3 アキとグラム
そんな出会いだった。テーブルを挟んで座る目の前の女性はアキというらしい。さきほど聞いたのだがアキの話によるとここ数日PKを行うプレイヤーが頻繁に現れ、しかも初心者を装い油断している相手、主には初心者だが稀に中級冒険者も被害にあっているとの事だ。
どのような手口かと言うと、使い捨ての特化型キャラクターを使い、話しかけるなどして相手を油断させた後に背後からばっさりと、だそうだ。PKが不可能な初級フィールドを避け、ようやく初級フィールドから先に進んだプレイヤーを獲物に選ぶ。まだ充分育成もできていないプレイヤーをただPKのためだけに作成した特化型キャラクターでPKして「ざまぁ」などと一言残して去る、それを楽しむらしい。
グラムは思う。
(丁度不味いタイミング、不味い場所で練習したようだ)
PK可能領域でそう受け取られかねない行動を取ってしまったのだから、こちらも悪い、とは思うが納得のいかない部分もある。
そう思っている所に声が掛けられる。
「で、許してもらえないでしょうかー・・・」
と弱々しい声でアキが呟く。アキはまだ両肘をテーブルに付き、手のひらを合わせて顔を下に向けている状態でありなぜか目を合わせてくれない。あれだろうか、現実だと冷や汗をだらだらとかいているような状況なのだろうか、などという発想がグラムの頭によぎる。
「えーと・・・。こちらも間違われやすい行動をしたと思っているので気にしなくていいですよ。どういうゲームなのかわかりましたから」
その言葉を聞いてようやくアキは顔を上げてくれた。青い髪に青い瞳。ゲームだからこその配色。
細い眉に眺めの睫毛。すっきりと通った鼻筋に薄い唇。短く揃えられた青色の髪は、前髪の左側が紐を用いて編み込まれ一つのアクセントになっていた。くすみもない少し白目の肌も、余計な贅肉もない上に整ったプロポーションも、現実であればかなりの美形だと言える。
頬杖を止めて座り直したグラムをじっと見つめるアキは少し躊躇した後に口を開く。
「ほんっとうにごめん。でもあんな所で何してたの?このゲーム始めたばかりなんだよね?」
アキが前のめりに取りながら両手をテーブルから降ろして座面に手の平を乗せて突っ張った状態で聞く姿勢を取ると、その言葉を聞いたグラムは別段やましい事もないので素直に答えた。
「基本操作チュートリアルだけじゃ不安だったので確認しようとフィールドに出たんですよ」
アキは体を前後に揺らせながらも再度聞き返す。
「それで、あそこ?。うーん、なんというか間が悪いというか、それにしても最初でその装備ってどうなの」
アキが何について指摘しているのか分からないグラムは聞き返す。
「どうなのって?」
するとアキは自分の発言があいまいなためにニュアンスが伝わっていない事が分かり捕捉する。
「どうみてもマニアック過ぎてギルマッシュ・・・、えぇっと、わたしの所のギルドマスターが気にいりそうな装備だから。普通いないよ?そんな初心者」
途中伏し目がちになりながらもそんな発言をするアキを前にグラムは思う。
(なるほど。自分では普通に選んだつもりが実際はそうではなかったと)
グラムはアキの言葉に納得して話を続ける。
「つまり、初心者には見えない初心者風のプレイヤーが偶然を装ってたまたまあの場所にいた警戒していないプレイヤーを襲おうとしていたってことですか」
するとアキはそう言いたかったんだと言わんばかりに頷いて話を継ぐ。
「うん。わたしにはそう見えた。言い訳すると刀と魔法四属性の組み合わせを取得していて、壊れてもいいように四本も武器持っていれば初心者に見えないって。後はどれだけキャラクター作成時に特典付けているかだけになるから」
グラムはその言葉を聞いてふと思う。キャラクターの外見から魔法技能までわかるのか。視界上に重ねて表示されている情報にはそういった詳細な情報が表示されていないし、どこからすればいいのかも分からない。どうやるんだろう。聞いてみるか、と思いアキに尋ねてみる。
「その魔法技能なんですけどね。どうやったら相手の技能がわかるんですか?」
その問いにアキは前のめりになった体を元に戻し、すらすらと答えてくれる。
「それはスキルだね。【クリーチャー観察】というのがあって、それでおおよその戦闘技能は把握できるの。高レベルキャラは偽装できるけど今回の対象は初級クラスだし。あまり活用できる場面少いけどね」
(なるほど。外見だけじゃなく、持っているスキルからも判断したってことか。これはお互い運が悪かった?と言えるのか?)
などとグラムが思っていると、アキは続けて言った。
「でね。話を聞く限りじゃ、今からチュートリアルの後半、戦闘チュートリアルだよね?それ手伝うから許して欲しいんだけど?」