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第1話 第2節 ハンドメイドdoll

「よし、異常なし」

 深雪の家は小さなレストランを経営している。人手が足りないといわれて武人が組み立てたdollを皿洗いなどの雑用に使っていて、そのせいで定期的にメンテナンスに来ているのだ。

 最新技術の塊であるdollも、自分で組み立てればだいぶ安上がりだ。メーカーのスタンダードクラスで50万、自分で組み立てれば、その6割ほどの金額で同クラスのdollが組める。むろんメーカー保障はないのでメンテナンスやソフトのアップデートは所有者が自分で行わなくてはならない。

「ありがとう。武人君、お礼に夕飯食べていってくれ」

 武人は笑いながら美由紀の親父さんに礼を言った。元々金を取るつもりはなかったので、ここも無報酬で面倒を見ている。代わりにメンテナンスに来た日は夕食をご馳走になるという寸法だ。

 ウチの亡くなった両親と美雪の親父さんとは中学時代からの親友だそうで、美雪の母親とのそもそもの出会いはウチの両親の紹介だとか。

 ちなみに美雪の母親の美冬みふゆさんはウチの両親が勤めていた『アスガルド』という企業の『Doll開発室』の後輩だったそうだ。その上、アスガルドの社長令嬢で、料理人である親父さんとは駆け落ちして一緒になったと聞いた。

 その気になれば美冬さんが自分でdollを組むことも出来るしメンテナンスにしても、もしかしたら俺より上手くできるだろうが、表向きは俺に全て任せてくれている。たまにソフトやハードが改良されていることがあって、実に勉強になる。

「武人……」

 親父さんと話していると、小さな声で深雪が声を掛けてきた。

「うん、どうした?」

「あ、あのね、武人疲れている?」

「言いたいことは、はっきり言え。俺は超能力者じゃない」

 普段の深雪は、物事ははっきり言うほうだ。言いよどむと言う事は「武人も疲れているだろう」とか、変な気の使い方をしている時だ。

「私のノームもみてくれない?」

 ノームというのは、深雪のdollで白雪姫に出てくる7人の小人をモデルに武人が組み立て、去年の誕生日にプレゼントしたやつだ。

「分かった、つれてきな。ここで見るよ」

「あ、あの私の部屋にこない?」

「それは、まずいだろ。親父さん達の前だぞ」

 からかい半分で美雪に言うと予想通りの返事が返ってきた。

「そんな意味じゃないわよ! 厨房じゃ落ち着かないし……」

「別に構わんぞ」

 ビクッとした。いつの間にか、仕事に戻ったはずの親父さんが背後に立っていた。

「何かあったら、責任取ってくれればいいし、武人君のことは信用している」

 なんてこと、言いやがるのだか…… まあ、確かにここでは落ち着いて話すことも出来ない。

「それじゃ、上がらせてもらうよ」

 そう言って奥に上がる。そう言えば深雪の部屋に上がるのは5年ぶりなんだよなぁ。と、どうでもいい事を考えた。




「痛い、痛いですぞ。深水殿」

 深雪の部屋に行くと、全長60センチの三頭身の小人が膝を抱えて痛みを訴えていた。

『痛覚システム』これまでのdollは故障時、エラーメッセージとしてマスターに通知する。そのエラーメッセージを痛みとしてマスターに教えるのが痛覚システムだ。意外とありそうでなかったシステムだが、去年の文化祭で武人が一般に発表し特許も取った代物である。

 メリットとしては、故障だけでなく小さな傷や変調も感知し、早期発見、修理が可能になったことだ。現行のシステムではある程度の予防のためのエラーはでるが、基本的に故障してからでないとエラーメッセージは出ない。

 デメリットは、ノームのように顔に人工筋肉と人工皮膚が使用されたモデルなら問題はないが、安物の表情を変えることが出来ない強化プラスチックの顔をしたモデルだと、無表情や笑顔のまま「痛い」と訴える。はっきり言ってシュールな光景だ。

 で、ノームはという、苦痛に顔をゆがめ、目からレンズ保護用の洗浄液を流し、泣いていた。当然、ドールが泣くのは気持ち悪いと言う人もいる。

「ちょっと待ていろ。今システムをカットするから」

 武人はノートパソコンをノームに繋ぎ、膝の痛覚感知システムをカットする。これで痛みは無くなったはずだ。

「おお、かたじけない。それではお茶でも……」

 武人は慌てて動こうとするノームを押さえつけた。

「まだ、終わってない。良いと言うまで動くな」

「頭を押さえられると、痛いでござるよ」

 武人は自分でプログラムした診断プログラムでスキャンする。右ひざのモーターが黄色いシグナルを出した。自分で組み立てたdollは、すべてこのプログラムに対応している。

「膝のモーターの出力が落ちているな。取り替えれば大丈夫だよ。30分ぐらいで終わる」

 深雪が安堵の表情を浮かべる。

「それじゃ、夕飯をご馳走になる前に直してしまうよ」

「武人、ありがとう」

「ああ、それからな、今までも何度か言ったかと思うけど、俺に変な気はまわすな。いつもは、はっきりものを言うくせに、変なところでいらない気をまわすのは悪い癖だと思うぞ」

「うん、わかった」

 美雪がそう返事したものの、多分なおらないだろうなぁ。と思う武人だった。


ブリュンヒルデ、まだ出てきません(笑


ぶっちゃけ、第5節に登場予定です。

それまでは、武人やdollの周辺の設定説明になるかと思います。


では次回 『第1話 第3節 武人と美雪』でお会いしましょう。

多分、今夜あたり更新かな。

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