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第1話 第4節 死者からのメール

 家に帰ると、いつもの通り真っ暗だった。

 祖父と一緒に暮らしているはずなのだが、祖父が家にいるのは年に2週間ぐらいだ。実質、一人暮らしという事になる。

 dollの開発と言うのは家に帰る暇もないらしい。

 ディスクトップのパソコンに電源を入れると、dollのパーツショップのメルマガが幾つか届いていた。他に目新しいモノはない。

「じいさんは、相変わらずか……」

 便りがないのは、元気だと言う事だろうが、孫の事は心配しないのかあの人は…… まあ、これもいつもの事だ。

 シャワーでも浴びようかと、シャツを脱いだところで、パソコンから『THE RIDE OF THA VALKYRIES(ワルキューレの騎行)』が流れだす。 画面の中ではメールを持ったワルキューレのキャラクターが飛び回っている。新着のメールが届いたようだ。

「なんだ?」

 見てみると、添付ファイルはなし、ウイルススキャンにも異常なし、差出人…… 「深水ふかみ卓也たくや」とある。呆然とした…… 4年前に死んだ父親の名前だ……

「そんな馬鹿なことが」

 我が目を疑った。どこか冷静な部分でただのイタズラか、同姓同名の間違いメールだろう。と訴えている。だが、武人は無視する事が出来なかった。

 深呼吸をしてEnterキー押した。




 武人は1人、廃倉庫の前に佇んでいた。武人の死んだ父親の名前からのメールには、『アスガルド社の旧倉庫にて、0時。』とだけ書かれていた。

 いたずらだろうから無視してもかまわなかったのだが、なぜだか、無視してはいけない予感がした。それに、こんなセンスの悪い悪戯をするやつにも興味があった。

なにもなければ、ちょっとした話のネタには、なるはずだ。

 この旧倉庫は、元々アスガルド社の物流倉庫だったのだが、10年前に本社の隣に移転して以来、無人となっている。管理もいい加減で、近所の子供たちの絶好の遊び場になっていた。

「ただのいたずらか」

 時計を見ると0時20分。我慢の限界だ。帰ろうときびすを返す。

「深水 武人君?」

 突然の呼びかけに振り返ると、闇に溶け込むように男が立っていた。黒いスーツにご丁寧にサングラスまでかけている。ただのサングラスではないだろうことは疑いようもない。

「あんたは?」

「ASS、アスガルドセキュリティーサービスの者だが、君に話を聞きたくてね」

 武人は男を睨み付ける。

「そういうことは、常識的な時間にしてもらえませんか? 何を聞きたいのかわかりませんが、あんな悪戯みたいなメールで呼び出すのはセンスが悪い」

「だが、君はここにいる」

 武人は目を伏せた。

「……何が聞きたいのです?」

「うん?」

「僕に聴きたいことがあるのでしょう? 遅刻してきた上に身分証明すら提示しない人の質問に、答えてやると言っているのだけど?」

 男はあっけに取られたようだ。お望みどおり拒否してやったらよかったか? だがこんな時間に偽りのメールで人を呼び出して置いて、身分証明書すら提示しないヤツだ、本当にアスガルドのセキュリティーサービスの人間だとしても、会社に無断で動いているか、非合法活動の真最中、もしくは、よほど人に知られたくないのかのどちらかだろう。

 そのくらいの判断ぐらい武人にも出来る。

深水ふかみ尚武しょうぶ博士のことなのだがね。最近、彼から何か預からなかったかね?」

「じいさんなら3ヶ月ほど家に帰ってきていないぞ。そっちのほうが詳しいだろ? 小包どころか、メールのひとつもよこしやしない」

 正直に答える。

「本当だな?」

 男はドスの利いた声で聞き返す。

「アスガルドのセキュリティーは、鉄壁と聞いていたが、実態はザルか?」

「ふっ、そいつは手厳しいな」

 男に苦笑が浮かんだ。

「だが、理論上いくらソフトやハードが完璧でも、作り使うのは人間だよ、武人君」

「それでも、監視カメラやセキュリティー機器の何十にも及ぶチェック記録に、痕跡こんせきを残さず行動できる人間はいない」

 武人の切り返しに男は満足げに頷く。

「君の事は気に入った。どうだね、卒業したらアスガルドのセキュリティーにこないか? どのような状況でも冷静に物事を考えられる人間は、貴重だ」

「大学卒業まで6年ほどありますよ」

 4年制大学卒というのが、アスガルドの最低入社条件だ。

「そうだな。高卒だろうが優秀な人間は多いのだが、上層部はそうはとらないからな」

 会社の人間が聞いたら、えらい騒ぎになるだろうな。と武人は思った。

「深水博士だが、あるものを隠匿したということで業務上横領の容疑がかけられていて、身柄をセキュリティーサービスで預からせてもらっている。何か届いたりしたら梱包こんぽうを解かずに先ほど送ったメールのアドレスに連絡をくれないかね? 上層部はそれさえ戻れば起訴を見送ると言っているのでね」

「わかった。殺しても死にそうにないじいさんだが、大切に扱ってやってくれ」

 武人は、闇に溶け込むようにその場を去る男を見送った。


なんとなく眠れなくて更新してしまいました。仕事がいつもどおりあると言うに……(ただいま午前2時30分)


やっと事件が発生しました。と言うわけで物語が動き出しますよ。やっと(笑


ちなみにASSの男がしていたサングラスには暗視機能が付いております。


では次回『眠り姫』でお会いしたいと思います。

やっとブリュンヒルデの登場ですよ。


追記

それから更新の件ですが、前言を撤回して第2話(全5節)までは、今月中にやろうかと思います。

第2話ではブリュンヒルデの描写も多いですし、戦闘シーンも入る予定です。

その分『聖魔戦記 前奏曲』の更新速度が落ちますし、書きかけの短編も放置プレイになりそうですが、しょうがありません。

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