登校
世は月曜日を迎え、憂鬱になりながらも、人々は職場や学校へ歩を進める。
昨日の件から雨音はそんな億劫な日であろうと上機嫌であった。
理由は簡単。響がいるから。
「雨音、今日は機嫌が良いわね」
雨音の母がそう呟くと朝食を食べていた響が雨音の事について問う。
「いつもはあまり機嫌良くないんですか?」
「ええ。雨音は勉強好きだから毎日学校へ通うんだけど、
友達付き合いが全然無くて・・・」
雨音の母が頬杖を付きながら言う。
「・・・・・・行ってきます」
雨音は飛び出す様に家を出た。友達と言う存在が全くいなかった事は自分に周りに
いた同級生が馬鹿だったから、と雨音は思うがやるせなく思う。
友達が作れないでいたのも、自分のせいだと思っていたからだ。
「また佐伯がパトカー乗ってるー!」
「犯罪者!犯罪者!」
「ちぇっ、折角告白したんだから何とか言えよ、お高く止まりやがって」
今まで言われた言葉が彼女の脳裏に浮かぶ。
雨音は俯きながら呟く。
「傷付きたくない、嫌われたくない・・・。」
「まったくもー、どっかの西野さんみたいな事言ってないで、しゃきっとして下さい!」
雨音に掛けられる声、その声の主は響だった。彼女は雨音に忘れ物の教科書を届けた。
「ありがとう・・・」
「そんな狐につままれた様な顔しないで下さい。私達も出掛ける時間は
同じですから、焦って家を出なくて大丈夫ですよ」
彼女の笑顔に雨音は安心し、笑顔を返す。
「・・・響さん、どうして貴方はそんなに私に優しくしてくれるの?」
雨音の問いに響は少し考えてから、言葉を選び出す。
「一目惚れしたから・・・?」
響は自ら口にしつつも照れ、首を傾げる。
その言葉に雨音も赤面する。
「私自身も良く分からないんですけど、雨音さんをほっとけなくて」
響は話を続ける。
「大の大人を懲らしめる位強い雨音さんなんですけど、ちょっと弱くて、
運に見込まれない所もあって」
確かに雨音は不運ではあるが、彼女の心に刺さる物もあった。
「まぁ、ほっとけなかったんです。それに、私も友達がいなかったから・・・」
響の口から放たれた言葉には、優しさと、愛しさ、そして哀しみも混在した
心境があった。
「あれ、もう学校の前ですか。では、また後で落ち合いましょう。
ゴーフォーイット!」
そう言って響は手を振りながら同行していた雨音の母と共に会議室へ向かった。
一方雨音は彼女らと別れて教室へ向かう。
「・・・おはよう」
教室の扉を開け、取り敢えず挨拶をする。しかし、その挨拶が帰って来る事は無い。
雨音をいじめていたのはとうの昔、今となっては誰一人とて彼女に話掛ける事も無い。
この孤独な空間では私は一昔前のライトノベルを見るとか勉強位しか
やる事は残されていない。
この無為な時間・・・ぼうっとしている内に日は暮れているのだろう。
今日も時間を無駄に過ごす。
こうやっている間にも横暴な羅刹は暴れているのだろうか。
鬼原が言った通り所長は裏切り者なのか。
雨音の中で様々な考えが交錯する。
この焦燥感、落ちつきの無い時間は雨音は好きになれない。
給食だって一人、誰と会話する事も無い。
昼休みには男子の馬鹿と形容すべき行動を背に読書をするだけ。
そこの女子達もたまに雨音の陰口を叩く。
どこから耳に入ったかおとといの件の話が聞こえる。
「・・・良いじゃない別に。人の事なんて」
雨音がひっそり呟く。その言葉に耳を傾けてくれる人などいない。
そうやって過ぎる時間の流れ。雨音はいつもの如く俯きながら帰る・・・。
筈であったが、今日”から”は違う。
「あーまねさん!」
後ろから響の声がする。
「明日から学校に正式に入学する事になりました。それでクラスは雨音さんのクラスで、
席は雨音さんの左隣、と」
一体何処から何処まで”仕組んだ”のかは不明だが、明日からは
響が一緒にいる。そう考えると雨音はなんだか気持ちが晴れた気がする。
「ありがとう・・・」
雨音はどこへぶつけているのか分からない感謝を述べる。
が、それはきっと自分を思ってくれた人々へ感謝なのだろう。




