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第2話 第5節 闇 うごめく者達

「大阪支社の連中に出し抜かれるとはな」

 背もたれの高い椅子に深く腰掛けた壮年の男が、ダークスーツを着た直立不動の男をその鋭い目で睨む。

「申し訳ありません」

「いい訳は無しか。お前らしいといえばお前らしいな。まあよい。さかき、お前は通常の業務に戻れ。後は……」

「その仕事、私たちにお任せください」

 ダークスーツの男、榊の背後から女の声が聞こえた。振り返らなくても分かる、表向きは眼前の男の秘書ということになっている女。

「ほう、お前たちにな」

「家出したブリュンヒルデを連れ戻すのは、姉の役目でありましょう?」

 榊の隣に立った女の顔は整ったものだったが、人間の持つ温かみというものが欠落していた。

「今は人目につくようなことはするな。その辺は妹たちにも徹底させろ」

「はい。それからブリュンヒルデと行動をともにしている博士の孫は、いかがなさりますか?」

「お前らに任せる。だが、私の言いたいことは分かっているな、オルトリンデ」

「はい、必要とあれば私が迎えに行きます」

 男はオルトリンデの言葉に頷いた。




「お待ちください。榊部長」

 自室に戻ろうとした榊は、女に呼び止められた。腰まで届く黒髪に大きなメガネが特徴的な女だ。写真で見たブリュンヒルデを5年程成長させたらそっくりだろう。

「ヴァルキューレか。何のようだ?」

ブリュンヒルデと行動を共にしている少年のデータを渡してください」

 榊は口元を自嘲的に歪めた。

「お前らなら、ウチのセキュリティーを騙すことぐらいは朝飯前だろう?」

「そういうことは、任務以外ではしません」

「そうか。ならば、あとで部屋まで取りにこい。準備しておいてやる。ヴァルキュー…… いや、あんた名前は?」

 女は少し躊躇ちゅうちょしてから答えた。

「ヴァルトラウテ」

 女、ヴァルトラウテが微笑む。その微笑に榊は引き込まれそうになった。

 なるほど、人の中で溶け込んで活動することを前提に作られているだけのことはある。榊もヴァルトラウテがdollだと知っていなければ、彼女の微笑みに引き込まれ無条件で協力していたかもしれない。榊はそのままきびすを返し自室に向かう。

「機械人形ごときにな」

 榊のつぶやきを、ヴァルトラウテの聴覚器官はしっかりと拾った。

 榊は「機械人形」と、dollの侮蔑的な言葉を聞いたヴァルトラウテの顔が、悲しげに歪んだことに気が付かなかった。




「ちくしょう! あんなヤツに! あんなヤツに!」

 赤毛の少女、ウルドが部屋の中を歩き回る。カリカリと不機嫌そうなオーラが出ている。

「落ち着きなさい。ウルド」

 たしなめたのは栗毛の美女、ヴェルダンディだ。彼女は表紙に社外秘と書かれたぶあついファイルを読んでいる。彼女は近距格闘戦から遠距離支援、電子情報戦までこなすオールラウンダーな機体だ。そのためにチームの指揮を取ることが多い。

「私はウルドの気持ちが分かる」

 横から口を挟んだのは黒髪のスクルドだ。彼女は部屋の隅で対doll用狙撃ライフルを磨いている。彼女は中、遠距離支援用に調整されている。

 ヴェルダンディはため息をついた。

「その屈辱を晴らすために、情報収集しているのだから静かにして頂戴」

 スクルドは何も言わずに、また狙撃ライフルを磨き始める。

 ウルドは部屋の外に出る。廊下に出たところでヴェルダンディが呼び止めた。

「ウルド。その屈辱は貴方だけのものではないのよ」

 ウルドの背後で扉が閉まった。




「目覚めないでござるな」

 ヒルトを黒い棺に納めて1時間になる。その棺の中を覗き込んだノームのセリフが、その場にいる武人と美雪の心情を代弁している。

「本当にこれでいいの? 武人」

「さっき一緒にデータチップ見ただろう。じいさんの冗談じゃなければな。とりあえず、おじさんに連絡入れておけ、心配しているかもしれない」

 携帯で連絡を入れている美雪を尻目に、ヒルデの入っている棺を覗き込んでいるノームの隣に立ってヒルデの様子を見るが、これといって変化はない。

「武人。お父さんが武人に代われだって」

「へっ?」

 美雪の携帯を受け取る。

「代わりました。武人です」

「おお、武人君か。男親としてはさびしい限りだが、美雪を頼むな」

「ちょっと、おじさん、それはどういう……」

 プチッと音がして通話が切れる。

 武人は慌ててリダイヤルする。数コール待って繋がる。

「はい。九十九です」

「美冬おばさん。武人ですけど、おじさんに代わってください」

「いないわよ」

「今、電話で話したばっかりですが?」

「たった今、出て行ったもの。多分、駅前の屋台じゃないかしら」

 「はぁ」と脱力する武人。

「すみません。ありがとうございました」

「おやすみなさい、武人君。それから、避妊はちゃんとするのよ」

 プチッ、ツーツー。

 美雪…… お前の両親って……

「美雪、おじさんになんと言った?」

「武人の家にいるから、少し遅くなるって言っただけよ」

 それがどうしてあの展開になる?

「そうか、以前から変わっている人たちだとは、思ってはいたけど…… はぁ」

 武人がため息をついた時、ノームが声を上げた。

「武人殿。ヒルデ殿が目を覚ましたでござる」

 長い夜になりそうだった。


関係者各所で重苦しい空気の中、武人たちのところだけ妙に緊張感がありません(笑


ちょっとだけ補足

オルトリンデ:アスガルド社、ヴァルキューレシリーズの1番機。

ヴァルトラウテ:アスガルド社、ヴァルキューレシリーズ2番機。

詳しい説明は本編にて。

あと、『アスガルド』ではなく『アースガルド』ではないですか? との質問を受けました。

正解は『アースガルド』です。でも、響きが悪いなぁ。と思い本作では『アスガルド』にしてます。

ノルンの名前を英語読みにしているのも同様です。

ウルズ→ウルド ヴェルザンディ→ヴェルダンディ


これにて第2話も終了です。(と同時に書き溜めてあった在庫もすべてはけてしまいました)

今後のスケジュールとしては『戦乙女の補習授業』の3時限目と4時限目を今月中に更新したあとは、月1、2回の不定期更新となります。

読者様の反響があれば多少速くなるかもしれません。 


では『第3話 激突 戦乙女の姉妹』の『第1節 驚愕 ラグナロック』にてお会いしましょう。


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