ドライブ
「ねぇ、鬼原さん、一つ聞いて良いかしら?」
雨音は車の運転中に質問と言うのも野暮だと思ったが、どうしても聞きたい事があった。
「どうしたんだい?」
鬼原が聞くと雨音は真剣な面持ちで話し始めた。
「セフィロトが研究所を襲撃した理由を教えて頂戴」
ーーー雨音が見たアーカイブ、そこに記されていたセフィロトによる襲撃
の事の資料。だが、そこには肝心な"襲撃した動機"が明記されていなかった。
「・・・・・・長谷川君、アナザーの因果律で盗聴探知機を作れるかい?」
鬼原は運転しながら突拍子も無い注文をするが響はそれを快諾する。
「多分行けると思いますけど・・・・・・アナザー!」
響が手を固く組み、目を瞑る。そして、目を開くと彼女は
”アナザー”となっていた。
「任務を遂行する。鍛冶」
アナザーがそう唱える事によって、持っていた携帯電話は
変形し、盗聴探知機となる。
「・・・・・・無いみたいだ。話す事があるなら早くしろ」
盗聴器が無い事を確認するとアナザーはそこに突っ伏しつつ言う。
「ありがとう。・・・と言うのも現在私が信用に足らない人物が
いるからだ」
鬼原の言葉に雨音は驚きながらも冷静に質問する。
「それってセフィロトに内通している裏切り者がいる、と言う事かしら?」
雨音の質問に対して、鬼原は首を横に振った。
「その質問は間違いだ。本当の事を言うと、セフィロトは味方だ」
その言葉に思わず雨音は動揺した。このタイミングで開かされた真実には
耳を疑わざるを得なかったが、この話は本当である様だ。
「呆気に取られているね。車のミラーから見てもすぐ分かる。
まぁとにかく落ち着いて聞いてくれ」
鬼原は少し笑いながら言った。その表情に黙っていた晴斗も怪訝そうな顔を見せる。
「・・・・・・私は”所長”がこの研究所を利用して何かを企てている
可能性があると思っている」
”まさか所長が?”
雨音のその言葉に対する疑念を具現する様に荻君が口を開いた。
「その証拠はあるのか?」
その問いに鬼原は普段の諸行からは想像出来ない程に淡々と話す。
「証拠、と語るに足る材料では無いだろうが、佐伯君の知りたがっていた
研究所を襲った動機は・・・・・・」
鬼原は一泊置いて言葉を続ける。
「正しい心を持った羅刹の奪還、そして所長の殺害」
そこにいた一同は皆眉をしかめる。
「・・・・・・と、セフィロトの長、曇天は語っていた」
鬼原が語った言葉に対し雨音は質問を投げ掛ける。
「正しい心を持った、羅刹?」
「恐らく、所長に利用されていた研究員の事だろうか。その様に捕らえると
君のお父さんは奪還された正義の羅刹、と言う事になるだろう」
鬼原の言葉からすれば、雨音の父親が正義の羅刹と呼ばれる存在に当たる。
「正義の、羅刹」
そう復唱する雨音は考える。自らの父親も羅刹だったのか、と・・・。
「ふぁぁ・・・・・・皆さんおはようございますって、
携帯が変形してるー!?アナザーめ!」
重い雰囲気を割る様に響が目覚める。そして自分が手にしていた
盗聴探知機が携帯へ変形しているのを見て憤慨する。
「響テメェこのタイミングで起きるとは・・・・・・」
晴斗が頭を抱える。
「え?今までの会話はアナザーも聞いてませんよ寝てたし。
私の悪口でも言ってたんですか?」
彼女の口ぶりに晴斗はさらに溜め息を吐く。
「響さん、貴方は研究所の実態に関して何か知っている事は無い?」
雨音が問うがその答えも間抜けていた。
「いや全然知りません」
「そう・・・あ!」
会話をしていると、窓の外に過ぎ去ったのは雨音の家だった。
「鬼原さん、過ぎてるわ!何で自動運転にしていないの!?」
雨音が焦るが、鬼原は冷静に答える。
「ごめんっ」
その瞬間、鬼原は車を大きくドリフトさせ、車線から外れる。
当然車内の雨音達は大きく揺さぶられる。
そして急にアクセルを踏む。
彼女の卓越したテクニックによって衝突事故などは起きなかったものの、
車内では重大事故が勃発していた。
「ふぅ、佐伯君の家着いたよ?ありゃりゃ・・・・・・中ぐちゃぐちゃ」
一人無事な鬼原に彼女以外の全員が睨みつける。




