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4 Boosted Element

VR技術を駆使したゲームとして注目を集めたいくつかのゲームの中の一つに【Boosted Element】があった。他のゲームよりもOBTを幾度か長く繰り返し、正式リリースは最も遅くなった。多岐に渡る項目と煩雑さで好みを選ぶが、やりこむプレイヤーが続出しているらしい。初心者からは「ごった煮」、「混ぜすぎ」などと揶揄(やゆ)され、ゲームに慣れた層からは「かゆいところに手が届かない」、などと言われているそうだ。その「かゆいところに手が届かない」もどかしさがやりこむ原因になっているそうで、もうちょっと、あと少しで、という具合に続けるプレイヤーが多いらしい。別段「かゆいところに手が届かない」と言われているが、機能が不足しているわけではなく、充分に機能はあるのだが、満足できるにはすこし足りない。この少し足りないという部分がプレイヤーを刺激しているようで、商売上手などと言えてしまう。

そのゲームを始めるにあたって、作成したキャラクターの名前を【グラム】と名付けた。


グラムがそのゲームを知ったのは、ある動画に挿入されたCMだった。そのCMは短時間だけの放映だった。始めに黒を基調とした暗めの画面が映し出され、すぐに文章が浮かび上がった。


「その日、あなたは血の華を咲かせました」


その文章はすぐに消え、代わりにサイトアドレスが表示されるだけのCM。たまたまだ。たまたま、暇を持て余してしまっていたグラムは、普段ならそのままで済ませてしまう、CMに書かれていたアドレスを辿り、サイトを訪れた。その日、【Boosted Element】というゲームを知ることになった。


【Boosted Element】の基礎部分はVR技術を基に作られているらしい。政府主導で行われた技術促進のための援助制度によって得られた技術を政府が一般公開し、得られたデータを利用して構築したものだそうだ。そのままゲームに利用する場合もあるそうだが【Boosted Element】の制作スタッフは別の方法を採用した。基のままで利用する場合、RPGなどのゲームではその描写が激しすぎるため、リアルすぎるという問題が存在した。そのため、現実感を薄める、という表現が正しいかどうかは知らないが、追加要素を取り入れた。


俗にいう「魔法」と呼ばれる要素だ。空間に満ちる要素として【マナ】が追加され、そのマナを変換してエレメントを生成する。キャラクターはフィジカルな部分とエレメントな部分を持ち、つまりは二つの世界が重なっている場所に存在していることになる。フィジカルスキルを使って競い、そこにエレメントスキルでブーストをかける、というのがこのゲームの売りであり、その特徴から【Boosted Element】と名付けられたそうだ。


このゲームの最大の特徴は、「ごった煮」などと揶揄される部分にある。剣と魔法と銃とロボットの世界。いくらなんでも混ぜすぎだ、という評価が多いらしい。それが趣味に合わないプレイヤーはこのゲームをやらないようになるのだろうが、それでも多くのプレイヤーはこのゲームを続けている。銃に関してはこのゲーム内ではそれほどの優位性を保てていないらしい。


理由は簡単。「魔法があるから」であり、ブーストされた肉体は高速で移動するため狙いがつけにくく、また、【スニーク】などのスキルにより物理的な遮蔽物がなくとも隠れることができるため、それほど有効ではない。だが勿論、魔法で隠れることができるなら魔法で見つけることもできる。有効ではないにしても、貴重な遠距離武器には違いない。そして、銃は銃でも実弾を発射するタイプはほぼ存在せず、主には魔法を発射する。よほどのことがない限りは【マジック・レイ】、いわゆるレーザーを発射するのが一番効果的だと言われている。射出と着弾にほぼタイムラグがないことが一番の理由であり、狙撃に適している。物理法則に従わない為、初心者でも照準さえ合わせることができれば命中させることができるという利点もある。その反面、対策はでき、【マナフィールド】によって弾かれる。エネルギー同士の相殺により減衰した後にダメージを与えることができるが、マナフィールドを貫通できないとダメージを与えられない。


そこで剣の出番となる。近接兵器はマナフィールドの影響を受けない。直接相手に物理的な物質を叩き込み、直接ダメージを与えると共に、マナフィールドの内側に達した部分から魔法を叩き込むことで大きなダメージを与える、というのが基本的な戦法となるため、最終的に銃の比重は少なくなる傾向にある。もちろん、極普通に魔法を使う者もいる。


銃とはこのゲームにおいては、速射性に補正をかけた魔法具であり、その特性がゆえに取り扱いが便利な反面、マナフィールドに対して不利になっている。ならば、威力を重点において作られた魔法具は、となると【杖】になる。杖を用いて増幅した魔法によって、相手をマナフィールドごと叩き潰す、というのがこの場合の戦法になる。杖の場合は、細部の調整ができ、込める魔力量や範囲を調整して局面に対処することができる。だがその利点があるために特化型と言える銃よりは速度が遅い。


つまりは剣と魔法と銃とで弱い関係ながら三すくみを形成することになる。銃では有効なダメージを与えにくいために接近する手段を有した近接兵器が有利となり、その近接兵器を有する者はそのフィールドごと魔法にさらされる。魔法を使うものは、その攻撃の頻度において銃相手に苦戦する、というのがこのゲームの常識になっていた。そのため、大抵のプレイヤーは二種類を扱う事で欠点を補っている。


こういった特徴もあり、OBTの時には「レーザーがうてる」などのPVを放映していたらしいが、徐々に話題になってきたある言葉が有名になるにつれ、CMではそのキーワードがよく使用されることになった。


「その日、あなたは血の華を咲かせました」


このゲームにおいて、HPが0になる、つまりは行動不能になり倒された場合に表示されるメッセージ。画面が暗くなってから表示されるその文章に多数のプレイヤーが思い入れを持つ。そのため、その言葉がよく会話に登場し、ゲームの通称も「チノハナ」になるまでの話題性を持った。


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