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2 はじめての言葉

時は遡る事、十数分前。

グラムはようやくキャラクター作成を終え、基本操作チュートリアルも済ませて冒険都市ボードに降り立った。

見える景色は中世の西洋の街並み。だが汚い。見ている地区が冒険者が集まる地区であり、貴族達上流階級や商人などの中流階級の人間が住む場所ではない。良く言えば生活感溢れる作りとも言える。

この地区の道はほとんどが地面が整地されているだけであり、所々に雑草が生えている。主要な道には石が敷き詰められていて馬車の往来が快適になるようにはなっているが、ここの住人の生活する道はただひたすら地面が見える。綺麗に開発されているというわけでもないようで、蛇行している道もあり、その粗さがより一層ここの住人の生活感を浮き出させている。

多少くたびれた感じのする木造の建造物は年季を感じさせ、かと思えば煉瓦や石造りの住居が無造作に軒を連ねている。二階の窓からは対面の建物の窓まで渡されたロープが目につき、そこには風になびく衣服が吊り下げられている。椅子を軒先に置いて座り、いつもそうしているような面持ちで何か雑談をしているらしい人々もいる。


「そこまで凝らなくてもいいんじゃないかな」


と思いつつ、グラムはこの地区からつながるフィールドへのゲートを地図で確かめる。初期装備はキャラクターメイキングに付随して行われるのですぐにでもフィールドに出ることができる。

グラムの服装は全体的に地味な色合いであり、色褪せているが深緑色の外套を纏い、麻布で編んだ衣服の上に革鎧を着込んでおり、革鎧はまだ新しく目立った傷もない。革鎧には金属製の胸当てが付けられており重要な部位を必要最小限守る工夫がされている。焦茶色の革のブーツを履き、腰の装帯には二対の刀をぶら下げ、背中にはライフルを片側に背負っている。背の中央には食料などを詰め込んだバックパックを背負い、その外見から旅人である雰囲気が滲みでている。装備を整えた事で、最初に与えられた所持金はほぼ残額がなくなりそうだ。残額が数日分の宿代にしかならないので早めに補充が必要だろう。


「と、あれか」


とりあえずは基本操作チュートリアルを済ませたものの、操作の再確認がしたいと思ったグラムは、フィールドに出て戦闘操作を確認するつもりでいた。そんな些細な事がきっかけになるとも知らずに。



このゲームでは特別な状況を除いて街中では武器の出し入れや振り回しは出来ないため、街を探索途中に見つけたフィールドゲートに近づいていく。道往く人々を眺めながら、ぽつぽつと点在する露店を確かめ、また、|徐〔おもむ〕ろに酒場を覗き、かと思えば武器屋が並べる武器を一瞥していく。テーブルの上に並べられた商品や武器、更には酒場で騒ぐ人達を見て、グラムはそんな光景に普段の日常との違いを感じさせられる。


そうして辿り着いたゲートは通常のゲートではなく、転移するタイプだ。アーチを描く縁の中には街中とは違う景色が存在していた。アーチの周辺には警備兵が警護に当たっており、異常に備えて警戒し通行する人物の監視を行っているのだろう。アーチは銀色に輝く金属から出来ており、そこには何か文様が施されている。文様は光をうっすら放ち、さもそれがアーチが現在稼働中である事を示しているかのようだった。アーチをくぐればその先は街の外となるフィールドであり、街中のような加護は期待できない。


街中では加護が受けられ、ここはいわゆるデミリタリーゾーンやピースゾーンと呼ばれる場所になり、この内部ではプレイヤー同士での戦いが制限され、攻撃が出来ないようになっている。街中で対戦がしたい場合は闘技場に出向く必要があり、街中での戦闘行為は特別なイベントを除いて不可能になっている。


そういった理由があり、街中ではチュートリアルの確認が出来ず、また、闘技場で誰かに話しかけられるのを嫌ったためにグラムはとりあえずフィールドに出てみようと考えた。

すこし練習するだけ、と割り切ってグラムはゲートをくぐった。


ゲートの先は平原となっていて、すこし先に森が見え、振り向くと遠くにボードの街並みが見える。かなり広い平原で、そんな景色をあまり見た事がないグラムには新鮮な風景だった。風に揺れる背の高い草と照りつける太陽が爽やかさを感じさせ、こじんまりとした街中から突如として広い空間に出た事で解放感を感じもし、どこかグラムの気持ちをゆるやかにさせてくれる。周りを眺めると近くにモンスターはおらず、ただ1人、こちらに背を向けたまま腕を組んでいる冒険者らしき人物が立っていた。

プレートメイルと呼ばれる金属鎧に長剣と盾を持ち、同じようにバックパックを背負っている。グラムは自分と比較して、そのプレイヤーらしき人物がこのゲームの経験者らしいと判断した。キャラクターメイキングの時にも確認したのだが、最初の所持金ではプレートメイルなんてものは高くて買えなかったのだ。


(練習も兼ねて折角だから話しかけて情報を得よう)


グラムはそう思い話しかけようとしたが、そのプレイヤーは腕を組んだまま一言も発しようとせず、微動だにしない姿に躊躇してしまった。そのため話しかけるのを止めて仕方無く操作練習を行う事にした。とりあえず武器を抜き、二本の刀を両手に持ち、目の前の冒険者の方を向いてみる。ノンターゲティングの、わざわざ対象をロックして攻撃する必要のないものだが焦点を併せた場所に何か人物なりクリーチャーが居れば、対象の名称と大体の相対危険度が表示される。


(で、あとは振るだけか)


グラムはそう思い、目の前の冒険者を見ていると突然胸の後に強い圧迫感が生じると共に一瞬視界が赤く染まり、攻撃を受けた事を表現した。グラフィックステータスに胸の部分が赤く表示された直後に画面が暗転する。わずかな時間な後に若干明るさを取り戻したがそこに表れた言葉。


「あなたはその日、血の華を咲かせました」


あれ?もしかして倒された?

いきなりの事で状況を飲み込めていない所に聞こえる声。


「なぁーんかあっけないぁ。でも残念。これに懲りたらPKなんてやめてね」


(PK?ああ、プレイヤーキリングだったか。そんなつもりはなかったんだが・・・)


グラムはそう思い、なにか勘違いされているようなのでウィスパーチャットで話をすることにした。


しかしゲーム開始した直後にすぐやられ、モンスターの一匹もまだ何も倒してない。どうにもやりきれない感じがする。


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