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因果律のレイン  作者: テンペスティア
Rain of Causality Law
1/76

私は佐伯 雨音(さえき あまね)

あの日、私は"因果律"に目覚めたーーー。

 その日、佐伯雨音は”不審者”から逃げていた。

 買い物の帰りだったが既に辺りは暗くなり始め、人通りの少ない場所へ追いつめらていた。


 「はぁ、はぁ」


 どの位走ったのか。

 知らない道の行き止まり。

 男は目を血走らせ、雨音を凝視する。そして雨音が疲れ果てて

 立ち止ったのを見計らって彼女の腕を掴んだ。


 「やっと捕まえたぞ!!」


 「貴方、何のつもり・・・・・・!?」


 道の外れに追い詰められ、雨音は成す術も無くただ男を睨みつける。


 「生意気なガキだなァ、決まってんだろ!お前の体を頂くんだよ!」


 「・・・っ!」


 男の穢れた眼差しに雨音は怖気立つ。


 「そのスベスベな肌、ムチっとした太もも、整ったボディライン。

  グファ、おいしそうだなァ!」


 男は額の脂汗を手で拭きながら涎を垂らし口にする。

 主観的な情報で言えば気持ち悪い。これ程までに気持ちの悪い人間は”雨音とて”

 初めてだ。どうしようもこの無い状況。彼女はまるで走馬灯の様に過去を振り返った。



 昔から雨音は他人、否、男性から欲情であろう視線を向けられてきた。

 それは彼女の容姿もそうだったのだろうが、何よりも彼女が”一人でいる頃合いにあった”。

 と言う事に起因していると思う。父親は仕事の為一年前から会えず、母親も

 雨音を大事に育てているがどうしても彼女を一人にしなくてはいけない時がある。

 それを含め彼女には自制しづらい程の好奇心と他者にすぐ心を許す節がある。

 そんな事をして生きてきた14年間では不審者に目を付けられる、なんて事は

 日常茶飯事だった。


 されど、今、この状況程には追い詰められなかった。

 警察の協力や周辺の大人の警戒があったからなのだが、

 この不審者はその警戒の隙を付いてきた。


 「大人の目を掻い潜るのって大変なんだぜ?俺の苦労をねぎらってくれよ。

  その体で!グファ・・・」


 男は不気味な笑いと唸りを上げる。しかし雨音も負けじと反論する。


 「ノーサンキューよ。貴方の様なストーカーの言う通りにはさせないわよ」


 雨音が脱出する糸口を閃き、その場から立ち去ろうとした。だが、

 男はすかさず雨音に重い一撃を与える。


 「クソ、一々うぜえガキだな!オラァ!」


 「ああっ!」



 脇腹に鈍い痛みが走った。彼女に言う事を聞かせる為か不審者は蹴りを入れる。

 しかし、この一帯自体それ程人が多い訳でも無く、大きな声を上げたとて

 助けの手は伸びない。


 「うぅぅ・・・・・・」


 「痛いか?こんな目にまた合いたくなきゃ俺の言う様にしろよなァ?」


 男は雨音の首を掴んで言った。が、雨音はそれでも否定を続ける。


 「・・・だから、嫌よ!」


 「クソガキッ!」


 逆上した男のさらなる暴力を食らう。


 「あぁぁっ!!」


 更に激しい蹴りが雨音の右肩に当たる。

 この激痛に彼女の意識も途切れかけていた。


 「やっと言う事聞く気になったか?聞くんだったら手当てしてやるよ」


 男が背負っていたリュックサックから救急箱を取り出す。


 その言葉に雨音の心が揺らぐ。しかし、それよりもこんな人間の言いなり

 になる事の方が許せなかった。

 正義感とかそう言う観念では無く、単純に屈辱だったから。

 だが、非力であった雨音には叫ぶ事しか出来ない。


 雨音は最後の力を振り絞って叫んだ。


 「い、嫌ぁぁぁ!!」


 その声は誰かに届いただろうか。それを確認する事も無くその命は絶たれた。


 「クソガキが!死んじまえェ!」


 逆上した不審者による前頭部への重い一撃。



 「あ、あれ?マジで殺しちまったか?やべェよ!」


 途端焦り出した男の前に、目撃者と思わしき男性が近寄る。


 「ねえ、君そこで何やっているの?」


 「バレたか!テメェ、通報したらぶち殺すぞ!」


 男性の言葉に男はたじろぎ、懐からナイフを取り出した。


 「殺される筋合いは無いよ。リヴァース」


 男性は雨音に向かって手をかざす。すると、雨音が蘇生した。


 「う・・・ん、私、生きてる・・・!?」


 雨音が意識を取り戻すと、そこには若い男性がこちらを見てはにかんだ。


 「い、生き返った!お前、まさか"羅刹"ゥ!?」


 羅刹・・・彼の様に日本人の中で稀に覚醒する異能力”因果律”を持つ

 稀少な人間を”研究所”はそう呼称している。


 「ご名答。怪我したくなかったらさっさと消えた方が身の為だよ」


 男性ははにかんだまま男に詰め寄るが、男は恐ろしくなって逃げて行った。


 「ひやァァァ!」


 が、その近くにいた警官に取り押さえられた。話を聞くと彼はこの周囲で有名な性犯罪者

 だった様だ。


 「大丈夫かい?お嬢ちゃん」


 雨音を救ってくれた”通りすがりの羅刹”が声を掛ける。


 「ええ。傷も治ってるわ。ありがとう」


 雨音が感謝する。それに習って彼も返答する。


 「どういたしまして」


 「ところで、"羅刹"なのよね?貴方」


 雨音が彼に問う


 「そうだけど、どうしたんだい?」


 そしてついでと言わんばかりに雨音は彼に一つ、質問をする。


 「"因果律"について、教えて頂戴」


 真剣な眼差しで男性を見る雨音に彼は答える。


 「因果律研究所に行けばアーカイブで資料が見られる筈だけど・・・」


 「本物の羅刹から聞きたい事があるの」


 雨音の叫びに男性は少し驚いたが、態勢を整え何かと問う。


 「因果律は、私にも使えるかしら?」


 「うん、君には素質がある・・・と思うよ!うん!」


 その答えはやや適当であったが雨音はその言葉を信じて疑わなかった。


 「分かったわ、ありがとう」


 雨音が感謝する。

 すると男性は雨音を起き上らせると手でこまねく。


 「送っていくよ」


 彼の言葉で二人は歩いていく。


 因果律、それは10年前に発見されたいわゆる"異能力"ーー。

 多種多様な能力なのだけれど現在確認されている因果律の大抵は

 物理法則に逆らっている。

 その因果律を操る人間を"羅刹"と呼び、因果律の研究と

 管理を行う研究所が羅刹の現れた東京の御徒町に配置され、

 その異能力は公の存在となった。


 「ーーー家の場所、分かる?」


 男性が雨音に問うが、道も分からず走って来た雨音はこの場所を良く知らない。


 「え、ああ、そういえばこの近辺は土地勘無いわ・・・・・・」


 彼女の言葉に男性は頷き次の策を試みる。


 「そっか、じゃあ住所教えて」


 「その言い口で前にストーカーが現れたのよ」


 その場に少しの静寂が訪れた。


 「そ、そう。じゃあ、何丁目かだけ教えて」


 彼は少し苦笑いして聞き直す。


 「・・・3丁目よ」


 彼はその雨音の言葉を聞いて何か思い立った様に手鎚を打った。


 「オッケー、分かったよ。こっち」


 彼の言う通りに進むと、あっと言う間に彼女の家の近所にいた。


 「知ってる所に出られたわね」


 雨音が周りを見渡し言う。


 「ありがとう。せめて、名前だけでもーーー」


 そこには、もう彼の姿は無かった。

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