではレインは撃てない。アンブレラで防御出来るのも二人。
レインの攻撃範囲も未知数。下手をしたら周りの人達に被害が及ぶ。
そう考えを巡らせていると、雨音と響は突如手足が縛られ、口がガムテープによって塞がれる。
「俺が”あの男”が貰った因果律”チェーン”。瞬時にてめぇら雑魚共を
縛り付けるのさ。さっさと呼ばねぇからお前らまで縛っちまった。
誰がセン公呼ぶんだよ?」
この男が羅刹である事を雨音は理解したが、”あの男”とは誰なのか、
さっさと倒して聞き出さなければいけないが・・・。
この縄を解く方法をまずは考える。
響は何かを思いつき、力む。すると、途端にその体はアナザーの物となり、
縄を引きちぎろうとする。現在彼女は鉱物等の持ち合わせが無い為、
その様な手段を取るしか無かった。
「おっとそこのガキ、引きちぎろうとしたって無駄だぜ。この”チェーン”は
俺かお前らが力を無効化しない限り解けないんだぜ?」
力を無効化・・・こちらからも無効化出来る・・・。
一つ、雨音は賭けに出てみる。
雨音が”アンブレラ”と念じると、縄、そしてテープが消滅した。
「何!?お前羅刹か!?」
男が動揺を見せる。それと同時に生徒達も驚く。
しかし、雨音は動じずに行動を続ける。まずはもう一度アンブレラを使い、
アナザーを解放する。
「あの男、許さない!」
「待ってアナザー。私は彼女たちを解放するから貴方はアイツを食い止めておいて。
聞きたい事があるの」
男に今すぐ制裁を下そうとせんばかりのアナザーを雨音はたしなめ、
雨音はみんなを解放する。
その縄を解くと、途端に逃げ出す人もいれば、恐怖で体が動けない人もいた。
そして最後の一人の、雨音に嫌悪感を抱いていた女子を解放する。
「あなた、羅刹だったの・・・?」
冷や汗を垂らしながらも彼女は冷静に問う。それに対して雨音は不意にも
皮肉を言う。
「怖いかしら?」
しかし、彼女は悪口を言うでもなく、こう言った。
「・・・あなたの方が怖い思いをしてきたんでしょう。その・・・悪かったわね」
彼女は雨音から視線を反らしながらも謝罪を述べる。
「おいそこのガキ共、調子乗ってんじゃねーぞ!!」
男が叫ぶと、懐からサバイバルナイフを取り出し、
アナザーを押しのけ私へ刃を突き刺す。
様に見えたけれど実際はアンブレラによってその刃は私を刺せない。
「な・・・」
「アナザー、それと貴方!さっさと逃げて頂戴!!」
アナザーと女生徒に退避を促し、教室を雨音と男のみにする。そして、
因果律を放つ。
「男と私にアンブレラを付与、男に攻撃を集中、因果律・・・レイン!」
そう叫ぶと長さ1メートル程の大量の槍が教室を破壊しながら男を穿つ。
アンブレラによって被害は免れるが、その攻撃による心的ダメージは大きい。
男がその場で恐怖しうずくまる。そこへ雨音と戻って来た響が
迫る。
「それで、さっき貴方が言った”あの男”とは一体誰なの?」
雨音が問うと、意外な名前が出た。
「あいつぁ、山本錫と名乗ったか。何でも今日のこの場所なら人殺しが
しやすいつってさぁ、ここへ侵入する手筈も整え・・・」
男がそこまで言うと、急に体の自由が利かなくなり、調理室にあった
包丁で自らの心臓を刺し貫いた。
「そんな・・・一体全体何が起こったんですか!?」
響が驚愕する。しかし、それよりも・・・。
山本錫。研究所の所長の名が出た事が雨音には衝撃だった。
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一方、雨音らの中学校の屋上から中庭を通して家庭科室を監視する
人影があった。
「研究所による羅刹のお片付けが始まったか。僕もこんな屋上で覗かずに
そろそろ行かなきゃか」
その人影は屋上から移動する。
「にしても雨音ちゃんはすごいなぁ。興味深いねぇ。あの死体を見ても動じないし。
さてと、そろそろ本格的に動くとするかな。”計画”の為に」




